妹が私に言う「悪役令嬢」がなんのことだかさっぱりわかりません。

木山楽斗

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9.おかしな様子

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「アレイグ兄様、今日は本当にありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない。大切ないとこのことだからな。むしろ来るのが遅過ぎたくらいだ。不出来な兄ですまない」
「い、いえ、そんなことはありませんよ」

 アレイグは、すぐにメルティアとの間にある壁を取り払っていた。
 こういった所が、彼が長兄たる所以なのだろう。私にはできなかったことでも、彼はすぐに成し遂げるのだ。
 とはいえ、気落ちしてはいられない。私はアレイグから、大切なことを聞いた。だから前を向いているのだ。今度こそ本当に、後ろ向きにはならない。

「しかし見舞いの品とはよくわからなくてな。フルーツの詰め合わせを持って来た。後はそうだな。このぬいぐるみだ」
「ぬいぐるみ、ですか? わあ、可愛いですね」

 そこでアレイグは、メルティアに熊のぬいぐるみを手渡していた。
 ただ、メルティアの反応はあまり芳しくないような気がする。彼女はそういったものは、好んでいるはずなのだが。
 記憶の混乱によって、趣味や趣向も変わっているということだろうか。アレイグもそのことには気付いたらしく、苦笑いを浮かべている。

「流石に子供っぽいだろうか?」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。ただ、どこに置こうか悩んでしまって。ほら、あんまりぬいぐるみばかり置いていると、流石にいけませんから」
「確かに、あの一角だけに留まっているか……」
「ええ、でも、せっかくアレイグ兄様からの贈り物ですから、飾りたいと思います」

 メルティアはすぐに笑顔を取り戻していた。
 しかしその笑顔も、心からのものではないような気がする。なんとなく、気を遣っているような雰囲気があるのだ。
 とはいえ、まったく持って喜んでいないという訳でもないかもしれない。アレイグからの贈り物――自分を思ってくれていること自体は、嬉しいということだろうか。

「……」
「メルティア、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」

 だが、また直後にメルティアの表情は曇っていた。
 この一瞬だけで、彼女の様々な感情が垣間見えたような気がする。
 ただ私は、それを理解することができていない。彼女のその表情の変遷には、一体どういう意味があるのだろうか。

「アレイグ兄様、本当にありがとうございます」
「いや、余計なことをしてすまなかったな」
「いえ、余計なことではありませんよ」

 アレイグと話すメルティアの笑顔には、やはり陰りがあるような気がする。
 これは何れ、聞いておいた方が良いことなのかもしれない。
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