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影と鍵の邂逅
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――闇に包まれた倉庫の奥、蒸気の粒子が淡く舞う中、鎧姿の人影が静かに佇んでいた。
仮面越しに見える視線は冷たく、リゼットの心拍を一瞬で加速させる。
「……誰だ、あなたは?」
リゼットは細い声で問いかけながら、胸の前で鍵をしっかり握りしめた。手のひらに伝わる微かな振動が、不安を抑えようとする彼女を支えている。
人影は無言のまま、そっと腰の短剣に手をかけた。金属が擦れる音が、暗闇にこだまする。
――その刹那、鍵が鮮やかな蒼白い光を放ち始めた。
燐光のように鍵の輪郭が浮かび上がり、二人の間に薄い光の膜が張り巡らされた。リゼットの前髪がふわりと揺れ、蒸気のせいか膜の表面がゆらゆらと揺らめく。
「……光っている?」
書記官が遠巻きに呟き、震える手で報告書を抱え直す。
リゼットは鍵の声を思い出した――「証明せよ」。それだけを胸に、静かに光の膜を見つめる。
人影が一歩、踏み込む。短剣を振りかぶる動作が、光の膜に触れそうになる。
――リゼットがただ胸の奥で「助けてほしい」と強く願った瞬間、鍵が自律的に蒼白い光を炸裂させた。
バンッ!
倉庫内の試作品が一斉に宙に浮き、重力が逆転したかのような衝撃波が広がる。粉塵と蒸気が渦を巻き、天井の鉄管が悲鳴を上げて崩れ落ちそうになる。
激しく揺れる床に、リゼットは両膝をつく。光の膜が薄紙のように破れ、彼女も人影も瓦礫の下敷きになりかけた。
「い、いけない!」
鍵の囁きがかすかに聞こえた――「共に」。リゼットは傷だらけの手で鍵を胸に押し当て、小さく念じる。
――光が閃き、瓦礫に押し潰されそうになった二人をふんわりと浮かせた。
ほどなくして粉塵が晴れると、リゼットは相手の腕を引き、危機を回避する。仮面の下からこぼれた汗と埃にまみれた顔は、青年のものだった。胸にははっきりと、王国親衛隊の紋章が刻まれている。
鎧の破片が床に散らばり、青年は荒い息をしながら仮面を外した。短い銀髪と鋭い碧眼。薄く切れ長の瞳が、リゼットをじっと見つめる。
「お前が……鍵の持ち主か」
声は低く、しかし確かな驚きが混じっていた。
リゼットは震える声で頷いた。
「そう、私は――」
だが青年は続けた。
「俺も探していたんだ。鍵を持つ者を。次は東の砂漠で会おう、と伝えに来た」
言い終わると、彼は背を向け、暗がりの中へと歩き去ろうとした。リゼットは思わず呼び止めようとしたが、足がすくんで動けない。
――ただ、胸の奥で灯った炎のような決意だけが、確かに熱かった。
仮面越しに見える視線は冷たく、リゼットの心拍を一瞬で加速させる。
「……誰だ、あなたは?」
リゼットは細い声で問いかけながら、胸の前で鍵をしっかり握りしめた。手のひらに伝わる微かな振動が、不安を抑えようとする彼女を支えている。
人影は無言のまま、そっと腰の短剣に手をかけた。金属が擦れる音が、暗闇にこだまする。
――その刹那、鍵が鮮やかな蒼白い光を放ち始めた。
燐光のように鍵の輪郭が浮かび上がり、二人の間に薄い光の膜が張り巡らされた。リゼットの前髪がふわりと揺れ、蒸気のせいか膜の表面がゆらゆらと揺らめく。
「……光っている?」
書記官が遠巻きに呟き、震える手で報告書を抱え直す。
リゼットは鍵の声を思い出した――「証明せよ」。それだけを胸に、静かに光の膜を見つめる。
人影が一歩、踏み込む。短剣を振りかぶる動作が、光の膜に触れそうになる。
――リゼットがただ胸の奥で「助けてほしい」と強く願った瞬間、鍵が自律的に蒼白い光を炸裂させた。
バンッ!
倉庫内の試作品が一斉に宙に浮き、重力が逆転したかのような衝撃波が広がる。粉塵と蒸気が渦を巻き、天井の鉄管が悲鳴を上げて崩れ落ちそうになる。
激しく揺れる床に、リゼットは両膝をつく。光の膜が薄紙のように破れ、彼女も人影も瓦礫の下敷きになりかけた。
「い、いけない!」
鍵の囁きがかすかに聞こえた――「共に」。リゼットは傷だらけの手で鍵を胸に押し当て、小さく念じる。
――光が閃き、瓦礫に押し潰されそうになった二人をふんわりと浮かせた。
ほどなくして粉塵が晴れると、リゼットは相手の腕を引き、危機を回避する。仮面の下からこぼれた汗と埃にまみれた顔は、青年のものだった。胸にははっきりと、王国親衛隊の紋章が刻まれている。
鎧の破片が床に散らばり、青年は荒い息をしながら仮面を外した。短い銀髪と鋭い碧眼。薄く切れ長の瞳が、リゼットをじっと見つめる。
「お前が……鍵の持ち主か」
声は低く、しかし確かな驚きが混じっていた。
リゼットは震える声で頷いた。
「そう、私は――」
だが青年は続けた。
「俺も探していたんだ。鍵を持つ者を。次は東の砂漠で会おう、と伝えに来た」
言い終わると、彼は背を向け、暗がりの中へと歩き去ろうとした。リゼットは思わず呼び止めようとしたが、足がすくんで動けない。
――ただ、胸の奥で灯った炎のような決意だけが、確かに熱かった。
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