勝手に期待しておいて「裏切られた」なんて言わないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
18 / 30

18.二人の逸材(モブ視点)

しおりを挟む
 ボーキンス侯爵家に戻ってきたバラルドは、父親である侯爵に呼び出されていた。
 ことの顛末は、既に父親に伝えていた。イルフェリアとの婚約破棄、バラルドはそれに父も賛同してくれると思っていたのだ。
 しかしその期待は外れていた。ボーキンス侯爵は、明らかに怒っていたのである。

「ち、父上、何をそんなに怒っているのです?」
「それがわからない程に愚かだとは驚きだな、バラルド。お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」
「イルフェリアとの婚約破棄のことですか? しかしですね。彼女はアルネシアに比べてかなり劣っています。そんな彼女が僕の婚約者に相応しい訳がないでしょう」

 バラルドにとって、イルフェリアとの婚約は受ける必要がないものだった。
 アルネシアのような才能に溢れた人であるならばともかく、イルフェリアは自分には似合わないと彼は本気で思っていたのだ。
 そんな息子に対して、侯爵はため息をつく。彼は、ひどく不機嫌な様子だ。

「お前は、人にそんなことを言える立場なのか?」
「な、なんですって?」
「お前はお世辞にも出来がいいという訳ではなかろう。お前は、遊び惚けてばかりの愚か者でしかない。アルネシア嬢もイルフェリア嬢も、私が知っている限りではお前よりも遥かに能力が上だ」
「そ、それは……」

 バラルドは、父親の発言に怯んでいた。
 彼自身も、自分が遊んでばかりという自覚はあったのだ。

「そもそもの話、アルネシア嬢とイルフェリア嬢を比較する必要がどこにあるのだ?」
「ゆ、優秀であるかどうかは重要でしょう?」
「確かにアルネシア嬢は優秀だった。彼女は千年に一度の逸材であるだろう」
「ほら、父上もわかっているではありませんか?」
「しかし、イルフェリア嬢だって百年に一度の逸材ではある。多くの者はあの姉妹を比べて妹を劣っていると評することもあるが、あの二人はどちらも天才の部類だ。恐らく、才女と名高いマーガレット・エルベルト侯爵夫人の血を継いだのだろう」
「……なんですって?」

 バラルドは、父親が言っていることが理解できなかった。
 イルフェリアもまた天才である。彼はそんなことは、まったく知らなかったのだ。
 それはイルフェリア自身も含めて、多くの人が勘違いしていることだった。ただアルネシアが、規格外だったというだけなのだ。

「しかし、バラルドよ。お前の勝手な行いは目に余る。この私ももう面倒を見切れん」
「なっ、それはどういうことですか?」
「この侯爵家を継ぐのはお前の兄であることはわかっているだろう。故にお前は、婿に出さなければならなかった。だが、お前はその選択を自ら蹴ったのだ。こちらはもうお前に干渉しない。これからは好きに生きるがいい。この家から出てな?」
「そ、そんな……」

 父の言葉に、バラルドはひどく動揺していた。
 自分があくまで婿に行く立場であるということ。それを彼は、理解していなかったのだ。
 こうしてバラルドは、自分の判断によって侯爵家を出て行かざるを得ない状況に陥ったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約者の姉を婚約者にしろと言われたので独立します!

ユウ
恋愛
辺境伯爵次男のユーリには婚約者がいた。 侯爵令嬢の次女アイリスは才女と謡われる努力家で可愛い幼馴染であり、幼少の頃に婚約する事が決まっていた。 そんなある日、長女の婚約話が破談となり、そこで婚約者の入れ替えを命じられてしまうのだったが、婚約お披露目の場で姉との婚約破棄宣言をして、実家からも勘当され国外追放の身となる。 「国外追放となってもアイリス以外は要りません」 国王両陛下がいる中で堂々と婚約破棄宣言をして、アイリスを抱き寄せる。 両家から勘当された二人はそのまま国外追放となりながらも二人は真実の愛を貫き駆け落ちした二人だったが、その背後には意外な人物がいた

さようなら、たった一人の妹。私、あなたが本当に大嫌いだったわ

青葉めいこ
恋愛
おいしい? よかったわ。あなたがこの世で飲む最後のお茶になるからね。 ※番(つがい)を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...