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7.過ぎた地位
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「……む」
私が視線を向けたからなのか、ウェルド様はゆっくりとこちらを向いた。
程なくして、彼は私達がいる方に歩いて来る。私の視線が気になったからだろうか。その顔は少し険しい。
「フラウバッセン殿、またこんな所に来ているのですか?」
「ウェルド殿下、確かに私はここによく来ていますが、今日は来なければならない事情があったのです」
「ほう? いつも業務をサボってここに来ていることは認めるのか?」
「いえいえ、それもサボっている訳ではありませんよ。ただ単に休憩しているだけです」
こちらにやって来たウェルド様は、私のことはそれ程気にせずにフラウバッセンさんとそのような会話を交わした。
なんとなく察していたことではあるが、騎士団のファンであるフラウバッセンさんはここに度々訪れているらしい。
魔術師団のトップがそれでいいのだろうか。私の頭には、そのような考えが過った。恐らく、ウェルド様もそう思ったから険しい顔をしていたのだろう。
「まあ、普段のことはとりあえずいいとしましょう。こちらの女性は?」
「ああ、私が魔術師団にお誘いしたラナトゥーリ・ウェルリグル侯爵令嬢です。ウェルド殿下のお耳にも入っているでしょう?」
「ああ、魔法学園を首席で卒業したという女性ですか……」
「ええ、私は彼女の案内をしていたのです。決してサボっていた訳ではありませんよ」
「なるほど」
ウェルド様は、そこで私に視線を向けた。その鋭い眼が、私のことを観察してくる。
彼のことは、何度か聞いたことがあった。第二王子でありながら、騎士団の団長。非常に優れた剣士であり、荘厳な人物。よく聞く情報としては、そんな所だろうか。
「ラナトゥーリ嬢、私はウェルド・ラーバインと申します。一応、この王国騎士団の騎士団長をしています」
「ウェルド殿下、そういう言い方はよくありませんよ。あなたは、まごうことなき騎士団長なのですから」
「……何か問題でもあるんですか?」
ウェルド様は、とても歯切れの悪い自己紹介をしてきた。明らかに何かあるといった感じだ。
フラウバッセンさんの言葉もそれを裏付けている。恐らく、何かしらの事情があるということなのだろう。
「ラナトゥーリ嬢、私はこの国の第二王子でもあります。つまり権力者ということです。それが騎士団長の地位にある。どういうことかわかりませんか?」
「……まさか」
「ええ、そのまさかです。私のこの地位は、父上の権力によって与えられたもの……コネによって得た地位に過ぎません」
「それは……」
ウェルド様のことを聞いた時、それは想像したことではある。というか第二王子が騎士団長であるという時点で、きっと誰だって思うことだろう。
ただそれが、本人の口から出てくるとは思っていなかった。いや、本人だからこそ言えるのだろうか。他の人が言ったら、大目玉を食らうだろうし。
「そんなことはありません。ウェルド様の剣術は、見事なものです」
「確かに剣の腕には自信があります。ですが、一番だと思ったことはありません。それに指揮や実績を考えると、このような若造には荷が重い役職です」
「いや、それは……」
恐らく、ウェルド様は真面目な人であるのだろう。その言動からは、それが伝わってくる。
だからこそ、自分に与えられた過ぎた地位に苦しんでいるのだ。他に相応しい人がいくらでもいると思って。
私が視線を向けたからなのか、ウェルド様はゆっくりとこちらを向いた。
程なくして、彼は私達がいる方に歩いて来る。私の視線が気になったからだろうか。その顔は少し険しい。
「フラウバッセン殿、またこんな所に来ているのですか?」
「ウェルド殿下、確かに私はここによく来ていますが、今日は来なければならない事情があったのです」
「ほう? いつも業務をサボってここに来ていることは認めるのか?」
「いえいえ、それもサボっている訳ではありませんよ。ただ単に休憩しているだけです」
こちらにやって来たウェルド様は、私のことはそれ程気にせずにフラウバッセンさんとそのような会話を交わした。
なんとなく察していたことではあるが、騎士団のファンであるフラウバッセンさんはここに度々訪れているらしい。
魔術師団のトップがそれでいいのだろうか。私の頭には、そのような考えが過った。恐らく、ウェルド様もそう思ったから険しい顔をしていたのだろう。
「まあ、普段のことはとりあえずいいとしましょう。こちらの女性は?」
「ああ、私が魔術師団にお誘いしたラナトゥーリ・ウェルリグル侯爵令嬢です。ウェルド殿下のお耳にも入っているでしょう?」
「ああ、魔法学園を首席で卒業したという女性ですか……」
「ええ、私は彼女の案内をしていたのです。決してサボっていた訳ではありませんよ」
「なるほど」
ウェルド様は、そこで私に視線を向けた。その鋭い眼が、私のことを観察してくる。
彼のことは、何度か聞いたことがあった。第二王子でありながら、騎士団の団長。非常に優れた剣士であり、荘厳な人物。よく聞く情報としては、そんな所だろうか。
「ラナトゥーリ嬢、私はウェルド・ラーバインと申します。一応、この王国騎士団の騎士団長をしています」
「ウェルド殿下、そういう言い方はよくありませんよ。あなたは、まごうことなき騎士団長なのですから」
「……何か問題でもあるんですか?」
ウェルド様は、とても歯切れの悪い自己紹介をしてきた。明らかに何かあるといった感じだ。
フラウバッセンさんの言葉もそれを裏付けている。恐らく、何かしらの事情があるということなのだろう。
「ラナトゥーリ嬢、私はこの国の第二王子でもあります。つまり権力者ということです。それが騎士団長の地位にある。どういうことかわかりませんか?」
「……まさか」
「ええ、そのまさかです。私のこの地位は、父上の権力によって与えられたもの……コネによって得た地位に過ぎません」
「それは……」
ウェルド様のことを聞いた時、それは想像したことではある。というか第二王子が騎士団長であるという時点で、きっと誰だって思うことだろう。
ただそれが、本人の口から出てくるとは思っていなかった。いや、本人だからこそ言えるのだろうか。他の人が言ったら、大目玉を食らうだろうし。
「そんなことはありません。ウェルド様の剣術は、見事なものです」
「確かに剣の腕には自信があります。ですが、一番だと思ったことはありません。それに指揮や実績を考えると、このような若造には荷が重い役職です」
「いや、それは……」
恐らく、ウェルド様は真面目な人であるのだろう。その言動からは、それが伝わってくる。
だからこそ、自分に与えられた過ぎた地位に苦しんでいるのだ。他に相応しい人がいくらでもいると思って。
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