妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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79.気になる存在

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 婚約というものは、基本的には祝われることであるらしい。
 めでたいことであることは確かだ。私がいた村でも、誰かが結婚するとなったら、盛大に祝っていたし、それは理解できる。

「まあといっても、心から祝福している人ばかりではないだろうけどな」
「そうなのですか?」
「貴族というものには、色々とあるからな。いや、平民だってそれは変わらないか。妬みとかひがみとかも、ある訳だからな。まあ貴族の場合は、それに加えて勢力の拡大とか権力なんかも関係してくる訳だが」

 壇上で踊るエフェリアお姉様とレフティス様に対して、周囲は祝福ムードであった。
 ただロヴェリオ殿下曰く、その祝福は表面上のものもあるらしい。貴族の世界では、婚約というものは重要であるらしいし、単に良かったねでは済まないということだろうか。

「ただこういった場に二人が参加する以上、これは必要なことだとは思う。やっぱり、婚約したということは示しておくべきことだ」
「本当に、色々とあるんですね……大変というか」
「面倒だといえるかもしれないが……まあ、それを言ったらおしまいか」

 ロヴェリオ殿下の言葉を聞きながら、私は周囲を見渡していた。
 それは彼の言葉を受けたことによって、自然とそうしていたのである。
 そこで私は、一人の令嬢が気になった。周囲の人達は内心はともかく表面上は祝福しているのだが、その令嬢は壇上の二人を睨みつけているのだ。

「……オルディアお兄様」
「……クラリアも気になったのかい?」
「はい。あちらにいる令嬢ですよね」

 その令嬢を見つけた私は、オルティアお兄様が同じ方向を見ているのに気付いた。
 私が気付くよりも先に、彼女のことを見つけ出していたらしい。明らかに怪しいし、やはり気になるのだろう。

「……ロヴェリオ、ちょっと僕は席を外させてもらうよ」
「うん? 何かあったんですか?」
「もうすぐダンスも終わるだろう? 一旦裏方に下がらせてもらうよ。エフェリアのサポートをしたいんだ」
「まあ、そういうことなら、ご自由にどうぞ」

 ロヴェリオ殿下に声をかけてから、オルディアお兄様はその場を離れて行った。
 恐らく、エフェリアお姉様にあの令嬢のことを伝えに行くのだろう。彼女が何者かはわからないが、私達の味方ではなさそうだ。

「ロヴェリオ殿下、あそこにいる人ですが……」
「うん? あれは……」

 私は念のため、ロヴェリオ殿下にも彼女のことを伝えておくことにした。
 ディトナス様のように、急に非難してくることもあるかもしれない。そういった時に場を納めてもらえるように、ロヴェリオ殿下にはお願いしておいた方が良いだろう。
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