一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗

文字の大きさ
24 / 38

24.兄からの情報

しおりを挟む
 嫁いできてから、私はマグナスとラナーシャ以外のドルピード伯爵家の人間と接する機会はなかった。
 彼の両親も兄であるハワード様も、決してこちらの屋敷を訪ねてこなかったのである。
 そんな私は、今日やっと二人の兄であるハワード様と対面した。マグナス様によく似たその男性は、堂々とした態度で私達の対面の椅子に座っている。

「マグナスよ。お前の推測を俺なりに調べてみたが、カルロム伯爵と母上には繋がりがなかった。だが面白いことがわかったぞ?」
「面白いこと?」

 ハワード様は、あっさりとマグナスの推測を否定した後に笑みを浮かべた。
 彼は今日、大きな情報を掴んだとこちらを訪ねてきた。それはどうやら、マグナスの推測を調べた結果得られたものであるようだ。

「お前達の婚約だが、どうやら母上が主導で進めていたらしい。カルロム伯爵とよく話し合って決まったようだ」
「……二人に繋がりがなかったのに、ですか?」
「ああ。明らかにおかしい。二人は大した繋がりがないにも関わらず縁談を進めた。そこに何かしらの足掛かりがあると俺は睨んだのだ」

 ハワード様からもたらされた情報は、確かに不思議なものだった。
 やはり二人の間には、何かがあるのかもしれない。二つの事件を通して繋がっているというマグナスの推測は、正しいのではないだろうか。

「そこで調べた結果、二人が同日にとある町まで出向いているということがわかった。ラグナメルというその町は、エルヴィッド公爵の領地の町だ。それなりに大きい町ではあるようだが、この町には少々きな臭い噂がある」
「噂、ですか?」
「闇市だ」
「闇市……」

 私とマグナスは、ハワード様の言葉に顔を見合わせた。
 ハワード様の口振りからして、掴めたのは同時に同じ町に来ていたということだけなのだろう。
 だが、その二人の微々たる繋がりは、その町で流れている噂と合わせると一つの推測が立てられそうだ。

「つまり二人は、闇市で出会ったということですか?」
「そういうことになるだろう。アラティア嬢。俺はその可能性が高いと思っている。同時に、あなたの母やラナーシャの母は、その闇市で取引された何かが原因かもしれない」
「兄上、何か心当たりでもあるのですか?」

 ハワード様は、マグナスの言葉に少しだけ黙った。それは話すのを躊躇っているように見える。
 もしかしたら、私達は知るべきではないことを知ろうとしているのだろうか。しかし母の死の謎を解き明かすためだ。躊躇ってなんかいられない。

「ハワード様、話してください。一体何を知っているんですか?」
「……透明な毒だ」
「透明な毒?」
「透明な毒と呼ばれる検知できない毒がある。昔からまことしやかに囁かれている噂だ。俺も実在するなどとは思っていなかった。しかしもしかしたら、その毒は実在するのかもしれない。忌々しいことではあるが……」
「これは?」

 そこでハワード様は、懐から一通の封筒を取り出した。
 そこには見慣れない文字が書いてある。これは異国の言語だろうか。

「これは俺が懇意にしている神父からもらったものだ。神父の名誉のために言っておくが、彼はそれを懺悔しに来た者から預かっただけで、そこには行っていないそうだ。いやそもそも、それが本物であるのかもわからない」
「これは、闇市への招待状ですか?」
「そういうことになるだろう。本来であれば、俺が行きたい所ではあるが、母上の目がある以上、お前達に頼むしかない。そこにいって真偽を確かめてきてくれ」

 ハワード様は、私達に対して申し訳なさそうにしていた。それはきっと、ここに危険があると思っているからなのだろう。
 しかし、私もマグナスも答えは決まっていた。例え危険であろうとも、真実を解き明かす。それはこの調査を始めた時から、決めていたことなのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに? 

四折 柊
恋愛
 結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)  スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...