私のために婚約破棄したと言われましても

木山楽斗

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12.困難を乗り越えて

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 色々とあったが、とりあえずリリアナ嬢とチャルド様の一件は解決したといえる。
 首謀者であるリリアナ嬢が捕まった今、私やガルタン男爵家を害する者はいない。そのことに関しては、ひとまず安心だ。

 とはいえ、あの一件の影響は大きいといえるだろう。噂飛び交う社交界において、巻き込まれた形とはいえ事件に関係していたという事実は、ガルタン男爵家にとって良いものではなかった。

「そういった噂に関しては、王家の方で大々的に否定しているのですがね……それでも収まりはしませんか」
「それは仕方ないことだと思います。私の関り方は、なんとも歪なものですからね……信じられていない、ということでしょう」

 そんなガルタン男爵家の屋敷に、エリクス殿下が訪ねてきた。
 彼は事件が解決してからも、私達のことを気にかけてくれている。本当にどこまでも、優しい方だ。

「ままならないものですね……さてケイティア嬢、今日はあなたに一つ提案があって訪問させてもらいました」
「提案ですか?」
「僕と婚約していただけませんか?」
「……え?」

 ただの世間話から一転して、エリクス殿下はとんでもないことを言ってきた。
 その言葉に私は、目を見開いてしまっている。ただ彼の気質からして、それは恐らく冗談の類ではないのだろう。その表情からも、それが伺えた。

「今回の一件でケイティア嬢と接していく中で、あなたが素敵な女性であるということがわかりました。だからあなたを妻に迎えたいのです」
「そ、それは光栄なことですけれど、私は男爵家の令嬢ですよ? エリクス殿下なら、もっと高位の令嬢との縁談をまとめられます」
「高位だから良いうことではありませんよ。僕はあなたが良いと思っているのです。個人としても公人としても、その気持ちというものは変わりません」

 エリクス殿下は、真っ直ぐに私の目を見てきた。
 彼は決意を固めた上で提案してきたようだ。いやそれは、考えるまでもないことだ。婚約を申し込むなんて、軽い気持ちできることではない。

「エリクス殿下にそう言っていただけることは、とても嬉しく思います。それを受け入れたいとも思っています。ただ私などにあなたの妻が務まるのか、そもそ婚約が成立するのか色々と不安があります……」
「ご心配なく、ケイティア嬢ならば僕の妻として不足はありません。むしろ夫である僕の方が心配なくらいです。婚約に関しては、なんとかしてみせますよ。まあ、男爵家であろうと貴族ですからね。父上もそう強く反対するということもないはずです」
「それならば……私をエリクス殿下の妻にしてください」
「ええ、もちろんですとも」

 少し悩んだが、私はエリクス殿下の提案を受け入れることにした。
 それは王家との繋がりが得られるから、ということが理由ではなく、単に私が彼の人柄を好ましく思っているからだ。
 色々と困難はあるだろうが、エリクス殿下の手を離したくはなかった。心優しく責任感が強い彼の妻になりたいと、私は思ってしまったのだ。

 リリアナ嬢とチャルド様の一件に巻き込まれてしまったものの、結果的に私は良き人に巡り合えたといえる。
 エリクス殿下と一緒なら、何も心配することはない。そう思いながら、私は彼とともに笑顔を浮かべるのだった。


END
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