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第1章
ミッション5:おうち環境を整えよう!
しおりを挟むアパートにたどり着いたのは、まだ夕方とも言えない時間帯だった。
このくそ暑い季節に、ちょっとばかり重い瓶を抱えて駅から十五分。
着いた頃には俺自身がアンデッド状態。
「……流石に骨の折れるミッションだったぜ」
息を切らせながら玄関のドアを開けた瞬間――熱風が顔を叩いた。
「ただいま、ってか、あっつ!!」
真夏の締め切ったワンルームは、もはや灼熱ダンジョン。
くそ、任務完了目前で、突発ミッションかよ。
「エアコン、エアコン!!」
リュックと紙袋をひとまず床に置き、慌ててリモコン探索ミッションへかかる。
ベッドの上、机や棚の上を順に探してみるも見当たらない。
「だぁ!! リモコンどこだよ!!」
くっ、またしても自滅なのか。
おのれのだらしなさが悔やまれる。
『ほら、使ったら元の場所に戻す! いつも言ってるでしょう?』
ラスボスの声が脳内で自動再生される。
遠隔攻撃、威力Aランク。
くそ、地味に堪える……
積み重なる洗濯物の山を押し除け、DMやら空き缶やらを撒き散らしながら這いつくばって床の上を探す。
……あった。
なぜか一番最初に探したベッドの上で。
「おまっ、いつのまにステルス機能を!?」
ボヤきながらもすぐさま電源オン。
あーっ、ぬるい風でも今は救済魔法レベル。
ようやく人心地ついた気がした。
少し息を整えて、床に置いたリュックからさくらの入った瓶を取り出す。
「ごめんな、お前も疲れただろうに……」
棚の上を手でざっと片付けて、スペースを確保。
そっと瓶を置くと、中の水がゆらりと揺れた。
「……ふう、護送任務、無事完了!」
蓋を開けてやると、さくらはこっちを向いて口をぱくぱくさせた。
まるで「おつかれ」と言っているみたいだった。
⸻
水シャワーでHPを回復し、タオルを肩に掛けたまま瓶をのぞく。
さくらは相変わらず元気そうに泳いでいる。
「ちょっと待ってろな」
床に置いたままになっていた紙袋の中身を確認していく。中にはラスボス戦のドロップ品。
こっちには売ってない菓子パンと紙パックのジュース、焼き菓子、それに地元の珍味の数々。
俺の好物オンパレードだった。
「回復アイテムか……」
ちなみに弁当は新幹線の車内で食った。
定番の油淋鶏に、甘めの卵焼き、それから自家栽培のゴーヤで作った佃煮かなんか。
ゴーヤは嫌いだってのに……まぁ、食えんこともなかったが。
菓子パンの袋を開けて、ひと口かじる。
懐かしい、ふわっとした甘い香り。
不覚にも、心がじんわり温まった。
――そのとき、“ポワン”とスマホが鳴った。
【KoiLink:新しいミッションが追加されました】
「お、来たか!」
画面を開くと、ミニキャラさくらがぴょこっと現れる。
⸻
【ミッション:おうち環境を整えよう!】
⸻
「……おうち? もしかして水槽買えってこと?」
真面目に考える。
たしかにこのまま瓶というのも……狭いよな。だが飼育セットか……水槽、濾過器、砂利に飾り……って、結構な出費じゃないか?
そう思ってもう一度画面を見た瞬間――なんか違和感。
ミニキャラさくらの背景が、どう見ても汚部屋。
空き缶。
脱ぎっぱなしの服。
散らかったチラシ。
「……え、これ、俺の部屋じゃね?」
その瞬間、ミニさくらが駆けだした。
そして――
『わあっ!』
ビラに足を取られて、派手に転倒。
吹き出しがぴょこっと跳ねた。
『ゴンゾー……おうち、きたない』
「えっ!? まじかーー!!」
スマホを握る手が震えた。
画面のさくらは、ぷくっと頬をふくらませて腕を組んでいる。
⸻
【ミッション更新:掃除を始めよう!】
⸻
「ちょっ! 何その監視スキル。こわっ!」
まじで!?
言いながら、とりあえず片付け始める。仕方なしに。
さくらが画面の中で“がんばれー!”とぴょんぴょん跳ねている。
「えっ、どういう原理? マジで何なの?」
床に散らばったチラシを集め、空き缶をビニール袋に回収する。
瓶の中のさくらも、まるで俺を応援するかのように手びれをパタパタさせていた。
「……わかったよ。やりゃいんだろ、やりゃ」
洗濯物を畳みながら、気づく。
こんなふうに誰かの目を意識しながら生活するの、久しぶりだなって。
スマホをのぞくと、ミニさくらが親指を立てて“いいね”ポーズ。
……やっぱ監視スキル怖ぇわ。
⸻
【KoiLink:オーナーLv.2→ Lv.3】
【親密度+5(現在15/100)】
⸻
(to be continued)
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