誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗

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23.言葉の裏には

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『……別にお前に期待しているという訳ではない』

 あの時お父様は、確かにそう言った。
 私に期待していないと、言ったのだ。それは決定的な言葉である。

『お前が婚約などせずとも、マートン伯爵家が万全の形となるように、私は務めるつもりだ』

 その直後に、お父様はそう言った。
 私の婚約のことについて、述べたのだ。それはつまり、期待していないという言葉は、私の婚約に、ということに対しての言葉なのかもしれない。

『家のことはメセリアに任せておけ。お前が気にするようなことは何もない』

 お父様はさらに、メセリアに対して期待しているような言葉を口にした。
 その時お父様は、目を合わせてくれなかった。それはどうしてなのだろうか。
 あの時お父様は、気まずそうだった。私に対して申し訳なさを覚えていたということだろうか。

『ああ、気楽に構えていれば良い』

 それからお父様は、そんなことを言っていた。
 今考えてみると、あれは私への気遣いの言葉だ。本当に私のことを必要としていない――なんとも思っていないなら、あのような言葉は出てこないだろう。

『……最近、体調はどうだ? 悪くなったりはしていないか?』

 その後お父様は、私の体調について心配してくれていた。
 それについて私は、意図を計りかねていた。しかしあれはもしかしたら、お母様のことがあったからかもしれない。

 お母様はある日突然体調を崩して、そのまま亡くなってしまった。その体は、病に侵されていたのだ。
 それがお父様の中で傷になっていて、私のことを気にしていた。その可能性は、充分にあるといえる。

『それなら良かった』

 私が部屋を出て行く前に、お父様はそう言っていた。
 それが安心から出た言葉だということが、今ならわかる。あの時もお父様はずっと、私のことを思いやってくれていたのかもしれない。

「アルディス様……」
「何か新しい発見がありましたか……」
「そうですね……ただ、私の考えがどこまで正しいのかは結局の所わからないので、本人に聞いてみるしかないと思います」
「それはまあ、そうでしょうね」

 アルディス様の助言によって、私はお父様と話すことに少しだけ前向きになれた。それは私にとっては、大きな進展だ。
 イグニスとシスティア、それからアルディス様に事情を話したのは正解だったといえる。お陰で私は、前に進む力を得られた。

「兄上も意外と頼りになるものだな……しかし、父上とそんなことを話していたとは」
「これでも一応、次期ヴェリトン伯爵だからな」
「まあ、ミリーシャが納得できる何かが得られたのなら良かったわ」

 三人の言葉に、私は笑顔を浮かべながら考える。
 お父様やティシア様と話す覚悟は、既にできた。ただその前に、もう一人話しておくべき人がいるかもしれない。
 いや、迷う必要などはないだろう。今の私なら、きっときちんと話すことができる。部屋に戻ったら、妹に色々と聞いてみるとしよう。
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