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26.夫人と弟
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バルギード様の家族との対面は、彼が私の家族と対面してからすぐのことだった。
ラーゼム公爵家を訪ねた私は、公爵夫人と彼の弟と顔を合わせることになったのである。
「……本当に申し訳ありません。本来であれば、もっと早くに挨拶するべきだったのですが」
「いいえ、お気になさらないでください」
公爵夫人は、痩せ細ったか弱い印象がある人物だった。
なんでも先日まで大病を患っていたらしく、長い間入院していたそうだ。
幸いにも、病気は治ったそうなのだが、それでもまだ体力は回復していないのだろう。少し辛そうである。
「母上、本当に大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫よ」
そんな夫人の横にいるのは、バルギード様の弟であるホルーグ様だ。
まだ少年とさえいえる年齢の彼には、確かにバルギード様の面影がある。いや、それは正確にはラーゼム公爵の面影というべきなのだが。
「……申し訳ありませんが、見ての通り母上は病み上がりで無理はさせられないのです。話なら、僕の方が伺いますから、どうか母上を休ませていただけませんか?」
「ホルーグ、私は本当に大丈夫よ。そのような失礼な頼みは……」
「失礼などではありません。大切なことです、この場で母上に何かあったらオンラルト侯爵家にも迷惑でしょう?」
「ラーゼム公爵夫人、体調が優れないようなら休んでください。私のことはお気になさらず、ご自愛ください」
ホルーグ様は、かなり夫人のことを心配しているようだった。それは、仕方ないことかもしれない。夫人の顔色は、良いとは言い難いからだ。
もしかしたら、夫人本人としては平気なのかもしれない。いや、平気でなければこの場には来ないだろう。ホルーグ様の言っていることは、もちろん彼女も承知のはずだからだ。
とはいえ、家族からすれば心配になるはずである。私にも、それは理解できた。
だから、夫人には休んでもらいたい。そうしなければ、ホルーグ様もバルギード様も落ち着いて話ができないだろう。
「……わかりました。申し訳ありませんが、休ませていだきます」
私の言葉に、夫人はゆっくりと頷いてくれた。
恐らく、状況を理解してくれたのだろう。どうやら、夫人はとても聡明な方なようだ。
「……セリティア嬢、どうかバルギードのことをよろしくお願いします。この子は少々頑固ではありますが、誠実な子です」
「はい。全身全霊で彼を支えていきたいと思っています」
「……ありがとうございます。ふふ、バルギード、あなたは本当に良き婚約者に巡り会えたようですね?」
「ええ、彼女以上の婚約者はいないと思っています」
夫人は、バルギード様に穏やかな笑みを向けた。それに対して、彼も笑顔で返す。
二人のやり取りを見ていると、本当の親子のように見える。いや、二人は本当の親子であるのだろう。例え血が繋がっていなくても。
ラーゼム公爵家を訪ねた私は、公爵夫人と彼の弟と顔を合わせることになったのである。
「……本当に申し訳ありません。本来であれば、もっと早くに挨拶するべきだったのですが」
「いいえ、お気になさらないでください」
公爵夫人は、痩せ細ったか弱い印象がある人物だった。
なんでも先日まで大病を患っていたらしく、長い間入院していたそうだ。
幸いにも、病気は治ったそうなのだが、それでもまだ体力は回復していないのだろう。少し辛そうである。
「母上、本当に大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫よ」
そんな夫人の横にいるのは、バルギード様の弟であるホルーグ様だ。
まだ少年とさえいえる年齢の彼には、確かにバルギード様の面影がある。いや、それは正確にはラーゼム公爵の面影というべきなのだが。
「……申し訳ありませんが、見ての通り母上は病み上がりで無理はさせられないのです。話なら、僕の方が伺いますから、どうか母上を休ませていただけませんか?」
「ホルーグ、私は本当に大丈夫よ。そのような失礼な頼みは……」
「失礼などではありません。大切なことです、この場で母上に何かあったらオンラルト侯爵家にも迷惑でしょう?」
「ラーゼム公爵夫人、体調が優れないようなら休んでください。私のことはお気になさらず、ご自愛ください」
ホルーグ様は、かなり夫人のことを心配しているようだった。それは、仕方ないことかもしれない。夫人の顔色は、良いとは言い難いからだ。
もしかしたら、夫人本人としては平気なのかもしれない。いや、平気でなければこの場には来ないだろう。ホルーグ様の言っていることは、もちろん彼女も承知のはずだからだ。
とはいえ、家族からすれば心配になるはずである。私にも、それは理解できた。
だから、夫人には休んでもらいたい。そうしなければ、ホルーグ様もバルギード様も落ち着いて話ができないだろう。
「……わかりました。申し訳ありませんが、休ませていだきます」
私の言葉に、夫人はゆっくりと頷いてくれた。
恐らく、状況を理解してくれたのだろう。どうやら、夫人はとても聡明な方なようだ。
「……セリティア嬢、どうかバルギードのことをよろしくお願いします。この子は少々頑固ではありますが、誠実な子です」
「はい。全身全霊で彼を支えていきたいと思っています」
「……ありがとうございます。ふふ、バルギード、あなたは本当に良き婚約者に巡り会えたようですね?」
「ええ、彼女以上の婚約者はいないと思っています」
夫人は、バルギード様に穏やかな笑みを向けた。それに対して、彼も笑顔で返す。
二人のやり取りを見ていると、本当の親子のように見える。いや、二人は本当の親子であるのだろう。例え血が繋がっていなくても。
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