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38.家族三人で

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 ゲームの主人公であるラムリアさんは、ゲームの描写と同じように優しい人だった。
 ただ、ゲームの中とは決定的に違うことが一つあった。それは、お母様と彼女が笑い合っていたということである。
 ゲームでは描かれなかったその場面を見られたのは、一ファンとして嬉しい。でもそれ以上に、お母様の娘として嬉しかった。

「お母様……」
「ファルミル? どうかしたの?」
「あ、いえ、なんでもありません。少し見惚れてしまって」
「私に?」
「はい、お母様にです」

 先日のことを思い出しながら、私はお母様の顔を見ていた。
 以前にも増して、お母様は明るくなったような気がする。過去の憑き物が全て落ちたからだろうか。いや、それとも別の理由かもしれない。

「お母様、なんだか最近とても綺麗です……あ、いえ、元々綺麗だったとは思っていましたから、正確には以前にも増して綺麗というか、なんというか……」
「あら、そう言ってもらえるのは嬉しいわね。でも、綺麗になったというなら、ファルミルもよ?」
「え? そうですか?」

 お母様から予想外の返しをされて、私は思わず照れてしまう。
 だが、よく考えてみれば、私が綺麗になるのは当然のことなのかもしれない。だって、私はお母様とお父様の娘だ。綺麗にならないはずはない。

「そうですよね? お母様の娘ですから」
「あら……ファルミルは最近、口も上手くなったわね」
「そうですか?」
「ええ、あなたはきっといい淑女になれるわ。いえ、もういい淑女なのかもしれないわね」

 お母様は、私の頭をゆっくりと撫でてくれる。
 それが嬉しくて、私は笑顔になる。最近は楽しいことばかりだ。本当に幸せで仕方ない。

「二人とも、ただいま」
「あ、お父様」
「お帰りなさい……お仕事、お疲れ様」
「ああ、ありがとう」

 そんなことを思っていると、お父様が部屋に入ってきた。
 今は私の部屋が三人の部屋だ。ここで一日が始まって一日が終わる。それがいつの間にか当たり前になっていた。

「ところで、何の話をしていたんだい?」
「ああ、お母様が綺麗になったという話をしていたんです。お父様も、そう思いますよね?」
「む? アルティリアはいつも綺麗ではあるが……まあ、その綺麗さが増しているというのは確かにそうかもしれないね」
「ファルミルの口が達者なのは、きっとファルクス様に似たのでしょうね」

 お母様の言葉に、お父様は苦笑いを浮かべる。
 それを見ながら、私とお母様は笑う。幸せが部屋に溢れていた。
 私達は、長年の間すれ違っていた。でも、もうそのようなことはないだろう。家族三人で一緒に私達は未来に進んで行くのだ。
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