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私は、廊下をゆっくりと歩いていた。
足の痛みが取れないため、私はとりあえず浴場に向かっている。この時間に、あそこは使われていないし、誰にも見られずに足を冷やすことができるからだ。
不幸中の幸いかどうかはわからないが、私が多少仕事を抜け出していても特に何か言われることはない。アルキーナ様を止められないが、せめても情けとして、そういう時間を作ることを許されているのだ。
「痛っ……」
そこで、私は壁にもたれかかった。
足の痛みに、流石に耐え切れなくなってしまったのだ。浴場までは、まだそれなりに距離がある。これは、休み休み行くしかないかもしれない。
「……どうかしましたか?」
「え?」
そんな私に、話しかけてくる人がいた。しかし、そんな人がこの屋敷にいるはずはない。こういう時には、見てみぬ振りをされるはずだ。
ということは、私に話しかけてきたのは屋敷の人間ではないということである。そういえば、声も聞いたことがないし、相手はお客様ということだろう。
「ご心配をおかけして、申し訳ありません。少し、立ち眩みをしてしまったようです」
「立ち眩みですか」
私は、ゆっくりとお客様に目を向けた。
その顔に、私は少しだけ驚いた。その人物が、とても高貴な人だったからだ。
彼の名前は、ウェリクス・ストライナ。このストライナ王国の第三王子である。
何故、彼がこんな所にいるのか。それは、なんとなく予想できた。ウェリクス様は、アルキーナ様の婚約者である。きっと、彼女に会いに来たのだ。
彼の来訪の知らせはなかったため、大方近くに用があったため少し寄ったとか、そういうことだろう。確か、前もそんなことがあったので、恐らくそんな所であるはずだ。
「立ち眩み、本当にそうでしょうか?」
「え?」
「あなたは先程から、足に体重をかけていませんね? 少し、重心がおかしいように思えるのは、僕の気のせいでしょうか?」
「そ、それは……」
ウェリクス様の言葉に、私はまた驚くことになった。
私の足に異常があることを、彼は一瞬で見抜いた。確かに、足の裏が痛いので多少は変だったかもしれないが、そんな簡単に見抜けるものなのだろうか。
そんなことを思いながら、私は言い訳を考えていた。流石に、彼にフェルリンド家の内情を知られる訳にはいかない。あんな主人でも、私は使用人だ。ここは、誤魔化した方がいいだろう。
「ええ、少し足を捻ってしまって……」
「捻った……あなたがそう言うということは、これは僕に話せないような怪我ということですか?」
「え?」
「捻った時の庇い方ではありませんよ、あなたの立ち方は。怪我をしているのは、足の裏でしょうか?」
「なっ……」
「図星のようですね……」
私の状態を、ウェリクス様は的確に見抜いてきた。
私の立ち方が、余程変だったのだろうか。それとも、彼の洞察力が優れているのだろうか。
どちらにしても、誤魔化すのは無駄であるようだ。ここは、正直に話すしかないのかもしれない。
だが、どう話せばいいのだろうか。アルキーナ様のことを正直に打ち明けるのもまずいし、私は言葉に詰まってしまう。
「とにかく、一度その足は治療するべきでしょう。歩けますか?」
「え、えっと……」
「歩けないようですね。それなら、僕に体を預けてください。少し、失礼しますよ」
色々と考えている私に、ウェリクス様は手を伸ばしてきた。
そのまま、私は彼に抱きかかえられてしまった。所謂、お姫様抱っこの形だ。
足の痛みによって、私は特に抵抗することもなかった。足が地面から離れた時から、私は彼に自然と体を預けてしまったのだ。
「しっかりと捕まっていてください……確か、この先に浴場がありましたね? そこを使わせてもらいましょう。この時間なら誰も使っていないはずですから、秘密の話には打ってつけです」
「あ、はい……」
ウェリクス様は、特に表情を変えることもなく歩き始めた。
こうして、私は何故か第三王子によって運ばれることになったのだった。
足の痛みが取れないため、私はとりあえず浴場に向かっている。この時間に、あそこは使われていないし、誰にも見られずに足を冷やすことができるからだ。
不幸中の幸いかどうかはわからないが、私が多少仕事を抜け出していても特に何か言われることはない。アルキーナ様を止められないが、せめても情けとして、そういう時間を作ることを許されているのだ。
「痛っ……」
そこで、私は壁にもたれかかった。
足の痛みに、流石に耐え切れなくなってしまったのだ。浴場までは、まだそれなりに距離がある。これは、休み休み行くしかないかもしれない。
「……どうかしましたか?」
「え?」
そんな私に、話しかけてくる人がいた。しかし、そんな人がこの屋敷にいるはずはない。こういう時には、見てみぬ振りをされるはずだ。
ということは、私に話しかけてきたのは屋敷の人間ではないということである。そういえば、声も聞いたことがないし、相手はお客様ということだろう。
「ご心配をおかけして、申し訳ありません。少し、立ち眩みをしてしまったようです」
「立ち眩みですか」
私は、ゆっくりとお客様に目を向けた。
その顔に、私は少しだけ驚いた。その人物が、とても高貴な人だったからだ。
彼の名前は、ウェリクス・ストライナ。このストライナ王国の第三王子である。
何故、彼がこんな所にいるのか。それは、なんとなく予想できた。ウェリクス様は、アルキーナ様の婚約者である。きっと、彼女に会いに来たのだ。
彼の来訪の知らせはなかったため、大方近くに用があったため少し寄ったとか、そういうことだろう。確か、前もそんなことがあったので、恐らくそんな所であるはずだ。
「立ち眩み、本当にそうでしょうか?」
「え?」
「あなたは先程から、足に体重をかけていませんね? 少し、重心がおかしいように思えるのは、僕の気のせいでしょうか?」
「そ、それは……」
ウェリクス様の言葉に、私はまた驚くことになった。
私の足に異常があることを、彼は一瞬で見抜いた。確かに、足の裏が痛いので多少は変だったかもしれないが、そんな簡単に見抜けるものなのだろうか。
そんなことを思いながら、私は言い訳を考えていた。流石に、彼にフェルリンド家の内情を知られる訳にはいかない。あんな主人でも、私は使用人だ。ここは、誤魔化した方がいいだろう。
「ええ、少し足を捻ってしまって……」
「捻った……あなたがそう言うということは、これは僕に話せないような怪我ということですか?」
「え?」
「捻った時の庇い方ではありませんよ、あなたの立ち方は。怪我をしているのは、足の裏でしょうか?」
「なっ……」
「図星のようですね……」
私の状態を、ウェリクス様は的確に見抜いてきた。
私の立ち方が、余程変だったのだろうか。それとも、彼の洞察力が優れているのだろうか。
どちらにしても、誤魔化すのは無駄であるようだ。ここは、正直に話すしかないのかもしれない。
だが、どう話せばいいのだろうか。アルキーナ様のことを正直に打ち明けるのもまずいし、私は言葉に詰まってしまう。
「とにかく、一度その足は治療するべきでしょう。歩けますか?」
「え、えっと……」
「歩けないようですね。それなら、僕に体を預けてください。少し、失礼しますよ」
色々と考えている私に、ウェリクス様は手を伸ばしてきた。
そのまま、私は彼に抱きかかえられてしまった。所謂、お姫様抱っこの形だ。
足の痛みによって、私は特に抵抗することもなかった。足が地面から離れた時から、私は彼に自然と体を預けてしまったのだ。
「しっかりと捕まっていてください……確か、この先に浴場がありましたね? そこを使わせてもらいましょう。この時間なら誰も使っていないはずですから、秘密の話には打ってつけです」
「あ、はい……」
ウェリクス様は、特に表情を変えることもなく歩き始めた。
こうして、私は何故か第三王子によって運ばれることになったのだった。
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