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第1章
ミッション7:金魚ではない、だと?
しおりを挟む土曜日。
今朝もパッチリ目が覚めてしまい、時計をみるとまだ六時十五分だった。
「……うそだろ」
惰眠を貪ってこその休日、だよな。
二度寝を決め込み、寝返りを打つ。
だが、棚の上のさくらが尾を揺らしながら泳いでいるのが目に入った。
入ってしまった。
「…………起きるか」
身体を起こして、スマホを手に取る。
“ポワン”。
最近、初手からこれを開いてばかりだ。
『おはよー、ゴンゾー!』
「……おう」
ミニさくらが満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
画面に映るさくらの“おうち”は、もう汚部屋ではない。
瓶の中のさくらも、こっちを見つめて手びれをヒラヒラさせている。
なんだろうな、この不思議な世界。
そこに“ポワン”と新たな通知が。
⸻
【ミッション】
全身に朝日を浴びよう!
⸻
「……えぇー。
何この、健康管理アプリ」
とりあえず、素直に従う気にはなれず、まずはさくらに餌をやった。
『ごはん、ごはん!』
ミニキャラさくらが、喜びの舞を踊る。
例によって画面の中を右へ左へ駆けながら、落ちてくる餌をパックン、もぐもぐ、そしてごっくんだ。
⸻
【親密度+2(現在20/100)】
⸻
あいさつを交わしたからか、今日も親密度が少し上がった。
と、思ったら、続けて通知が現れた。
⸻
【KoiLink:親密度20達成!】
【さくらの品種が解放されました】
品種:紅白
⸻
「ほう。品種とな」
瓶の中のさくらを見る。
光の中で、白っぽくも薄桃色にも見えた。
「紅白って……どんな種類だ?」
そうつぶやきながら、まずはスマホで「金魚 紅白」と検索をかけてみる。
たくさんの画像がヒットするも、さくらとはなんだか形が違った。
続いて、ずっと気になっていた「鯉 紅白」で検索。
ヒットしたのは――錦鯉。
うむ。うちのさくらはちっちゃいけど、体型は断然こっちの方だな。
「……やっぱ、おまえ、金魚じゃなくて鯉だったのか」
瓶のさくらは、尾をひらりと振ってそっぽを向いた。
まるで「今さら?」と言わんばかりに。
「いや、しょーがなくね? ってか、金魚すくいだったろ?」
何となく言い訳をして、さらに調べる。
紅白とは、白地に赤い模様が入るのが特徴らしい。権威ありそうなホームページにそう書いてあった。
「白地に赤、か?」
瓶の中で泳ぐさくらは、白地とは言えるがどこにも赤い模様なんてなかった。
「本当に紅白なのか?」
言いながらベランダへ出ると、朝の光が差し込んでくる。
忘れてなどいない。
“全身に朝日を浴びよう”のミッション、たぶんこれでクリアだ。
手すりに腕をかけて何の気なしに下を見下ろす。
アパートの前には緑地帯があり、日当たりも良い。
そこを気に入って、このアパートに決めたのだった。
夏とはいえ、この時間はまだそんなに暑くない。
外は心地よい、新鮮な空気で満ちていた。
「あれ……下に、池なんかあったっけ?」
木々の間にちらりと光が反射して見える。
朝の光が、まるでエフェクトみたいに水面で揺れていた。
目を凝らすと、そこには数匹の鯉が泳いでいた。
「錦鯉……?」
赤、白、黒、黄。三階のベランダからでも、色とりどりの鯉がよく見えた。
「へぇ、黄色いのもいるんだ」
そうして眺めていると、麦わら帽子を被ったおっちゃんがやってきた。
手には小さなスピーカー。
それを、池のそばの大きな岩の上に置く。
ほどなく、風に乗ってあの歌が聞こえてきた。
「うわ、ラジオ体操か。懐かしい!」
六時半から始まったそれを十数年ぶりに噛み締めていると、スマホからまた“ポワン”。
まさか、と思いながら恐る恐る画面を見る。
⸻
【ミッション:ラジオ体操しよう!】
⸻
「やっぱりか! てか、やらねーから!」
(ミッション拒否モード:オン)
(現実にログアウトしました)
ベランダから部屋に戻りつつボヤく。
「早起きにラジオ体操とか、おじいちゃんかっての」
え、コイリンクって、実はそういう?
俺の名前、権蔵だし、無いとは言えんな。
くだらないと思いながらも、口の端が少しだけ緩んでいた。
そこにもう一度、ポワン。
今度はなんだ?
⸻
【ミッション拒否:検知】
【ペナルティ:???ゲージ10%ダウン】
⸻
……いやいや、ペナルティとかやめてくれ。
なんだよその強制力、こえー。
「……ゲージって、何の? まさかオーナーのモチベとか?」
スマホをスワイプしても説明はどこにもない。
画面のさくらをつついても、首を傾げるだけだった。
「バグか? ……まぁいっか」
そう言ってスマホを閉じる。
瓶のさくらが、ピクンと尾を揺らした。
⸻
【KoiLink:オーナーLv.3 → Lv.4】
【親密度:20/100】
【???ゲージ:75% → 65%】
⸻
(to be continued)
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