KoiLink ―さくら育成ログ― ポワンで始まる癒しアプリライフ

Yoiasagi 宵浅葱

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第1章

ミッション8:ご近所リンク

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 日曜の朝。
 昨夜はお決まりの「ゲームしながら寝落ち」コース。
 好きなだけ惰眠を貪った結果、もはや朝とは言えない時間になっていた。

 ……ていうか、暑い。

 日当たりがいいってことは、つまり日差しが直撃ってことだ。
 まずはクーラーをつける。
 リモコン? ありますとも、定位置(枕の横)に。

 寝坊しても、瓶のさくらは元気に泳いでいた。

 “ポワン”

『ゴンゾー、よくねれた?』

「……おう」

 少し罪の意識を感じつつアプリを開いたが、ミニさくらはいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。

 ……なんか、ごめん。

 とりあえず、瓶のさくらに餌をやる。

 ふむ。そろそろ水を換えてやろう。
 なんとなく、そう思った。
 決して寝過ぎた気まずさからではない。

 瓶の水を三分の一ほど減らして、ペットボトルに汲み置きしていた水道水をそっと注ぐ。
 尾で水を切り、さくらがくるりと回った。

「お、気持ちよさそうじゃん」

 そこに、“ポワン”。


【親密度+2(現在22/100)】
【KoiLink:オーナーLv.4 → Lv.5】


 続けて、もうひとつ通知が現れる。


【新機能が解放されました】
ご近所リンクが利用可能になりました!

【ミッション:ご近所さんにあいさつしてみよう!】


「え? 何そのSNS機能。いらないんだけど」

 位置情報とか共有しないでくれ。
 だが、昨日のペナルティが地味に堪えて拒否しづらい。
 仕方なく画面上を探してみるも、“ご近所さん”とやらの情報はどこにもなかった。

 あいさつって、まさかリアルでってこと?
 つまり、ご近所リンクってあれ?
 一人暮らしのお年寄りが寂しくないように……そういう狙いか?

 俺の中で、コイリンクが育成ゲームから健康管理アプリを経て、ついにシニア支援アプリになりつつある。

 スマホを見つめて苦笑したあと、朝飯……いや、昼飯を買いに出かけることにした。

 外は蝉の声。真夏の太陽が照りつける。
 歩いて五分でコンビニ到着。サンドイッチと麻婆丼を手にレジへ行くと、無愛想なにーちゃんが無言でスキャン。袋がいるかどうかも聞いてこねーし。

 最近の若者はどうなってんだよ、まったく……。
 そっちがその気なら、しょーがねーな。
 こっちも黙ってスマホ決済。

 “ピッ”――冷たい電子音だけが、空しく響いた。

 結局「ありがとうございました」の一言もなく、俺は右手にサンドイッチ、左手に麻婆丼を乗せて店を出た。

 コンビニの快適空間から一転、再び灼熱地獄を戻る。

 あっつ……。

 滴る汗を袖口で拭っていると、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。

「あっ、すみません!」

 相手は長身で、金髪の外国人男性だった。
 長い髪を後ろで結び、手には扇子を持っている。
 白いシャツに藍色の羽織――この炎天下なのに、やけに涼しげだ。

 ――一瞬、目が合った。

(警戒モード発動:視界ロックオン)
(強敵エンカウント! Lv.たけぇぞ……!)

 ヤバい、オーラが違う。
 敵は手首のスナップ一つで、「バサッ」と扇子を開いた。

 くっ、無駄にキマってる。
 所詮ビジュが正義の世の中だよな……くそ。

 しばし見つめ合った後、ヤツは徐に口を開いた。
 ちょっ、英語はやめて。マジで無理!

「……ユクエモシラヌ、コイノミチカナ」

「はい?」

 日本語か……?
 一気に力が抜けた。
 意味はわからなかったが、とりあえず頭を下げて、そのまま逃げた。

 なんだ今の、俳句? 短歌か?
 一瞬、詠唱かと思ったわ。
 てか、あれ絶対NPCじゃねぇよな?

 謎の外国人に気を取られながらアパートに戻ると、管理人さんが玄関前を掃いていた。

「あ、どうも」
「ああ、おかえり。今日も暑いねぇ」

 軽く会釈をして部屋に戻る。

 “ポワン”。


【ミッション達成:ご近所さんにあいさつしてみよう!】
【称号:寝落ちエキスパート を獲得しました】


「え!? 達成? ってか、なにそれ。ディスってる?」

 スマホ画面の下には、知らない名前が並んでいた。


【ご近所さん】
リヒト Lv.91 称号:リアル課金王
悠人♡ Lv.26 称号:恋に散る男


 俺があいさつしたのは管理人さんだけだけど――どっちも違うよな?
 名前も称号も、管理人のおっちゃんと合わなさすぎる。

 じゃあ、さっきエンカウントした誰かってことだから――

「……リヒト? なんか外人っぽいな……あー、さっきの金髪のやつか。
 そりゃLv.91って感じだわ。オーラが違ったもんな」

「で、もう一人は悠人……恋に散る男? ぷっ、ざまぁ」

 思わず笑ってしまった。
 だって、あとひとりは無愛想だったあのコンビニのにーちゃんだ。
 名前に♡とかつけてるし、“恋に散る男”とか、あの態度でギャップもいいとこだろ。
 ちょっとスッとしたのは、たぶん気のせいだ。

 結局、管理人さんは候補から外れた。
 コイリンク。どうやらシニア向けではなかった。


【現在のステータス】
オーナーLv.5/親密度22/???ゲージ65%
※ステータスの一部が表示できません。


(to be continued)
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