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夢追い編
第57話、一縷の望み
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その頃、校舎外の確認を終えた彩音と結希は魔物に割られた窓から校内に入り、シャッターが下りていくのを確認する。
それは夏目から放送室の亜理紗へ伝えられ、亜理紗から放送で全校生徒の元へ伝えられていく。
「ひとまずこれで、生徒や教職員は安心出来たかな」
「問題は、結局通路を完全に塞がないと二階から侵入した魔物が上に上がれちゃうってことなんですよね」
そう彩音が告げると電話で亜理紗から夏目の元に声が入り
『それに、既に一階や二階の窓から魔物が割って侵入してるみたいなんです』
「ユキちゃんと神月ちゃんの小型カメラでも確認出来たけど、そこそこ割られてるみたいねー」
『なので、制御室は頑丈な二重扉ですし、もしかしたら外に出て戻るよりシャッターを閉めて待機していた方が安全かもしれません』
そしてその話は亜理紗から制御室にいる三人に伝えられる。
「どうする……?」
そう青空が投げかけると啓と六本木は難しい表情で考え込み
「一応、外では上田さん方が戦っておられるのですよね」
そう啓が考えながら口を開くと
「三階の両階段前では対抗手段を持つ第二生徒会が。ならば私達は……霧島さんの言う通りシャッターを閉めここで待機していた方が良いのかもしれません」
「確かに、ここは窓もないから割られる心配もないし」
と六本木は閉め切られた室内を見て答え、やがて決断した。
六本木の操作により三階に戻る為に開けられていた最後の箇所のシャッターも下ろされていき、それは今戦う者と、こう指示を判断しているのであろう人達を信じた上での決断だった。
「生徒会でもないのに悪いことしちゃったなあ……」
そう決断を亜理紗から伝えられ、それを聞いた夏目がぼやくが
「大丈夫ですよ」
そう聞こえた声に振り向くと
「被害者なんて……出させませんから」
夏目は生徒会室から窓の外を見て難しい表情をしていた。
放送室にいる亜理紗からの報告で、ひとまずシャッターを閉めることに成功したとは言え同時に校内に魔物が侵入している報告も改めて受けていた。
防衛シャッターもどこまで持つか分からず、見える範囲でも敷地内には何体もの魔物の姿が見え戦う生徒たちの姿が見えていた。
『彩音! 特に守るべき所ってどこ? 裏門とか地下とか!』
そう彩音が携帯を通じて沙織とやりとりする声に夏目や結希が視線を向けると
『これだけの数全部を相手にしながら守りきるのはきついから要所を固めたいんだよね』
「地下の通路には魔物が侵入してて避難通路として使えない」
『え……』
と返ってきた声に沙織の表情が変わると
「今全生徒は三階に避難させて、一階と二階に防衛シャッターを下ろした。割られた窓から魔物が侵入してもいるけど……三階は強化ガラスだから平気なはず」
しかしいくら何でも数や力で攻め込まれたらどうにもならず、最優先はこの学校敷地内にこれ以上の魔物を侵入させないことではないかと語りながら
「だから敢えて張って守るのなら正門と裏門かな。そっちはどんな感じ?」
『次から次へと入って来てキリがないって感じ? ただ、上田くんが何か心当たりがあるみたいで少し前に外にどこかに走っていったんだけど』
「え……どういうこと?」
『詳しくは聞いてないけど……この元凶に心当たりがあるっぽい事を言ってたから、もしそれが本当ならそれが何とかなれば何とかなるのかも……?』
「……あいつは、この件について何か知ってるって言うの……!?」
そう思わぬ発言に声にすると表情を歪め、そこに沙織から更なる声が聞こえてくる。
『よくわかんないけど、あの様子はそうっぽいかも……!? 私達も追って行きたかったけどこんな状況で学校を離れるわけにもいかないし』
「神月ちゃん、外の皆にも中に避難するように伝えて!」
その時、横から聞こえた声に振り向くと夏目が
「霧島ちゃんと連携して一旦シャッターを開けるから」
「でも……」
「いくら何でもこれだけの数をたった数人で、しかも警察でも何でもない生徒が相手にするのは危険過ぎるよ」
いくら戦う力を持っていても『生徒』であることに変わりはなく、既に警察や自衛隊、対異能者組織も動いてるはずだと表情を歪ませ
「襲われてるのは他も同じだろうから、ここを優先して来てくれるわけじゃないだろうけど……防衛シャッターがあれば、もう少しくらいは時間も稼げるはず」
そう夏目は手を組む形で握り、その動作と表情からこうは言えど不安と恐怖を感じている事は彩音の目からも見て取れた。
校内に引き返すということは、食い止める者がいなくなり魔物の侵入を今以上に許すことになる。
それでも体力や人数として限度もある以上、会長の言葉を受け止めるべきか考えているとスマホから声が聞こえてきた。
『私達なら大丈夫!』
「……!」
その声に彩音の夏目の表情は変わり、彩音が耳を当てると
『確かな事は分からないけど……私は上田くんを信じてここを守るよ』
「…………」
そんな沙織の言葉を聞いて考え続け、その先を口にしない彩音を夏目や結希が見ているとやがて彩音は意を決したように沙織に向け告げる。
「……分かった」
「な……」
そう彩音から発せられた言葉に結希が声を上げると
「沙織の強さは私もよく知ってるし、緋香琉やクロスも……」
そう目を伏せながら呟く姿に結希が止まると、彩音は顔を上げ
「まずは、少なくとも地上の魔物を校内に入れない事を第一にしたい。だから正門を守っていて欲しい」
やがて夏目に目が向けられると
「第二生徒会、及び対抗手段を持つ人達に……陸は何とかこれ以上の侵入を食い止めるので、空中から侵入する可能性がある三階から周囲を見張っていてもらえるようお願い出来ますか」
「その話だけど……第二生徒会から何人か外に出て応戦しようかって話が来てて」
と夏目が第二生徒会の会長から送られたメッセージを彩音に伝えると、彩音は一瞬考える素振りを見せ
「なら、正門は押さえてるので裏門からの侵入を抑えて貰えると助かります。けど、強化ガラスが絶対とも限らないのでその警戒にも手を抜かずに」
「分かった。ならそう伝えるね」
と夏目はどこか想うところがありながらも第二生徒会へと返信を返し始める。
再び彩音は沙織に向け伝える為携帯を耳に当て
「裏門は第二生徒会の一部が押さえてくれるって。狙いとしては、陸上の魔物の侵入を抑えた上で空から侵入する魔物と既に侵入してる魔物を倒していく事なんだけど……」
そう彩音は一呼吸置いた後話を続けると
「校舎への侵入はこっちで防ぐとして……。……ネルラで校舎を守れないか試してみる。それでもし上手く行ったら……」
飛び出して行ったという翔太を追って欲しいと沙織の耳に届き、沙織は目を丸くした。
沙織の傍では槍で魔物を倒していく緋香琉と杖から発せられる光魔法で魔物を倒すクロスの姿があり、そんな傍ら沙織は声を張り上げると
「追って欲しいって……!」
『校舎をネルラで守れたら、校舎とその中にいる人達の心配は必要なくなる。ネルラの形状上、もしかしたら学校そのものにかけられるかもしれないし』
そうなれば実際、中に侵入している魔物の掃討だけで安全は確保される。
「って簡単に言うけどネルラの魔法って、凄い魔力を必要とするんじゃなかった!? それを人ひとり所か、学校全体を包み込むなんて……そんな事、出来るの?」
『分からない。私自体そういうのをきちんと学んだわけじゃないし、コントロールの仕方も手探りだけど……それでも、もし出来るならやらないと被害は大きくなるだけだよ』
上田翔太は校外に、そこに沙織と緋香琉、クロスが合流しに出たとしたら戦える人間がいなくなる。
(他に誰が。北条君? でもあの人は防衛として心得があるだけで魔物の相手に慣れてるわけじゃないし)
沙織の情報として数人の異能者や、留学生として多少の心得がある可能性のある第二生徒会の一部はいれどそのどれもが自分達ほど手馴れているとは思いにくい。
(だからこそ海外の魔法学校や騎士学校、士官学校から防衛も兼ねた留学生を招く学校もあるくらいで……)
選択肢や余裕がない状況であるのは確かながら
「その残った魔物を倒してから行くのは駄目なの?」
『あいつが何の心当たりがあって飛び出たのか分かんない以上どうにも言えないけど、仮にヤバい奴を相手にしてるんなら……悠長な事は言ってられないよ』
そのまま告げられた言葉に沙織の表情は動き
『秘密……って程でもないけど、沙織達が抜けた後の穴埋めの手段はある。だからこんな事言うのは柄じゃないけど、任せて欲しい』
「…………」
『……必ずここは守るよ。どんな手を使ってでも』
「…………分かった」
そう長い沈黙の後沙織はそう頷き、彩音が反応すると
「ネルラが学校にかけられて、それが安定したと思ったら私と緋香琉、クロスは上田くんの後を追いかける」
「えっ……!?」
と沙織から聞こえてきた声に緋香琉とクロスが声を上げると
「上田の後を追いかけるって、ここはどうするんだよ!」
「私達が離れたら学校が……」
「彩音のネルラを学校にかけてみて、もしそれが上手く安定すればひとまず校舎の中にいる生徒達は安全になる」
そう早い口調で二人に説明すると
「上田くんが何を探して出てったのか、今何が起きてるのか気になるのも事実だし、もしそれがこの元凶に関わっているのなら……それを何とかしない限りこの状況は終わらない」
「…………」
「彩音曰く私達が抜けた穴埋めも何か考えがあるみたいだし、それを信じるとしたら私達に出来る事は……」
二人は呆然としていたが、やがて緋香琉は息を吐き
「…………分かったよ」
そんな声にクロスが緋香琉へ目を向けると緋香琉は半ば呆れたように
「けど、全員が抜けるのもやっぱり不安な以上、私はここに残る。上田を追いかけるのは、沙織とクロスに任せる!」
だから、と二人に目を向けると
「だから沙織にクロス、今すぐ上田を追いかけろ!」
「……分かった」
そう意を決した沙織は校舎の外に出ていき、クロスは不安を向けるように校舎の方へ姿勢を向け、そして緋香琉に向けるがそれに緋香琉はにっかりと笑い
「平気だって。私もクロスもあのファントムと戦った仲だろ? 力の守護者として、倒すことなら任せろってもんよ!」
「……絶対、無茶だけはしないでね」
そう緋香琉に告げたクロスは沙織の後を追うように正門の方を向くと駆け出した。
正門から出ていく沙織とクロスの姿を確認すると、やがて彩音は夏目に向け振り返り
「私、今から屋上に行ってきます」
「えっ?」
そう夏目が声を上げると
「今から校舎を守る方法がないか試してみるので、今外で防衛に当たってる生徒会の人達にはくれぐれも無理をしないよう忠告をお願いします」
「何を言って……」
「私も戦えるんです」
そう発された声に夏目を始め、部屋の中にいた生徒会の時は止まった。そのまま彩音からの言葉が続けば
「けどまずは、この校舎の安全を確保する事が最優先で、私の魔法でそれが出来ないか試してみます。その為に学校の中央地であり、全体の見渡せる屋上に行く必要があるんです」
「な、君は何を言って……」
「それに、緋香琉もクロスも、沙織も強いので心配はいりません。そして私にも私の出来ることを……!」
そう告げると彩音は魔法ネルラを唱え、その場から消えた。
第一生徒会室から姿を消した彩音が現れたのは屋上。
(中に入れさせない為には)
「ネルラ!」
正面に向き直ると目を閉じ手を伸ばすとそう詠唱し、集中するように周りは静けさに満ちた。
手の甲から青い光が浮かび、間もなく普段この魔法を詠唱した時に発動するように自分を包むより少し大きく防御壁が作られる。
(違う。もっと広く、もっと大きく……!)
さらに神経を集中させ力を込めると防御壁は膨れ上がり、校舎の頂上から校舎を包むようにドーム状に半透明の青い壁が広がっていく。
もっと、もっと。
そう魔力を込めていくとやがて昇降口を覆い、校庭を覆い、正門までの敷地を覆うと中に侵入しようとした魔物が弾かれるように遮られた。
「何……?」
その光景は第一生徒会室にいた夏目達の目にも見えており、突如校舎を包んだ青い壁は近寄る魔物たちを弾き通すことを許さない。
「一体何が起きてるの?」
「学校の設備にこんなものあったっけ」
「ない、はず……」
「これは……」
また、制御室にいた啓と六本木、青空もカメラ映像を通して見覚えのある光景に
「まさか、彼女が……?」
一体も通さず、地から空から、ドーム状に張られた防御壁は爪を立てても衝突しても破れる様子はなく校舎は強固として守られていた。
『神月ちゃん! この青い壁は……』
そう片手で展開と維持を試みながら夏目からかけられた電話に出ると
「この青い壁の中にいる限り、この学校は安全です。ただ裏門まで伸ばせそうにないので……裏門付近にいる第二生徒会の人達に壁の内側に入るよう言って下さい!」
そう電話を切ると再び両手で支え始め、壁の外からは壁を壊そうと魔物が衝撃を与え、既に入っていた魔物は校舎へ近づこうとする。
しかしその途中、それらは唐突に現れた影に倒された。
それは夏目から放送室の亜理紗へ伝えられ、亜理紗から放送で全校生徒の元へ伝えられていく。
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「問題は、結局通路を完全に塞がないと二階から侵入した魔物が上に上がれちゃうってことなんですよね」
そう彩音が告げると電話で亜理紗から夏目の元に声が入り
『それに、既に一階や二階の窓から魔物が割って侵入してるみたいなんです』
「ユキちゃんと神月ちゃんの小型カメラでも確認出来たけど、そこそこ割られてるみたいねー」
『なので、制御室は頑丈な二重扉ですし、もしかしたら外に出て戻るよりシャッターを閉めて待機していた方が安全かもしれません』
そしてその話は亜理紗から制御室にいる三人に伝えられる。
「どうする……?」
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「一応、外では上田さん方が戦っておられるのですよね」
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「三階の両階段前では対抗手段を持つ第二生徒会が。ならば私達は……霧島さんの言う通りシャッターを閉めここで待機していた方が良いのかもしれません」
「確かに、ここは窓もないから割られる心配もないし」
と六本木は閉め切られた室内を見て答え、やがて決断した。
六本木の操作により三階に戻る為に開けられていた最後の箇所のシャッターも下ろされていき、それは今戦う者と、こう指示を判断しているのであろう人達を信じた上での決断だった。
「生徒会でもないのに悪いことしちゃったなあ……」
そう決断を亜理紗から伝えられ、それを聞いた夏目がぼやくが
「大丈夫ですよ」
そう聞こえた声に振り向くと
「被害者なんて……出させませんから」
夏目は生徒会室から窓の外を見て難しい表情をしていた。
放送室にいる亜理紗からの報告で、ひとまずシャッターを閉めることに成功したとは言え同時に校内に魔物が侵入している報告も改めて受けていた。
防衛シャッターもどこまで持つか分からず、見える範囲でも敷地内には何体もの魔物の姿が見え戦う生徒たちの姿が見えていた。
『彩音! 特に守るべき所ってどこ? 裏門とか地下とか!』
そう彩音が携帯を通じて沙織とやりとりする声に夏目や結希が視線を向けると
『これだけの数全部を相手にしながら守りきるのはきついから要所を固めたいんだよね』
「地下の通路には魔物が侵入してて避難通路として使えない」
『え……』
と返ってきた声に沙織の表情が変わると
「今全生徒は三階に避難させて、一階と二階に防衛シャッターを下ろした。割られた窓から魔物が侵入してもいるけど……三階は強化ガラスだから平気なはず」
しかしいくら何でも数や力で攻め込まれたらどうにもならず、最優先はこの学校敷地内にこれ以上の魔物を侵入させないことではないかと語りながら
「だから敢えて張って守るのなら正門と裏門かな。そっちはどんな感じ?」
『次から次へと入って来てキリがないって感じ? ただ、上田くんが何か心当たりがあるみたいで少し前に外にどこかに走っていったんだけど』
「え……どういうこと?」
『詳しくは聞いてないけど……この元凶に心当たりがあるっぽい事を言ってたから、もしそれが本当ならそれが何とかなれば何とかなるのかも……?』
「……あいつは、この件について何か知ってるって言うの……!?」
そう思わぬ発言に声にすると表情を歪め、そこに沙織から更なる声が聞こえてくる。
『よくわかんないけど、あの様子はそうっぽいかも……!? 私達も追って行きたかったけどこんな状況で学校を離れるわけにもいかないし』
「神月ちゃん、外の皆にも中に避難するように伝えて!」
その時、横から聞こえた声に振り向くと夏目が
「霧島ちゃんと連携して一旦シャッターを開けるから」
「でも……」
「いくら何でもこれだけの数をたった数人で、しかも警察でも何でもない生徒が相手にするのは危険過ぎるよ」
いくら戦う力を持っていても『生徒』であることに変わりはなく、既に警察や自衛隊、対異能者組織も動いてるはずだと表情を歪ませ
「襲われてるのは他も同じだろうから、ここを優先して来てくれるわけじゃないだろうけど……防衛シャッターがあれば、もう少しくらいは時間も稼げるはず」
そう夏目は手を組む形で握り、その動作と表情からこうは言えど不安と恐怖を感じている事は彩音の目からも見て取れた。
校内に引き返すということは、食い止める者がいなくなり魔物の侵入を今以上に許すことになる。
それでも体力や人数として限度もある以上、会長の言葉を受け止めるべきか考えているとスマホから声が聞こえてきた。
『私達なら大丈夫!』
「……!」
その声に彩音の夏目の表情は変わり、彩音が耳を当てると
『確かな事は分からないけど……私は上田くんを信じてここを守るよ』
「…………」
そんな沙織の言葉を聞いて考え続け、その先を口にしない彩音を夏目や結希が見ているとやがて彩音は意を決したように沙織に向け告げる。
「……分かった」
「な……」
そう彩音から発せられた言葉に結希が声を上げると
「沙織の強さは私もよく知ってるし、緋香琉やクロスも……」
そう目を伏せながら呟く姿に結希が止まると、彩音は顔を上げ
「まずは、少なくとも地上の魔物を校内に入れない事を第一にしたい。だから正門を守っていて欲しい」
やがて夏目に目が向けられると
「第二生徒会、及び対抗手段を持つ人達に……陸は何とかこれ以上の侵入を食い止めるので、空中から侵入する可能性がある三階から周囲を見張っていてもらえるようお願い出来ますか」
「その話だけど……第二生徒会から何人か外に出て応戦しようかって話が来てて」
と夏目が第二生徒会の会長から送られたメッセージを彩音に伝えると、彩音は一瞬考える素振りを見せ
「なら、正門は押さえてるので裏門からの侵入を抑えて貰えると助かります。けど、強化ガラスが絶対とも限らないのでその警戒にも手を抜かずに」
「分かった。ならそう伝えるね」
と夏目はどこか想うところがありながらも第二生徒会へと返信を返し始める。
再び彩音は沙織に向け伝える為携帯を耳に当て
「裏門は第二生徒会の一部が押さえてくれるって。狙いとしては、陸上の魔物の侵入を抑えた上で空から侵入する魔物と既に侵入してる魔物を倒していく事なんだけど……」
そう彩音は一呼吸置いた後話を続けると
「校舎への侵入はこっちで防ぐとして……。……ネルラで校舎を守れないか試してみる。それでもし上手く行ったら……」
飛び出して行ったという翔太を追って欲しいと沙織の耳に届き、沙織は目を丸くした。
沙織の傍では槍で魔物を倒していく緋香琉と杖から発せられる光魔法で魔物を倒すクロスの姿があり、そんな傍ら沙織は声を張り上げると
「追って欲しいって……!」
『校舎をネルラで守れたら、校舎とその中にいる人達の心配は必要なくなる。ネルラの形状上、もしかしたら学校そのものにかけられるかもしれないし』
そうなれば実際、中に侵入している魔物の掃討だけで安全は確保される。
「って簡単に言うけどネルラの魔法って、凄い魔力を必要とするんじゃなかった!? それを人ひとり所か、学校全体を包み込むなんて……そんな事、出来るの?」
『分からない。私自体そういうのをきちんと学んだわけじゃないし、コントロールの仕方も手探りだけど……それでも、もし出来るならやらないと被害は大きくなるだけだよ』
上田翔太は校外に、そこに沙織と緋香琉、クロスが合流しに出たとしたら戦える人間がいなくなる。
(他に誰が。北条君? でもあの人は防衛として心得があるだけで魔物の相手に慣れてるわけじゃないし)
沙織の情報として数人の異能者や、留学生として多少の心得がある可能性のある第二生徒会の一部はいれどそのどれもが自分達ほど手馴れているとは思いにくい。
(だからこそ海外の魔法学校や騎士学校、士官学校から防衛も兼ねた留学生を招く学校もあるくらいで……)
選択肢や余裕がない状況であるのは確かながら
「その残った魔物を倒してから行くのは駄目なの?」
『あいつが何の心当たりがあって飛び出たのか分かんない以上どうにも言えないけど、仮にヤバい奴を相手にしてるんなら……悠長な事は言ってられないよ』
そのまま告げられた言葉に沙織の表情は動き
『秘密……って程でもないけど、沙織達が抜けた後の穴埋めの手段はある。だからこんな事言うのは柄じゃないけど、任せて欲しい』
「…………」
『……必ずここは守るよ。どんな手を使ってでも』
「…………分かった」
そう長い沈黙の後沙織はそう頷き、彩音が反応すると
「ネルラが学校にかけられて、それが安定したと思ったら私と緋香琉、クロスは上田くんの後を追いかける」
「えっ……!?」
と沙織から聞こえてきた声に緋香琉とクロスが声を上げると
「上田の後を追いかけるって、ここはどうするんだよ!」
「私達が離れたら学校が……」
「彩音のネルラを学校にかけてみて、もしそれが上手く安定すればひとまず校舎の中にいる生徒達は安全になる」
そう早い口調で二人に説明すると
「上田くんが何を探して出てったのか、今何が起きてるのか気になるのも事実だし、もしそれがこの元凶に関わっているのなら……それを何とかしない限りこの状況は終わらない」
「…………」
「彩音曰く私達が抜けた穴埋めも何か考えがあるみたいだし、それを信じるとしたら私達に出来る事は……」
二人は呆然としていたが、やがて緋香琉は息を吐き
「…………分かったよ」
そんな声にクロスが緋香琉へ目を向けると緋香琉は半ば呆れたように
「けど、全員が抜けるのもやっぱり不安な以上、私はここに残る。上田を追いかけるのは、沙織とクロスに任せる!」
だから、と二人に目を向けると
「だから沙織にクロス、今すぐ上田を追いかけろ!」
「……分かった」
そう意を決した沙織は校舎の外に出ていき、クロスは不安を向けるように校舎の方へ姿勢を向け、そして緋香琉に向けるがそれに緋香琉はにっかりと笑い
「平気だって。私もクロスもあのファントムと戦った仲だろ? 力の守護者として、倒すことなら任せろってもんよ!」
「……絶対、無茶だけはしないでね」
そう緋香琉に告げたクロスは沙織の後を追うように正門の方を向くと駆け出した。
正門から出ていく沙織とクロスの姿を確認すると、やがて彩音は夏目に向け振り返り
「私、今から屋上に行ってきます」
「えっ?」
そう夏目が声を上げると
「今から校舎を守る方法がないか試してみるので、今外で防衛に当たってる生徒会の人達にはくれぐれも無理をしないよう忠告をお願いします」
「何を言って……」
「私も戦えるんです」
そう発された声に夏目を始め、部屋の中にいた生徒会の時は止まった。そのまま彩音からの言葉が続けば
「けどまずは、この校舎の安全を確保する事が最優先で、私の魔法でそれが出来ないか試してみます。その為に学校の中央地であり、全体の見渡せる屋上に行く必要があるんです」
「な、君は何を言って……」
「それに、緋香琉もクロスも、沙織も強いので心配はいりません。そして私にも私の出来ることを……!」
そう告げると彩音は魔法ネルラを唱え、その場から消えた。
第一生徒会室から姿を消した彩音が現れたのは屋上。
(中に入れさせない為には)
「ネルラ!」
正面に向き直ると目を閉じ手を伸ばすとそう詠唱し、集中するように周りは静けさに満ちた。
手の甲から青い光が浮かび、間もなく普段この魔法を詠唱した時に発動するように自分を包むより少し大きく防御壁が作られる。
(違う。もっと広く、もっと大きく……!)
さらに神経を集中させ力を込めると防御壁は膨れ上がり、校舎の頂上から校舎を包むようにドーム状に半透明の青い壁が広がっていく。
もっと、もっと。
そう魔力を込めていくとやがて昇降口を覆い、校庭を覆い、正門までの敷地を覆うと中に侵入しようとした魔物が弾かれるように遮られた。
「何……?」
その光景は第一生徒会室にいた夏目達の目にも見えており、突如校舎を包んだ青い壁は近寄る魔物たちを弾き通すことを許さない。
「一体何が起きてるの?」
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「ない、はず……」
「これは……」
また、制御室にいた啓と六本木、青空もカメラ映像を通して見覚えのある光景に
「まさか、彼女が……?」
一体も通さず、地から空から、ドーム状に張られた防御壁は爪を立てても衝突しても破れる様子はなく校舎は強固として守られていた。
『神月ちゃん! この青い壁は……』
そう片手で展開と維持を試みながら夏目からかけられた電話に出ると
「この青い壁の中にいる限り、この学校は安全です。ただ裏門まで伸ばせそうにないので……裏門付近にいる第二生徒会の人達に壁の内側に入るよう言って下さい!」
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