Serendipity∞Horoscope

神月

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夢追い編

第52話、結び目

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 光は次第に薄れ、目を開けると見慣れた風景が見える。
 子洒落たインテリアに主張の激しすぎない落ち着いた壁紙、ソファーを始め、この部屋にいる人たちの姿はもうすっかり見慣れてしまったもので

「こんばんは」
「彩音さん!?」

 真っ先にゆかりが唖然とした声を上げ、その周りも驚いた様子で彩音へ視線を向ける。やがてゆかりは駆け寄りながら

「こんな夕暮れ時に来られるなんて珍しいですね! というより久しぶりに会えた気がします!」

 そう、夏休みから始まり彩音がこの場へ来る頻度はぱったり途絶え、新学期が始まった後も事情は六本木から聞いてはいれどそれは変わらなかった。
 終わればまた来るのではないかと言われた交換留学も終わりしばらく、一度来ただけで再び来なくなった彩音にゆかりは表情露わにさせながら

「ずーっと来なかったので心配していたのですよ!」
「えっ、あぁ、ごめん」

 と六本木や朱里も視線を向ける中彩音は苦い笑みを見せながら

「色々あって」
「六本木からある程度の事は聞いている」

 と彩音とゆかりの元に都庁とマスターが近寄り視線を向けると

「交換留学に生徒会への加入……その後もあまり来られないのには何か理由があるんだろう?」
「あぁ、はい。第三生徒会が本格的に動き出したことと、体育祭に向けた準備が始まりまして」
「なるほど。今日この時間に来たのもその準備があったからか?」
「はい。会議があって、それに備品の点検とか色々ありまして」
「私達はあくまでサポートする為の存在」

 そんな中、ふと呟くように告げたマスターの声に都庁やゆかり、彩音が視線を向けるとマスターは目を丸くした彩音を見ながら

「無事、一難を乗り越えられたようですね」
「…………」

 そうマスターの言葉に彩音は目を丸くしたまま僅かな間が空き、ふと彩音の表情が変わったことに六本木も表情を変えるとマスターも笑みを浮かべながら

「あれは、他の誰でもない貴方が成し遂げた事。そして貴方にも、人に良い影響を与えられるのだと証明されたということでもあります」
「その、私がここに来ない間何をしてたのか、何もかもお見通しって感じ……マスターは神様か何かなんですか?」
「もしかして、向こうで何かあって……?」
 と立ち上がった六本木が歩み寄ろうとすると彩音は笑みを浮かべたまま
「向こうでも、戻った後にも色々とね」
「…………」
「でも、うん」

 と彩音は一人で納得するように目を丸くしている六本木へ視線を向けると、微かにこれまでと違う雰囲気を見せながら

「少しだけ……前に進めた気がするよ」



「この間、運動会をしたんですよ」

 ソファに座り間もなく、ゆかりは久々の再会となる彩音に向けにこやかにある話題を口にした。

「運動会?」
「私達も毎年、この時期になると東京中の土地達が集まって運動会をするという恒例行事がありまして」

 と月島は毎年盛り上がりを見せるのだと彩音に説明し、そこに今年も盛り上がったとゆかりは楽しそうに話していく。

「今年も大いに盛り上がって楽しかったのですよ!」

 そこに都庁が言葉を挟み

「生活に溶け込むと同じく経験の一つとしてな。というのもあるが、土地と言えどこの通り個性も様々だからな」

 常日頃より他のチームは仲間であり、一方使命に対して他所に負けたくないという闘争心を持ってもいる。

「それに、学校にでも所属しない限り運動する機会もないからな。運動を好む土地からするとそんな機会が欲しいらしく、年に一度運動会の開催が定められたんだ」
「へえー」
「六本木さんが凄いんですよ!」

 と再びゆかりが目を輝かせながら語ると

「六本木さん、東京の土地達の中でも走るの速くて得意なんですけどリレーで一位を取って大活躍だったんです!」
「え? 確かに、あの時も走りには自信があるって言ってたけど……」

 と初めてクラスメイトだと認識した時の事を思い出しながらそう呟くと、別の所からも感心するように颯紀が声にし

「マジで六本木は足が速くて、別チームの赤坂と並んで毎年競走の最有力候補だしな」
「毎年だけど流石って感じだよね」
「という事は、体育祭も期待できたり……?」

 と彩音は六本木に視線を向けると彼は笑いながら

「もしメートル走やリレーに出ることになったら頑張るから期待してて」
「六本木さんが羨ましいですよー」

 と話を聞いていたゆかりが息を吐くと
「私、足も遅いし運動が苦手なので運動会は参加するより応援する方が好きなのですよ」
「わかるわかる」

 とゆかりに続けて告げた彩音にゆかりが視線を上げると

「運動得意な人達が勝手に盛り上がるだけだし、好きな人で勝手にやっててくれって毎回思うよ」
「ひょっとして、彩音さんも走るの苦手なんですか?」
「好きではないかな。体力ないし。特に長距離走になるとビリ争いなのが目に見えてるし……」
「ただ、確かに陸上部や運動部にどれだけ渡り合えるかっていうのは未知数だし、これは気合を入れて走り込みをしないといけないかな……?」
「わー! 私達総出で応援に行きます!」
「そうだ」

 ふとそこに六本木が口を開き、ゆかりと彩音が目を丸くしながら視線を向けると六本木は考えるように

「これから神月さんは体育祭の準備で忙しくなるんだよね?」
「え? えーと、一応備品の点検は終わって今日は会議があったけど……基本的に色々進めるのは第一生徒会だから明日からしばらくはまだ……?」

 第一生徒会と教師達が種目や開催、設営に関する計画を立てて前日準備に取り掛かる時に手伝うくらいじゃないかと話すと六本木は顔を上げ

「それなら今週の土曜日、空いてるかな?」
「土曜日? 特には何も無いけど……」
「それなら土曜日、『あの時』みたいに遊びに行こうか」



 そして週末の土曜日、待ち合わせに指定された場所で六本木は彩音の姿を見つける。
 そして彩音も六本木の姿を見つけると小走りで駆け寄るも、足が止まると固まるように立ち止まった彩音に六本木は違和感を感じ首を傾げた。

「どうかした?」
「うん。土曜日だから学校もないし当たり前のことなんだけど」

 と彩音は頷くように顎に手を当て珍妙な表情で
「私服だ……と思って」
「あ、あぁ。確かに学校はもちろんのことだけど、あの場で会う時も大抵僕も神月さんも制服だもんね」

 と六本木も言われてみればそうだと改めて彩音の姿を見ると

「確かに珍しさというか……言われてみれば不思議な感覚だね」
「全く、六本木君だって私服を持ってるというのにあいつときたら」
「……?」

 彩音の言葉に再び疑問符を浮かべる六本木を横目で見れば

「……啓との事も知ってるらしいから話すけど、あいつ、最初制服と仕事服しか持ってなかったんだよ」

 そう他にもちらほらと待ち合わせをしているであろう人が多く、その周囲にも様々な人が行き交いざわめく街の中で話し出せば

「仕事服って……」
「そう。いわゆる執事服とか燕尾服ってやつ。それで食料品とか日用品の買い出しにも行こうとしてたから全力で止めたの」

 そしてそれが発覚してからすぐ学校帰りに沙織や緋香琉、クロスと一緒に北条啓の服を買いに言ったのだと話していると、その話を聞いていた六本木は目を丸くしており

「全く、完璧超人かと思えば基本的な生活スキルで抜けてるところがあるというか……外国基準で物事を考えがちというか……。……何?」
「あっ、ううん」

 と六本木は問いかけられると取り繕いながら

「その、神月さんからそんな話を聞くとは思わなくて……」

 そう少し焦ったように言う姿に彩音は眉を顰め、疑問符を浮かべた。
 そんな六本木の心の中は言葉と表情通り驚きから焦り、そしてそれらが入り交じった嬉しさに困惑しながら

(僕から話を振ったり聞いたりする前に、日常的な雑談を僕に対して始めるなんて)

 呆れるような表情も、どこか鋭い視線も変わらない。
 けど、もし始めの頃と変わらない関係性のままだったとしたら、こんな自然に雑談なんて始めるはずがないと六本木は奥から湧き上がる嬉しさに黙り込む。
 やがて疑問符を浮かべる彩音に向け

「とにかく……こうして会えたし行こうか」



 それから間もなく二人はあるカフェテラスにやってくる。
 円形テーブルの上に置かれたアイス、向かい合って座るこの場所はもう何ヶ月も前の話、以前も来たことのあるあの場所だった。
 アイスクリームをスプーンですくい取り口に運び、既視感を感じながら呟くように口を開く。

「……あの時もここに連れて来てたけど……」
「良く覚えてるね」

 忘れる訳がない。ほんの少し前までクラスメイトだとすら認識してなかった人物に街を案内すると提案され、断ることも出来ずに流れるまま後をついていた。

(あの時の私は、一度悩みを解決した事で記憶を無くして……だからこの人について凄く警戒してた)

 親交的な雰囲気でもなく、大して話したこともない人間に対して親しく話しかけてくるなんて何か裏を考えている、と。
 そう彩音は改めて同じ状況に目を向ける。

(あの時と同じく私はこうやって心の中で考えを巡らせてばかりで、あの時も今も変わらず目の前の人間は疑いたくなるほどにニコニコしてる)

「君が変な事を言ってたからね」
「変な事? 何か言ってたっけ?」

 と目を丸くしながらキョトンとした表情を浮かべる六本木に息を吐き、額を押さえて

「はぁ……天然タラシってこういうのを言うんだろうなあ……」
「えっ、僕が……? 新宿さんならともかく、今までそんな事言われたことないんだけど!?」

 と、そう六本木は慌てふためきながら告げると彩音は頬杖をつき、呆れた目を向けながら返す。

「そりゃあ、あれだけ来た人に寄り添う仕事をしてる人の中にいりゃあね。あそこは基本、第一には警戒心や罪悪感を無くす為にあの手この手で褒め言葉を言うんだし」
「僕って真面目を超えて生真面目だとか言われるし、真面目過ぎるとか真面目過ぎて周りに比べてパッとしないとか言われるくらいだし……」
「仕事上仕方ないのかもしれないけど、あの時君は、この状況に対してデートみたいだって言ってたの!」

 とわざとらしく強調させながら告げると六本木は再び目を丸くし

「あの時は制服だったし、普通ちょっと認識したくらいの人とすぐ一緒にこんな街を出歩いたりお店のアイスとか食べたりしないの!」
「…………」
「仮に私があの時は手紙の記憶を無くしてて、六本木君が覚えてたとしてもだよ? そんなに早く二人で出かけたりしないでしょ!」
「……まさか、あの時僕が言った事を気にしてるの?」

 と問われると彩音の言葉が表情と共にピタリと止まり、六本木は思い出したように微かに目を細めながら

「もしかして……意識しちゃってたり」
「っ……! こんの……殴らせろ!」

 と身体を前のめりに傾け、拳を握りながら声を上げると六本木は驚いたように

「えっちょ、ごめんって。少しからかい過ぎたかな」

 と宥めるように手を動かし彩音はそっぽを向け、そんな彩音を見ながら

(あの時から薄々思ってはいたけど……純情というか何と言うか)

「確かに都会人はこういうのにもアクティブなイメージとかあるけど、コミュ力が高いって言うか高すぎない!? 沙織だって、クラスメイトの人達とどころか他のクラスの人達とも遊びに行くって話をよく聞くし」

 でも……と六本木は表情を微かに戻しながら

(でも……あの時は全然話してくれなくて、ミラクルレターのこと無しに仲良くなれるかどうか不安だったけど)

 少なくともあの頃よりは好意を向けられていると認識できる程に、こうして色んな会話をしていることをきっと彼女は自覚していない。
 そう六本木は確かな手応えに嬉しさを滲ませながら

(少しずつでもいいんだ。少しずつ……彼女の悩みを解決出来たら)

 そんな中、彩音のバッグの前ポケットに入っていた携帯電話が鳴り、ふと取り出すと電話を取る。
 そして、そんな彩音がする電話の様子を六本木は眺め

「はい、どうかした? ……別にいいよ。うん、うん……へえ。え、……まあ、別にいいけど……えっ今!?」

 とふと声のボリュームが大きく上げたと思えば六本木へ視線を向け、小刻みに向けられる視線に六本木は疑問符を浮かべる。

「……あーいや、特にそういう訳じゃないんだけど……それに、私も都外民だからそういうの詳しくないし……」

 とどこか困ったような表情を浮かべながらも時折六本木へ視線を向け、しかしふと声を上げると

「あ」

 その直後、六本木に向けられた目は止まり完全に目が合う。
 そして彩音は何かを思いついたように表情を変えると

「丁度いい人がここにいる!」



 それからも何らかのやり取りをし、電話を切った彩音に六本木は問いかける。

「今の電話は……」
「交換留学の時、京進学園からうちのクラスに来てた子」

 間もなく六本木は何らかのやりとりの中問われたことには答えたが、いまいち電話の内容を理解していない為改めて電話の内容を聞かされた。
 それは服を買う手伝いをして欲しいというもので

「困った人の悩みを解決するのは得意でしょ?」
「ええと……それはそうなんだけど」
 と鼻を高く問いかけた彩音に六本木が返すと、次第に彩音の表情は変わり

「つまり、服選びを手伝って欲しいって事だよね。期待されて何だけど……僕、ファッション系統については得意じゃないんだ」
「ええ!?」
「特に女の子のオシャレとかには詳しくなくて……」
「ちょ、私だっていい感じの服があるお店とか知らないんだけど!?」

 間もなく、時間が経つと電話をかけてきた相手、白桜律紫音が二人の前に現れた。長く白銀の髪が重力に引き寄せられるように流れ

「用事の最中に申し訳ありません」

 そうお辞儀から顔を上げ私服姿の彩音と六本木を交互に見ると

「まさかデートの最中だったとは思わず……そうならばそうと仰って頂ければ良かったのに」
「なっ、違うから!」

 と瞬く間に聞こえた彩音の声に紫音が視線を向け、彩音は表情を険しくさせながら紫音に歩み寄ると

「この人はただのクラスメイトというか……仕事の手伝いをしてる仲というか……。とにかく、この街についてはこの人に聞けば大抵分かるから!」

 そう紫音から離れると腕を組み傍目を向け

「それで、服を買うから選ぶのを手伝って欲しいんだっけ?」
「ええ。実は……週末にクラスメイトの皆さんと遊園地に行くことになりまして、その為の洋服を新調しようと思ったのですが……」

 これまで家の人が衣類も含め揃えられてきたり、親に連れられたのもドレスや正装などの高級店のみだと話し、故に私服を自ら選んで買ったことはないと明かした。
 そこに彩音はふと思い出したように問いかけ

「あれ、でも確か紫音って……クラスの人とあんまり上手くいってなかったんじゃ」
「あの試験の後、勇気を出してあの交流会にクラスメイトの方達を誘ってみたのです」

 それをきっかけに少しだけ誤解が解け、クラスの仲間とも打ち解けられ始めたと苦い表情で笑いながら話していく。

「この先自ら洋服を選んでいくファッションセンスも必要になってきますし、折角の機会ですから自分で買いにいこうと……」

 やがて、スマートフォンを確認した六本木に二人が振り向くと

「それじゃあ、依頼主も来たことだし移動しようか」
「え? さっきファッションには詳しくないとか何とか言ってなかったっけ……?」
「僕はね。だから助っ人として心強い適任者を呼んでおいたよ」
「心強い適任者……?」

 間もなく六本木に言われるがまま、三人は電車を乗り継ぎとある街にやってくるとそこは、と彩音は駅の表札を見て声に出す。

「渋谷……」
「あ、いたいた!」

 やがて、端から聞き覚えのあるような声が聞こえ、振り向くとビンクの髪色をした少女の姿が目に入る。

「一くん、神月ちゃん!」

 そう現れた少女、渋谷朱里もまた私服姿で

「話は一くんから聞いたよ。まっかせて!」
「間違いなく適任者だ……」

 とぽつりと呟く彩音を見た紫音は朱里の姿に目を丸くし、やがてお互いに挨拶と名を名乗っていった。
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