『競艇放浪記』

凛七星

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序章

【連載にあたって】

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 古今東西を問わず文壇ではギャンブルものや賭博ものをテーマやモチーフ、マテリアルにした名作は少なくない。

 いわゆる諸般の事情というやつで、しばらく大阪に居を構えていたわたしはアニメ『ムーミン』に登場する流離の放浪者スナフキンのような生き方をすることになったのだが、それを知ることになった執筆においての押しかけ弟子から阿佐田哲也氏の名作『麻雀放浪記』をもじって『競艇放浪記』なんぞをこの機会に書けばとそそのかされ、ついついわたしもその気に少しなってしまった。

 弟子が弟子なら師匠も師匠。

 実はこの弟子もけっこうなギャンブル好きで競馬などは「そこまで行けばどん詰まり」と言われる公営地方競馬にまで足を向けるほど。そんな人物にわたしは未経験だという競艇のおもしろさを得々と話したものだからたまらない。いまではどっぷり競艇勝負にハマリまくっている。

 そもそも弟子の言い出した『競艇放浪記』という話は阿佐田氏の作品のことだけがヒントではない。いまや売れまくっている女性漫画家・西原理恵子女史が「女無頼派」と注目を浴びるきっかけになった四コマ漫画の名作『まーじゃんほうろうき』や女史のイラストと競輪にまつわる伊集院静氏のエッセイのコラボ血みどろ絵日誌シリーズの『どうにかなるか』や『それがどうした』とか『たまりませんな』といったギャンブルという本音や本性を剥き出しにする場で起こったいろいろな人間模様をときに面白おかしく、ときに深く含蓄がある話のように、まとめてみればどうかというのだ。

 当初は「オレはね、諸般の事情で危険が危ないから身をかわすのに…いったいオマエは何をほざいて……」と弟子に説教をタレたのだが、よくよく考えれば逃れ者に博奕場とはあまりにできた話。それに日々を生きる糧をまともな仕事で得るなど考えられない身の上だ。身を隠すという点でも、同じ匂いをさせた大勢の輩の中にいた方が紛れこむのでは……なんぞとギャンブル好きによくある自分勝手に都合よく展開を読んでしまう性癖が出てしまう。

「うん、まぁそれもいいかもね」と、その気になってしまったわけである。



 これまでもSNSなどで競艇の最高グレードSGレースが開催しているときなどは「あほんだら予想師」ぶりを発揮して、熱く自分の展開の読みを語ったりしていた。

 なにしろ大阪市内に在住していたころは競艇のメッカである住之江競艇場が近くにあるという環境。くちさがない連中はそれが理由で住むところを決めたはずと勝手に言う始末だ。いやだがそれも当たらずとも遠からずか。

 ところで、いまでは競艇に限らず競馬に競輪、オートレースと公営ギャンブルのすべてがインターネットで投票できるレースもライヴで見られるという時代だ。まったくもって便利ではあるが、これ行政とネット銀行の連中たちが手を組んで健気に稼ぐ庶民の懐から金を吸い上げる極悪非道なシステムとも言える。

 それはともかくパソコンを使って自宅などで快適に寛ぎながら勝負するというのもいいが、やはり勝負事では場の「熱さ」に身を浸してこその味わいがある。

 競艇では本場(ほんじょう)に御上から公認された予想屋という職業の連中が、さもありなんな予想を競り市のダミ声よろしく胡散臭い口上で説くのをBGMにして、売店で買ったご当地なB級グルメなどを頬張りつつビールで喉を潤してみる。

 競争水面の方へ進めば2サイクルのエンジン特有の響きと、木の葉のようなボートが走るというよりは飛び跳ねて水を叩く音が耳を刺す。また東京や大阪、福岡などの都会にあるレース場は別だが、地方になると場内に流れるウグイス嬢のアナウンスも少しばかり訛りがあったりしてご愛嬌だ。

 そしてレース本番では勝負どころのターンマーク近くにいれば競り合うボート同士が相手を蹴散らそうとぶつかり合う音までしてくる。水上の格闘技と称される雰囲気を楽しめるのである。

 さらになんといっても賭けに来る者たちの野次や罵り、嘆き、そして哀愁さえ漂わす姿に囲まれてこその醍醐味であろうというもの。

『競艇放浪記』ではレース場で渦巻くいろいろな「物語」を北は群馬の桐生から南は長崎の大村まで全国にある競艇場をできるだけ巡りつつ書けないだろうかとおもっている。



 あ、そうそう。いまはイメチェンを図ろうとして「競艇」ではなく「ボートレース」という呼称で統一して協会は定着させようとしてるが、わたしはやはり競艇という言葉の方がしっくりくる。だから、ここではあえて「競艇」という名前でいきたい。

 さて、どんなエッセイになるのか…。こればかりは本人も知らない。人間物語として楽しんでいただけるものを…とは考えている。


つづく

※このエッセイは約10年前に書いたものに手を入れて掲載しています。
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