俳句集『たらざり』

凛七星

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第十三章

『葉ずれ聴く』

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耳にする遠雷わずかに秋の立つ




冬瓜を挘ぐ手を露に濡らしたり




けだるげな手に冬瓜の冷やし鉢




ぐったりと旅の途中の秋暑し




大瀑の響き秋暑の空へ飛ぶ




名を知らぬ人と語らふ草の花




誰も来ぬ無縁仏に草の花




アフリカの大地を見たしオクラ食む




戯れる仔猫くしゃみすオクラの実




初風や覗く峡谷ささめいて




初風や余命宣告されし友




盆路や虫の楽団にぎやかに




眞菰刈る盆路の影のしめやかさ




流星や己がすべてを燃焼し




星飛んで友また一人逝くを知る




負けレース愚痴る寝酒に轡虫




がちゃがちゃも雷鳴に消ゆ墨絵の夜




秋茗荷「冥加にわるい」ことはせず




予感するBAD ENDに秋茗荷




病床の友や夜いかに草虱




人物はよく見て選ぶ草虱




秋鯵のフライの音と鼻唄す




秋陰や恋の埋火ともりけり




秋陰に脱ぎ捨てられし白下着




威勢よくバケツで撥ねる秋鯵や




蒼天も静まり御山洗かな




座す雲の真白き富士の山洗




灼熱の恋も破れて秋出水




流木の砦のごとし秋出水




処暑とゆう日でも猛暑と熱帯夜




レプリカの羅生門燃す処暑の陽や




吾だけが取り残されて法師蝉




つくつく法師ばかりで過ごし夕は来し




自然薯や手がけ栽培される身に




タネどこで切ろうが芽出る山芋や




初秋の無人のプール掃除する




ビールやめ日本酒にする初秋の夜




なた豆茶すすり庭見る老夫婦




刀豆で断てぬか政治家の膿や




白狼は神の使いか朝霧に




朝霧とコーヒーの香と山の宿




サルビアを枯らす男の恋の秋




サルビアや寂寥の彩それぞれに




徹夜明け秋の昼寝で日は暮れる




秋の昼テレビショップは御節売る




人影に葉へ隠れたる石叩




朝の雨だまりに遊ぶ石叩




休暇果つ目立つデスクの走り書き




台風の音だけの夜の誕生日




野葡萄と小豆の色を比ぶる子




料理する野葡萄のよなネイル色




子のときと違ふ木登り秋手入れ




おもうよに整わぬ庭木刈る午後




新涼の静けき朝に身じろぎぬ




灼けた首腕脚背へと新涼や




書き文字が躍る路傍の梨売りや




ピンポンと鳴らす梨売り声高し




台風を待つ静けき夜まさぐりぬ




仰臥する人か野分か寂し音




寒蝉や生を燃す日の翳りたり




無花果や裂け薄桃の肉みだり




葡萄食むことも厭わし夏疲れ




明月や星と虫の音はれ舞台




ささくれて十六夜に注す酒深む




逢いとうて立待月の走る宵




野良猫はどこから来たか座待月ゐまちつき




深酒す臥待月ふしまちつきの帰路ふたり




宵闇のイムジン河に酔ひ深む




安寧とは何か問ふとき星月夜




繊月や指には憂ひの露のあり




颱風の前夜に濡れたひと来たる




暗雲の垂れる家路に秋燈火




吾が花壇どこを気に入り草雲雀




蕭颯と胸をうちたり秋の聲




一人寝の肌のつめたし秋袷




路地路地は静かな影の秋彼岸




洛中の旧家いそがし秋分や




廃屋の紅殻べんがら褪せて蔦青し




秋霖や何を悼むか国葬儀




生さんま買えぬ非正規手にす缶




露に濡れ小さき薔薇あり路地の翳




車庫に着く電車の寝入る秋の夜半




秋天やヘイトクライム予告あり




湿りたる案山子や袖に朝日さす




鮒釣の老いた背に添ふ蘆の花



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