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20.
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諸々の調査が終わり、エボンス男爵家、バンレド伯爵家、王家の共同戦線が始まった。
カナプト山は、今までエボンス男爵家が手をこまねいた場所である。しかし伯爵家と王家の力が合わさった結果、攻略は順調に進んでいった。
もちろん、こちら側にも被害者は出た。だがそれでも、カナプト山に住む山賊を一網打尽に出きたことは、エボンス領にとって有益であるはずだ。
「さて……」
「……」
そうしてカナプト山を攻略した私達の目の前には、一人の男性がいる。
その男性は、忌々しそうにこちらを睨みつけてくる。ドルナス・バンレド伯爵令息、彼は無事だったのだ。
「これは、どういうことだ。何故、僕が拘束されている」
「往生際が悪いぞ、ドルナス。お前の悪事は、既にわかっている。カナプト山に住む山賊と手を結んでいたな?」
「なんのことか、さっぱりわかりませんな、兄上」
「住人からの証言で、お前が八人の付き人を従えていたことはわかっている。だが、バンレド伯爵家から連れ出したのは七人だ。残りの一人は誰だ?」
「護衛に冒険者を雇ったのです」
「いいや、そうではないさ。そこにいるあの男だ。山賊の一味と接触していたな?」
調査の結果、ドルナス様は山賊と繋がっていることが濃厚となった。
目撃者の証言から、私達は八人目の似顔絵を作った。その似顔絵にそっくりな人物が、山賊の中にいたのだ。
「ええ、しかし山賊とは知りませんでした。僕は単純に、冒険者として雇ったのです」
「まだ言い訳をするのか。ならば問おう。何故、お前は生きている。山賊がお前の命を奪わなかった理由はなんだ」
「交渉したのです。金を渡すからと」
ドルナス様は、あくまで自分と山賊との繋がりを認めようとしなかった。
それは当然のことだ。認めたら彼は罰を受けることになる。何があっても、罪を自白するなんてことはないだろう。
しかしそれは、彼だけの考えである。他の者達もそうであるとは限らない。
「ダグラス伯爵令息、そちらは落ちましたか?」
「いいえ、どうやら非を認める気はないようです」
「なるほど、しかしご安心を。証言は得られました。七人中、五人は山賊との繋がりを認めました。罰の軽減を条件にね……」
「そうですか」
ゼナート様は、ゆっくりとドルナス様に近寄った。
彼は腰に携えている剣を引き抜く。そしてそれを淡々とドルナス様に向ける。
「な、何を……」
「前に言ったはずだ。今度は首をはねると」
「お、横暴だ。いくら第二王子だからといって、そんなことが許される訳がない」
「ええ、それに関してはその通りです。いくらあなたでも、バンレド伯爵家の次男の首をはねたら大問題だ」
そこでダグラス様は、二人の間に入った。
流石の彼でも、兄弟を殺されるのは我慢ならないということだろう。
一瞬、私はそう思った。しかし、すぐに体の向きを変えて剣を抜いたダグラス様に、考えを一転させざるを得なくなる。
「これは、バンレド伯爵家の問題だ。故に、決着もバンレド伯爵家の人間がつけます」
「あ、兄上……」
「懇願をするなら、もう少し早くするべきだったな。万が一、お前が生き残っていたらこうすることは、最初から決まっていたことなんだ。お前は少し、自分勝手が過ぎた」
「あっ、がっ……」
冷たい剣が、私達の前で振り下ろされた。
次の瞬間、私の視界は塞がれた。ゼナート様が、私を抱きしめてくれたのだ。一つの命が潰える場面を見せないように。
「ドルナスは、山賊に殺された。そういうことにしていただけますね?」
「……ああ、それがあなた方にとって一番良い結末なのだな?」
「ええ、その通りです」
私が最後に見たのは、どこか悲しそうな顔をしたダグラス様だった。
どれ程の落ちていても、やはり弟を手にかけるというのは気分が悪いものだったのだろうか。私はそんなことを思うのだった。
カナプト山は、今までエボンス男爵家が手をこまねいた場所である。しかし伯爵家と王家の力が合わさった結果、攻略は順調に進んでいった。
もちろん、こちら側にも被害者は出た。だがそれでも、カナプト山に住む山賊を一網打尽に出きたことは、エボンス領にとって有益であるはずだ。
「さて……」
「……」
そうしてカナプト山を攻略した私達の目の前には、一人の男性がいる。
その男性は、忌々しそうにこちらを睨みつけてくる。ドルナス・バンレド伯爵令息、彼は無事だったのだ。
「これは、どういうことだ。何故、僕が拘束されている」
「往生際が悪いぞ、ドルナス。お前の悪事は、既にわかっている。カナプト山に住む山賊と手を結んでいたな?」
「なんのことか、さっぱりわかりませんな、兄上」
「住人からの証言で、お前が八人の付き人を従えていたことはわかっている。だが、バンレド伯爵家から連れ出したのは七人だ。残りの一人は誰だ?」
「護衛に冒険者を雇ったのです」
「いいや、そうではないさ。そこにいるあの男だ。山賊の一味と接触していたな?」
調査の結果、ドルナス様は山賊と繋がっていることが濃厚となった。
目撃者の証言から、私達は八人目の似顔絵を作った。その似顔絵にそっくりな人物が、山賊の中にいたのだ。
「ええ、しかし山賊とは知りませんでした。僕は単純に、冒険者として雇ったのです」
「まだ言い訳をするのか。ならば問おう。何故、お前は生きている。山賊がお前の命を奪わなかった理由はなんだ」
「交渉したのです。金を渡すからと」
ドルナス様は、あくまで自分と山賊との繋がりを認めようとしなかった。
それは当然のことだ。認めたら彼は罰を受けることになる。何があっても、罪を自白するなんてことはないだろう。
しかしそれは、彼だけの考えである。他の者達もそうであるとは限らない。
「ダグラス伯爵令息、そちらは落ちましたか?」
「いいえ、どうやら非を認める気はないようです」
「なるほど、しかしご安心を。証言は得られました。七人中、五人は山賊との繋がりを認めました。罰の軽減を条件にね……」
「そうですか」
ゼナート様は、ゆっくりとドルナス様に近寄った。
彼は腰に携えている剣を引き抜く。そしてそれを淡々とドルナス様に向ける。
「な、何を……」
「前に言ったはずだ。今度は首をはねると」
「お、横暴だ。いくら第二王子だからといって、そんなことが許される訳がない」
「ええ、それに関してはその通りです。いくらあなたでも、バンレド伯爵家の次男の首をはねたら大問題だ」
そこでダグラス様は、二人の間に入った。
流石の彼でも、兄弟を殺されるのは我慢ならないということだろう。
一瞬、私はそう思った。しかし、すぐに体の向きを変えて剣を抜いたダグラス様に、考えを一転させざるを得なくなる。
「これは、バンレド伯爵家の問題だ。故に、決着もバンレド伯爵家の人間がつけます」
「あ、兄上……」
「懇願をするなら、もう少し早くするべきだったな。万が一、お前が生き残っていたらこうすることは、最初から決まっていたことなんだ。お前は少し、自分勝手が過ぎた」
「あっ、がっ……」
冷たい剣が、私達の前で振り下ろされた。
次の瞬間、私の視界は塞がれた。ゼナート様が、私を抱きしめてくれたのだ。一つの命が潰える場面を見せないように。
「ドルナスは、山賊に殺された。そういうことにしていただけますね?」
「……ああ、それがあなた方にとって一番良い結末なのだな?」
「ええ、その通りです」
私が最後に見たのは、どこか悲しそうな顔をしたダグラス様だった。
どれ程の落ちていても、やはり弟を手にかけるというのは気分が悪いものだったのだろうか。私はそんなことを思うのだった。
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