顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

木山楽斗

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16.待つべき時

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「にわかには信じられないことだな」

 イルヴァド様の衝撃の事実に対して、私は未だに動揺していた。
 そんな私と違って、お兄様は既に冷静だ。いや、もしかしたら内心は動揺しているのかもしれないが、少なくとももうそれは表面には出ていない。
 そういった冷静さは、私も見ならなければならないだろう。そう思って私は、背筋をしっかりと伸ばして、イルヴァド様を見据える。

「もちろん、簡単に信じてもらえるとは思っていません。ですが、僕は既に然るべき機関に秘密裏で鑑定を済ませてもらっています」
「なるほど、しかしそのようなことは金の力でもなんとかなることだ。そう簡単なことではない」
「手厳しいですね……しかし、仰る通りではありますね」

 イルヴァド様に対して、お兄様はまた突き放すようなことを言った。
 恐らくお兄様も、彼の言葉を信じていない訳ではないだろう。ただ、この場ですぐに受け入れるのは、体裁的に良くないと考えているのかもしれない。

 いや、これはどちらかというと警告なのだろうか。お金の力でなんとかなるということは、つまりカルメア様やアデルバ様に覆されかねないということだ。お兄様は、それを危惧して言葉を発しているのかもしれない。

 実際の所、最も被害を受けたオルデン様が既に亡くなっているという事実は、この件での風向きが少し悪くなる要因だ。
 イルヴァド様だけが主張しても、当主の座を手に入れるための策謀だと、社交界から捉えられる可能性がある。

「それに仮に事実だったとしても、二人を失脚させられる程の力があるのかと言われれば、微妙な所だ」
「そうでしょうか?」
「アデルバは既に伯爵の地位にある。他家への挨拶も済ませているだろう。そんな中で、あなた一人が主張した所で、届かない可能性は高い。貴族は血を重視する訳だが、自分の家以外のことは利益が得られるなら無視するだろうからな」
「それは……」

 お兄様は、敢えて最悪の場合を述べているだけではあるだろう。
 ただ確かにそうなった場合、イルヴァド様はただ当主の座を狙った弟としか見られない。
 その状況は、彼の終わりを意味している。一度主張がかき消されたら、再起は難しいだろう。

「……故に、行動を開始するのは少し待った方が良いだろう」
「……ラヴェルグ様には、何か考えがあるのですね?」
「俺としては不本意極まりないことではあるが、妹に期待するとしよう。それこそが、我々ラスタリア伯爵家の本来の計画である訳だしな」
「妹……それは、ルルメリーナ嬢のことですか……」

 お兄様の言葉に、イルヴァド様の視線は一瞬私の方を向いた。
 まだラスタリア伯爵家がしようとしていることが、理解できていないのだろう。その表情からは、困惑の色が伺える。
 ただ恐らく、内容を話したとしても困惑は変わらないだろう。私達の作戦は、一見すると成功するとは思えないものである訳だし。
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