怠惰な聖女の代わりに業務を担っていた私は、たまの気まぐれで働いた聖女の失敗を押し付けられて追放されました。

３９

　私とリルガー様は、異形の怪物となった国王様と対峙していた。
　国王様は、再生能力を持っているようだ。しかし、それでもリルガー様の余裕は崩れていない。恐らく、何か考えがあるのだろう。

「ふははは！　この無敵の体に勝てる訳はない！」
「来たか……」

　国王様は、再びリルガー様に向かってきた。
　だが、ただ真っ直ぐ向かってくるだけなら、先程の再現にしかならない。

「ぐはっ！」
「……」
　
　私の予想通り、国王様は再び心臓を貫かれた。
　さらに先程と同じように、その体は蹴り飛ばされていく。

「い、一体、何を……」
「恐らく、彼はこちらが疲労するのを待っているのでしょう。無限に再生する肉体であるため、それで構わないと思っているのかもしれません」
「そ、そんな捨て身な戦術……」
「ですが、意外と有効かもしれませんね。こちらはあちらと違って、攻撃を受けてはいけませんから、余裕もない。長期戦を仕掛けられるのは、少々困ります」

　リルガー様は、国王様の戦術を解説してくれた。
　ただ、彼はまったく焦っていない気がする。
　状況だけ考えると、リルガー様はいつか負けるはずだ。それなのに、私はまったくそんな気がしないのである。

「お前達は終わりだ。この肉体は、疲れも痛みもそれ程感じない。永遠に戦えるこの肉体に、敗北はないのだ！」
「はあ！」

　再び向かってきた国王様は、今度は動きを変えてきた。
　一度空中に羽ばたいてから、急降下してきたのである。
　しかし、リルガー様はその攻撃をいとも簡単にさばいた。どうやら、二人の間には圧倒的な力量差があるようだ。

「無駄だ！　いくら切り裂かれても、私の体は再生する！」
「ふん！」

　リルガー様の剣が、国王様の体を切り裂いた。
　しかし、その傷はすぐに消えていく。その再生能力が、彼の体を癒しているのだ。
　どのような攻撃をしても再生できる。そんな相手に、リルガー様はどうやって勝つつもりなのだろうか。

「レパイア王よ。魔法というものは、魔力によって行使されるものだ」
「む？」
「禁忌の魔法でも、それは変わらない。あの魔法は、人間の生命力を使って、行使される魔法だ。つまり、その生命力の分だけしか機能しないということだ」
「何が言いたい！」
「お前は無敵の体になったと言った。だが、それは無敵の体ではない。その体に宿る数多の生命力がなくなれば、お前は再生できないということだ！」

　言葉とともに、リルガー様は国王様の腕を切り裂いた。
　本来なら一瞬で再生するはずの腕は、いつまで経っても生えてこない。
　その様に、国王様は驚いていた。だが、すぐに表情を変える。恐らく、リルガー様の言葉を理解したのだろう。

「ば、馬鹿な！」

　こうして、国王様は一転して窮地に立たされたのである。