妹が私に言う「悪役令嬢」がなんのことだかさっぱりわかりません。

木山楽斗

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8.長兄として

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「さて、兄や姉が何故先に生まれてくるのか、という話だったか?」
「ええ、なんというか、上に生まれた者としての心構えを聞きたくて」
「それは一言で言い表せるようなことではない。様々な理由があるといえるだろう。その中で何を優先するかは、各々が判断するべき事柄だ」

 アレイグはゆっくりと立ち上がり、窓の近くに陣取った。
 私もそれに続いていく。彼が何かしらを伝えようとしてくれていることは、明らかだったからだ。

「例えば、お前は昔あの木の上から落ちたことがあったな」
「ああ、そういえばそんなことがあったわね」
「叔父上が慌てていたことは今でも記憶に残っている。無茶なことをしたものだ」
「まあ、若気の至りというものね」

 アレイグは庭にある木を見つめていた。
 そこに私は、かつて登っていたことがある。それで丁度アレイグとイフェールが遊びに来ていた時に、木から落ちてしまったのだ。
 落ちたことによって、私はやっと自分が危ないことをしていたと気付いた。今考えてみれば、なんとも馬鹿なことをしたものだ。

「しかし、お前が木から落ちたことによって、お前に憧れていたメルティアも木に登るのはやめた。それはお前が、その身を持って妹にそれが危険であることを示したからだ」
「それは……」
「兄や姉というものは、弟や妹の規範になるべき存在なのだろう。俺達は、弟や妹よりも先に生まれた。つまりその分の経験がある。自分がした失敗をしないようにさせ、自分がした成功は同じように体験させる。それが俺達の役目だ」

 アレイグは私の目を真っ直ぐに見つめてきた。
 やはり流石は王家の長兄だ。その意識には、私も思わず感服してしまう。

「故に俺は、お前にも道を示さなければならないだろう」
「……え?」
「俺はお前よりも一つ年上だ。もちろん、俺とお前は本当の兄妹ではないが、これでも俺はお前の心の兄でいたいと思っている。出来の悪い兄ではあるがな」
「……そんなことはないわ」

 アレイグの言葉は、とても嬉しいものだった。
 私だって彼の心の妹でありたいと思っている。彼は尊敬できる長兄だと、心からそう思う。

「さて、俺の失敗と成功を伝えておこう。あまり気負うな。そして妹を侮るな」
「侮るな?」
「弟や妹は、俺達が思っているよりもずっと賢いということだ。言いたいことがあるなら、きちんと伝えればいい。そうしなければ、双方が傷つくだけだ」

 私は、兄の言葉を頭の中でゆっくりと噛み砕いていく。
 つまりメルティアには、私の憂いなんて見抜いているということなのだろう。
 私は妹に、余計な負担をかけてしまっているようだ。それはなんとも、駄目な姉である。
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