勝手に期待しておいて「裏切られた」なんて言わないでください。

木山楽斗

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10.孫の失踪(モブ視点)

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 前エルベルト侯爵夫人であるマーガレットは、夫に先立たれてから、領地の別荘で穏やかに余生を過ごしていた。
 彼女は、侯爵家を継いだ息子に口出しすることはなかった。自分は既に一線を退いた人間、そう判断して次世代に全てを委ねていたのだ。
 そんなマーガレットは、孫であるアルネシアの失踪に心を痛めていた。厳しい祖母として孫達から少し恐れられている彼女だが、その実二人の孫に対する愛情は深かったのだ。

「マーガレット様、申し訳ありません。お力になれず」
「いいえ、お気になさらないでください」

 誰もが半ば諦めているアルネシアを、マーガレットは必死に捜していた。
 彼女は、残された余生を孫を見つけることに費やすことを決めていた。生存してくれていれば何よりだが、例え亡くなっていても見つける。マーガレットは、そのために各地を巡って情報を集めていたのだ。

「ここにも手がかりはありませんでしたか……一体、アルネシアはどこに行ったのでしょうか」

 転落現場から見つからなかったアルネシアは、どこかに移動したはずである。
 周囲をいくら散策しても、彼女は見つからなかった。そのためマーガレットは、アルネシアが人里まで行った可能性も考慮していた。
 しかし、いくら聞き込みをしても情報は得られない。山の中から、アルネシアは忽然と姿を消してしまったのである。

「現場にいなかったということは、アルネシアは生きて移動していたということ。一体、あの子はどこに消えてしまったの?」
「奥様、少しよろしいですか?」
「レンヴァーさん?」

 そんなマーガレットに声をかけてきたのは、執事のレンヴァーだった。
 婚約する前から彼女に仕えているレンヴァーは、マーガレットが最も信頼している執事だ。そんな彼は、深刻そうな顔をしている。そのことから、マーガレットは彼がもたらすニュースが明るいものではないことを理解した。

「……何か問題でもあったのですか?」
「ええ、実はイルフェリア様のことでして……」
「あの子が、どうかしたの?」
「どうやら家を出て行かれたようです」
「……なんですって?」

 レンヴァーの言葉に、マーガレットは目を丸めていた。
 もう一人の孫が、家出をした。その知らせは、彼女にとって衝撃的なことだったのだ。

「どういうことですか?」
「詳しいことは、私にもわかりません。ただ、イルフェリア様は自分の意思で家を出て行かれたようです。現在、行方はわからないそうです」
「まさか……」

 もう一人の孫が、行方不明になったその事実にマーガレットは震えていた。
 しかし、彼女はすぐに思考を切り替える。落ち込んでいる場合ではないことが、すぐにわかったのだ。
 エルベルト侯爵家で、何かが起こっている。それを悟ったマーガレットは、息子夫婦に話を聞くことを決意するのだった。
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