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8.見つからない王太子
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「いない?」
「ええ、王城中を探し回ったのですが……見当たりません。行き先を知る者もおらず」
「それは……おかしな話だ」
とある客室にて、兵士からの言葉に、ウルグドはゆっくりと首を横に振った。
当然のことながら、第一王子であるアザルス殿下が誰にも断りなく王城を離れるなんてことは、あり得ないことである。お忍びで出掛けるにしても、せめて誰かに一声かけるだろう。
「……とりあえず捜索を続けてくれ。何かあったら、すぐに報告を頼む」
「わかりました。それでは、失礼致します」
「さてと……」
兵士が部屋を去った後、ウルグドは私の方に視線を向けてきた。
意見が聞きたいということだろう。それについては、望む所だ。これは私にとっても、重大な出来事である。
「ファナティア、君はどう思う?」
「考えられることは、色々とあります。最悪なのは、何者かがアザルス殿下と聖女ラルル様を連れ去ったということでしょう」
「なるほど、それは確かに最悪だな。王城に侵入者がいて、王太子と聖女をみすみす連れ去られるなんて……」
「ええ、言ってみましたが、その可能性は低いと思います。そんなことができる者はいません。エーファイン王国は、軟弱な国ではありませんから」
エーファイン王国は、強固なる国である。王城に侵入者を許し、アザルス殿下とラルルを連れ去れるなんて可能性はない。それは断言できる。
しかしとなると、他の可能性を考えなければならない。ただその場合、アザルス殿下やラルルに対して、懐疑の目を向けざるを得なくなる。
「アザルス殿下と聖女ラルル様のどちらかが、今回の件を引き起こしたという可能性は、あるかもしれません」
「……やはり、そう考えるべきだろうか?」
「現状得られている情報からだと、そうなると思います。それも恐らく首謀者は、アザルス殿下側である可能性が高いでしょう」
「アザルス兄上が、聖女ラルルをか……」
現在、私が考えているのはアザルス殿下が聖女ラルルを連れ去ったという可能性だ。
アザルス殿下が誰にも知られずに王城から抜け出すということには、本人の意思が必要不可欠である。関係者に命令を下すことができる彼ならば、それはそこまで難しいことではないだろう。そもそも聖女ラルルの部屋の周りから人を消したのは、彼の命であるようだし。
さらに言えば、逆にラルルが首謀者の場合、それらのことが難しくなってくる。
この王城において、彼女の力というものはそこまでではない。魔法関係の人間でも言うことを素直に聞くかは怪しい所だ。それ以外なんて、もっての外だろう。まず言うことを聞いてくれないはずだ。
「念のため聞いておくが、聖女ラルルが魔法によって今回の件を引き起こした可能性などはあるだろうか?」
「彼女は偉大なる魔法使いですが、それはあり得ません。そのようなことがなされていたら、私がわかりますから」
魔法の行使については、なかったといえる。その残滓というものが、読み取れなかったのだ。
ラルルと私の間には魔法使いとしての力量に関して差があるが、それでも私に隠れて魔法を使うなんてことは不可能である。
それがわかるからこそ、アザルス殿下の可能性が高いと判断することになった。ただわからないのは、どうして彼がそのようなことをしたのかということだ。
「ええ、王城中を探し回ったのですが……見当たりません。行き先を知る者もおらず」
「それは……おかしな話だ」
とある客室にて、兵士からの言葉に、ウルグドはゆっくりと首を横に振った。
当然のことながら、第一王子であるアザルス殿下が誰にも断りなく王城を離れるなんてことは、あり得ないことである。お忍びで出掛けるにしても、せめて誰かに一声かけるだろう。
「……とりあえず捜索を続けてくれ。何かあったら、すぐに報告を頼む」
「わかりました。それでは、失礼致します」
「さてと……」
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「なるほど、それは確かに最悪だな。王城に侵入者がいて、王太子と聖女をみすみす連れ去られるなんて……」
「ええ、言ってみましたが、その可能性は低いと思います。そんなことができる者はいません。エーファイン王国は、軟弱な国ではありませんから」
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しかしとなると、他の可能性を考えなければならない。ただその場合、アザルス殿下やラルルに対して、懐疑の目を向けざるを得なくなる。
「アザルス殿下と聖女ラルル様のどちらかが、今回の件を引き起こしたという可能性は、あるかもしれません」
「……やはり、そう考えるべきだろうか?」
「現状得られている情報からだと、そうなると思います。それも恐らく首謀者は、アザルス殿下側である可能性が高いでしょう」
「アザルス兄上が、聖女ラルルをか……」
現在、私が考えているのはアザルス殿下が聖女ラルルを連れ去ったという可能性だ。
アザルス殿下が誰にも知られずに王城から抜け出すということには、本人の意思が必要不可欠である。関係者に命令を下すことができる彼ならば、それはそこまで難しいことではないだろう。そもそも聖女ラルルの部屋の周りから人を消したのは、彼の命であるようだし。
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それがわかるからこそ、アザルス殿下の可能性が高いと判断することになった。ただわからないのは、どうして彼がそのようなことをしたのかということだ。
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