七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗

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1.聖女選抜試験

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 幼少期の頃から、私には魔法使いとしての才能があった。
 多くの魔力と優れた魔法技術によって、私は様々な魔法を扱うことができたのだ。
 そんな私が聖女を目指すようになったのは、自然なことだったように思える。エルファンド王国における魔法使い最高峰のその役職は、私が目標にするべきものだということは、すぐに理解できたのだ。

「なんて見事な魔法技術……」
「優れた魔法使いだとは聞いていたけれど、ここまでなの……?」

 私は今まさに、その聖女の選抜試験を受けている。この国から集められた優れた女性の魔法使いから、聖女を選ぶこの試験において、私は圧倒的な力を見せつけていた。
 正直言って周りのほとんどの魔法使い達の実力は、私よりも一回り以上劣っている。この中で、私に匹敵する力を持っているとしたらただ一人だ。

「ラムーナ……やはりあなたが私にとって一番の壁になるようね?」
「サリーム様……」

 目の前にいるサリーム・ウェルメノン公爵令嬢とは、今まで何度か会ったことがある。同じ聖女を目指す者として、魔法使いとしての技術を高めるための場で出会ったのだ。
 その時から、彼女は私をライバル視してきた。相手の地位が地位なので大っぴらには言えなかったが、それは私も同じである。
 サリーム様はとても優れた魔法使いだ。魔力も魔法技術も私に匹敵している。
 恐らく、聖女に選ばれるのは私か彼女だろう。それ以外の魔法使い達は、そもそも基礎能力の時点で差があり過ぎる。

「さて、それでは次はサリーム・ウェルメノン公爵令嬢。よろしくお願いします」
「……はい」

 そして私はどちらかというと、サリーム様の方が聖女に選ばれると思っていた。なぜなら彼女は、公爵令嬢であるからだ。
 試験官も彼女にはとても丁寧な対応をしている。その時点で差があることが感じられた。
 例え私が彼女に実力で上回っていたとしても、地位と実力を兼ね備えたサリーム様を差し置いて聖女に選ばれるとは思えない。
 故に彼女の試験結果が余程悪かったりしない限り、私は聖女になれないのである。悲しいことではあるが、身分というものにはそれ程に明確な差があるのだ。

「すごい。あんな風に魔法を操れるなんて……」
「私達なんて、足元にも及ばなかったのね……」

 サリーム様は、魔法を操り周囲にある的に的確に当てていった。やはり彼女の魔法技術は素晴らしい。周囲の魔法使い達が言っているように、見事なものだ。
 もちろん、それに私が劣っているという訳ではない。自分で言うのもなんだが、むしろ勝っているとさえいえる。
 しかしこれなら、充分に聖女は務まるだろう。つまり選ばれるのは、彼女であるということだ。

「いや、流石ですね、サリーム嬢」
「……」

 一通り魔法を使い終えたサリーム様に、試験官は笑顔で話しかけた。
 それに対して、彼女は少し怒ったような顔をする。それは恐らく、他の人に対して彼が話しかけていなかったからだろう。
 公爵令嬢ではあるが、サリーム様はその地位をひけらかしたりしない。そのような高潔な彼女にとって、試験官の媚を売るような態度は気に入らないものだったのだろう。

「さて、これで全ての試験が終了しましたな……しかし最早誰が聖女に相応しいか明白といえるでしょう」

 その試験官はサリーム様のそのような表情にまったく気付くことなく、他の試験官にそう呼びかけた。
 それが誰を指しているか、この会場の誰もがわかっているだろう。私とサリーム様の実力の差は端から見れば拮抗して見えるとは思うが、それならどちらが選ばれるかなんて考えるまでもないことである。

「サリーム嬢、次の聖女はあなただ」

 試験官の言葉に、他の試験官も拍手をして応えた。それはつまり、その判断を支持するということなのだろう。
 私以外の魔法使い達も、皆拍手している。私もとりあえず同じように拍手しておく。悔しい気持ちはあるが、これは仕方ないことだ。そうやって自分を納得させる。

「……」

 しかしそんな中で不満そうな顔をしている人が一人いた。それは、聖女に選ばれたサリーム様本人である。
 次の瞬間、辺りに大きな音が響く。それは、サリーム様が床を大きく踏み鳴らした音であることはすぐにわかった。

「……エルファンド王国の聖女とは、この国で最も優れた女性の魔法使いに与えられる称号であると記憶しています。それが私だというのですか?」
「……他に誰がいるというのですか?」
「はっ! この国の魔法使いのレベルは相当低いようですね……まさか、私とラムーナのどちらが優れているかすら見抜けないというのですか?」
「それは……」

 サリーム様の言葉に、試験官は怯んでいた。
 流石に試験官達は、私の方がわずかに上手だとわかっていたようである。

「私は権力によって聖女に就任したいなどとは思っていません。むしろこうやって実力が正当に評価されないという現状を忌々しく思います」
「失礼ながら、聖女の資質とは実力だけではないと思いますが」
「……それなら私は、聖女を辞退します」
「なっ……」

 サリーム様は、試験官達に背を向けた。
 どうやら彼女は、本当に聖女の地位を蹴るつもりのようだ。
 本当にそれでいいのだろうか、そう思っていた私に彼女は笑みを向けてくる。

「聖女に就任するかどうかは、本人の意思によって決められるものでしょう?」
「それは、そうですが……今まで断った者など存在しません」
「それでは、私が一例目です……まあ、私の判断に反抗したいというならどうぞご勝手に。もっとも、それはあなた達が大好きな権力によって捻じ伏せますが」
「ぐっ……」

 試験官は、サリーム様に対して少し怒ったような表情を浮かべていた。流石に自分より遥かに年下の娘にあれだけのことを言われたため、腹が立ったのだろう。
 しかし、それでも試験官は何も言わなかった。そうやって何も言えなくなる程の権力が、サリーム様にはあるのだ。

「……それでは私はこれで失礼します」

 それだけ言い残して、サリーム様は会場から去っていった。
 その場に残された私は、ただ固まっていることしかできなかった。
 彼女が聖女の地位を蹴った以上、誰が次の聖女になるかはほぼ決まっている。この会場における二番目の候補、それは間違いなく私だ。
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