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20.幸せな結婚
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妾の子である私は、ダンカー子爵家のためにマークス侯爵家のマルガン様の元に嫁いだ。
その結婚は、良いものとは言い難かった。夫であるマルガン様は、ひどい人間だったのだ。
ただ周囲の人間には、恵まれていたといえる。マークス侯爵夫妻、義妹のミルティア嬢は私のことを思ってくれていた。
それはダンカー子爵家においても、私の味方はいた。兄であるディオン様、彼が信頼する使用人のケイティア、それから彼の母親であるラセリア様もそうだったらしい。
ひどかった実の父は、今は権力を失っている。僻地の別荘という名の独房に入れられて、監視下の元に暮らすというのは非常に苦しいものだろう。
ただ私は特に同情していない。父は間違いなく最低の人間だからだ。
「レディオル様、少しよろしいですか?」
「……どうかしたのかい? エリシア」
そんな生い立ちの私は、今とある騎士の妻として暮らしている。
その騎士とはレディオル様――元夫との一件で知り合った彼に、私は嫁いだのだ。
「いえ、その……私にも家事をやらせていただきたいと思って」
「駄目だ」
彼との結婚は、一度目の結婚とは違って幸せなものだった。
ただその結婚生活が、今は少し変化している。私の夫のレディオル様は優しい方なのだが、その優しさ故に今は意固地になってしまっているのだ。
「あの、私は確かに数日前まで風邪を引いていました。しかし今は完治しています。それなのにいつまでも寝ているのは性に合いません。騎士であるレディオル様を支えるのが、妻である私の役目なのですから」
私はレディオル様とともに、王都に移り住んだ。今は二人で暮らしている。
騎士である彼を支える妻として家を守るのが、今の私の仕事だ。風邪を引いてそれをしばらく休むことになったが、それが治ってもレディオル様は家事を許してくれない。
「君は無茶をしがちだからな……僕は心配なんだ」
「無茶ですか?」
「エリシア、君は強い人間だ。僕は君のそういった所を尊敬している。しかしそれは時に危機を招く。マルガンとの一件の時に、君が踏み込んだことをいつも夢に見る」
レディオル様は、食器を洗いながら心配そうに言葉をかけてきた。
彼の気遣いは、嬉しいしありがたい。しかし、特別な状況でとった行動を持ち出して心配するというのは、過保護が過ぎるような気がしてしまう。
「あ、あれは確かに危険なことをしましたが……もう終わったことです。今は状況も違うではありませんか」
「セントリア橋での一件でも、君は僕の制止を聞かずに飛び出していった。あの時も肝が冷えたものだ」
「そ、それはまあ……あの時は大変でしたね」
「ロックとティセリアでの件では、二人のために尽力した結果倒れかけていた」
「うっ……」
レディオル様は、私と出会ってからあったことを次々と羅列し始めた。
こういう時に、私はいつも彼に負けてしまう。私はこれまで、何度もレディオル様に助けてもらっているのだ。
それは彼を信頼しているからそうしたという部分もあるが、こういった時に持ち出されたら参ってしまう。言い返す言葉がないから。
「わかったら今日は休んでくれ……まあ、明日くらいからは君に家事を任せるさ」
「……あまり過保護にならないでください」
「それについては、許してもらいたいものだな。君は僕にとって、大切な妻なのだから」
「もう……」
私とレディオル様は、いつもそんな風にやり取りを交わしている。
その日々は実に幸せなものだ。彼と結婚できて、本当に良かったと思う。
ダンカー子爵家やマークス侯爵家との交流も続いているし、今の私の生活は順風満帆だといえる。
色々とあったが、それでも今が幸せなのだから、それらも良い思い出だ。なんて言ったら、レディオル様にまた叱られるだろうか。
そんなことを思いながら、私は苦笑いを浮かべるのだった。
END
その結婚は、良いものとは言い難かった。夫であるマルガン様は、ひどい人間だったのだ。
ただ周囲の人間には、恵まれていたといえる。マークス侯爵夫妻、義妹のミルティア嬢は私のことを思ってくれていた。
それはダンカー子爵家においても、私の味方はいた。兄であるディオン様、彼が信頼する使用人のケイティア、それから彼の母親であるラセリア様もそうだったらしい。
ひどかった実の父は、今は権力を失っている。僻地の別荘という名の独房に入れられて、監視下の元に暮らすというのは非常に苦しいものだろう。
ただ私は特に同情していない。父は間違いなく最低の人間だからだ。
「レディオル様、少しよろしいですか?」
「……どうかしたのかい? エリシア」
そんな生い立ちの私は、今とある騎士の妻として暮らしている。
その騎士とはレディオル様――元夫との一件で知り合った彼に、私は嫁いだのだ。
「いえ、その……私にも家事をやらせていただきたいと思って」
「駄目だ」
彼との結婚は、一度目の結婚とは違って幸せなものだった。
ただその結婚生活が、今は少し変化している。私の夫のレディオル様は優しい方なのだが、その優しさ故に今は意固地になってしまっているのだ。
「あの、私は確かに数日前まで風邪を引いていました。しかし今は完治しています。それなのにいつまでも寝ているのは性に合いません。騎士であるレディオル様を支えるのが、妻である私の役目なのですから」
私はレディオル様とともに、王都に移り住んだ。今は二人で暮らしている。
騎士である彼を支える妻として家を守るのが、今の私の仕事だ。風邪を引いてそれをしばらく休むことになったが、それが治ってもレディオル様は家事を許してくれない。
「君は無茶をしがちだからな……僕は心配なんだ」
「無茶ですか?」
「エリシア、君は強い人間だ。僕は君のそういった所を尊敬している。しかしそれは時に危機を招く。マルガンとの一件の時に、君が踏み込んだことをいつも夢に見る」
レディオル様は、食器を洗いながら心配そうに言葉をかけてきた。
彼の気遣いは、嬉しいしありがたい。しかし、特別な状況でとった行動を持ち出して心配するというのは、過保護が過ぎるような気がしてしまう。
「あ、あれは確かに危険なことをしましたが……もう終わったことです。今は状況も違うではありませんか」
「セントリア橋での一件でも、君は僕の制止を聞かずに飛び出していった。あの時も肝が冷えたものだ」
「そ、それはまあ……あの時は大変でしたね」
「ロックとティセリアでの件では、二人のために尽力した結果倒れかけていた」
「うっ……」
レディオル様は、私と出会ってからあったことを次々と羅列し始めた。
こういう時に、私はいつも彼に負けてしまう。私はこれまで、何度もレディオル様に助けてもらっているのだ。
それは彼を信頼しているからそうしたという部分もあるが、こういった時に持ち出されたら参ってしまう。言い返す言葉がないから。
「わかったら今日は休んでくれ……まあ、明日くらいからは君に家事を任せるさ」
「……あまり過保護にならないでください」
「それについては、許してもらいたいものだな。君は僕にとって、大切な妻なのだから」
「もう……」
私とレディオル様は、いつもそんな風にやり取りを交わしている。
その日々は実に幸せなものだ。彼と結婚できて、本当に良かったと思う。
ダンカー子爵家やマークス侯爵家との交流も続いているし、今の私の生活は順風満帆だといえる。
色々とあったが、それでも今が幸せなのだから、それらも良い思い出だ。なんて言ったら、レディオル様にまた叱られるだろうか。
そんなことを思いながら、私は苦笑いを浮かべるのだった。
END
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感想ありがとうございます。
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感想ありがとうございます。
それもありかもしれません。
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……となれば、元々手を組んでいたと見られる。
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まず、サディルス伯爵家を責めましょうか?
感想ありがとうございます。
マルガンが元々野盗と手を組んでいたというのはご推察の通りです。
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