聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私とレイグスは、町の人達が集まっている家の前まで来ていた。
 そこは、町の診療所である。この場所に人が集まる理由は、様々あるだろう。
 だが、それが良いことか悪いことかの判断は中々困る。怪我人の可能性もあるし、子供が生まれたから集まっている可能性もある。どちらの可能性もあるのだ。

「何があった?」
「レイグス様、実は怪我人が出たようなんです」

 レイグスの質問に、集まっている人の中の一人が答えた。
 どうやら、今回は悪いことだったようだ。
 しかし、それは大方察していたことである。残念ながら、こういう時は、悪いことである方が多いのだ。

「怪我人? 重症なのか?」
「ええ、なんでも、魔物に襲われたらしいんです」
「魔物……? どうして、そんなものに襲われたんだ?」
「その……どうやら、町の中に魔物が入り込んだみたいです」
「なんだって……!」

 町人の言葉に、レイグスも私も驚いた。
 町の中に魔物が入ってきた。それは、あり得ないことである。
 なぜなら、このサジェルド王国の町々は結界によって守られおり、魔物が入って来られないようになっているからだ。

「はっ……」
「どうした?」
「結界が弱まっているのかもしれない。後任の聖女が、あの激務に耐えられなかった可能性は充分あると思う」

 そこで、私はこの国の現状を思い出した。
 よく考えてみれば、現在この国の聖女はまともに機能しているとは言い難い。上に立つ者が無能であるため、かなり大変なことになっているはずだ。
 私の後任が、ビクトンによる激務に耐えきれなかった。その可能性は、充分にある。
 それにより、結界が弱まり魔物が入ってきた。それが、一番自然な流れではないだろうか。

「無能な王子のつけは、俺達に回って来るということか……」
「ごめん……私が聖女をやめなかったら……」
「お前のせいじゃないさ。それに、どの道、お前が続けていたとしても、この結果は避けられなかっただろうぜ。人間、無理をしているといつか限界が来る。ビクトンが上に立っている限り、こういう事態は絶対に起こっただろうぜ」

 責任を感じている私に、レイグスはそう言ってくれた。
 彼は優しいので、そういう風に言ってくれるかもしれない。
 だが、私がやめたことで聖女が破綻したなら、それは私にも責任があるということだ。遅かれ早かれそうなったとしても、その気持ちは変わりそうにない。

「でも……」
「後悔している暇があったら、今できることをやろうぜ。お前のその優れた魔力は、なんのために使うべきなんだ?」
「あっ……」

 レイグスに言われて、私は気づいた。
 私が今やるべきことは、後悔などではない。この診療所の中にいる人を助けることである。
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