9 / 18
9.おかしな様子
しおりを挟む
「アレイグ兄様、今日は本当にありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない。大切ないとこのことだからな。むしろ来るのが遅過ぎたくらいだ。不出来な兄ですまない」
「い、いえ、そんなことはありませんよ」
アレイグは、すぐにメルティアとの間にある壁を取り払っていた。
こういった所が、彼が長兄たる所以なのだろう。私にはできなかったことでも、彼はすぐに成し遂げるのだ。
とはいえ、気落ちしてはいられない。私はアレイグから、大切なことを聞いた。だから前を向いているのだ。今度こそ本当に、後ろ向きにはならない。
「しかし見舞いの品とはよくわからなくてな。フルーツの詰め合わせを持って来た。後はそうだな。このぬいぐるみだ」
「ぬいぐるみ、ですか? わあ、可愛いですね」
そこでアレイグは、メルティアに熊のぬいぐるみを手渡していた。
ただ、メルティアの反応はあまり芳しくないような気がする。彼女はそういったものは、好んでいるはずなのだが。
記憶の混乱によって、趣味や趣向も変わっているということだろうか。アレイグもそのことには気付いたらしく、苦笑いを浮かべている。
「流石に子供っぽいだろうか?」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。ただ、どこに置こうか悩んでしまって。ほら、あんまりぬいぐるみばかり置いていると、流石にいけませんから」
「確かに、あの一角だけに留まっているか……」
「ええ、でも、せっかくアレイグ兄様からの贈り物ですから、飾りたいと思います」
メルティアはすぐに笑顔を取り戻していた。
しかしその笑顔も、心からのものではないような気がする。なんとなく、気を遣っているような雰囲気があるのだ。
とはいえ、まったく持って喜んでいないという訳でもないかもしれない。アレイグからの贈り物――自分を思ってくれていること自体は、嬉しいということだろうか。
「……」
「メルティア、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
だが、また直後にメルティアの表情は曇っていた。
この一瞬だけで、彼女の様々な感情が垣間見えたような気がする。
ただ私は、それを理解することができていない。彼女のその表情の変遷には、一体どういう意味があるのだろうか。
「アレイグ兄様、本当にありがとうございます」
「いや、余計なことをしてすまなかったな」
「いえ、余計なことではありませんよ」
アレイグと話すメルティアの笑顔には、やはり陰りがあるような気がする。
これは何れ、聞いておいた方が良いことなのかもしれない。
「礼を言われるようなことではない。大切ないとこのことだからな。むしろ来るのが遅過ぎたくらいだ。不出来な兄ですまない」
「い、いえ、そんなことはありませんよ」
アレイグは、すぐにメルティアとの間にある壁を取り払っていた。
こういった所が、彼が長兄たる所以なのだろう。私にはできなかったことでも、彼はすぐに成し遂げるのだ。
とはいえ、気落ちしてはいられない。私はアレイグから、大切なことを聞いた。だから前を向いているのだ。今度こそ本当に、後ろ向きにはならない。
「しかし見舞いの品とはよくわからなくてな。フルーツの詰め合わせを持って来た。後はそうだな。このぬいぐるみだ」
「ぬいぐるみ、ですか? わあ、可愛いですね」
そこでアレイグは、メルティアに熊のぬいぐるみを手渡していた。
ただ、メルティアの反応はあまり芳しくないような気がする。彼女はそういったものは、好んでいるはずなのだが。
記憶の混乱によって、趣味や趣向も変わっているということだろうか。アレイグもそのことには気付いたらしく、苦笑いを浮かべている。
「流石に子供っぽいだろうか?」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。ただ、どこに置こうか悩んでしまって。ほら、あんまりぬいぐるみばかり置いていると、流石にいけませんから」
「確かに、あの一角だけに留まっているか……」
「ええ、でも、せっかくアレイグ兄様からの贈り物ですから、飾りたいと思います」
メルティアはすぐに笑顔を取り戻していた。
しかしその笑顔も、心からのものではないような気がする。なんとなく、気を遣っているような雰囲気があるのだ。
とはいえ、まったく持って喜んでいないという訳でもないかもしれない。アレイグからの贈り物――自分を思ってくれていること自体は、嬉しいということだろうか。
「……」
「メルティア、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
だが、また直後にメルティアの表情は曇っていた。
この一瞬だけで、彼女の様々な感情が垣間見えたような気がする。
ただ私は、それを理解することができていない。彼女のその表情の変遷には、一体どういう意味があるのだろうか。
「アレイグ兄様、本当にありがとうございます」
「いや、余計なことをしてすまなかったな」
「いえ、余計なことではありませんよ」
アレイグと話すメルティアの笑顔には、やはり陰りがあるような気がする。
これは何れ、聞いておいた方が良いことなのかもしれない。
65
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる