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20.丸く収まって
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「クレイド様、それは一体……」
「驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」
「い、いえ、謝っていただくようなことではありませんが……」
思考が段々と追いついて、私はクレイド様になんとか言葉を返した。
クレイド様からの婚約の申し出、それは私の聞き間違いや勘違いの類ではなかったようだ。
「烏滸がましいお願いであるということも、わかっています。あなたは侯爵家――伯爵令息である僕よりも高位の貴族の令嬢ですから。だけど僕は、あなたを愛しています。以前の舞踏会よりも前から、ずっとそうでした」
「そ、そうだったのですか?」
「気付いていらっしゃらなかったのですね……まあ、それも仕方ないことです。僕達にそこまでの関わりはありませんでしたから」
私の驚きに、クレイド様は苦笑いを浮かべていた。
その表情を見ていると、少し申し訳なくなってくる。私は自分の鈍感さを少し呪った。
しかし以前の舞踏会よりも前となると、それは私が派手になる前のことだ。彼はその前の私に、心惹かれていたということだろうか。
それは意外なものである。ただ今思い返してみれば、わからない訳でもない。前回の舞踏会で、彼は私を熱心に探していた。それはつまり、そういうことだったのだろう。
「……その、クレイド様、婚約とは家同士で決めるものなので、すぐに明確に答えられるものではありません。ですが、今の私の気持ちをお答えします」
「お願いします」
「私としては、クレイド様と婚約したいと思っています。あなたのことが、私も好きです。前回の舞踏会の時から、そう思っていました」
「それは……」
私の答えに、クレイド様は目を見開いていた。
しかし彼は、すぐに笑顔を浮かべる。それはなんとも、嬉しそうな笑みだった。
「ありがとうございます……」
「……お父様に、相談してみようと思います。クレイド様の方も、特に問題はありませんよね?」
「……まだ僕の婚約の話などは、特に出ていませんから。オービス侯爵家が問題ないなら、こちらは大丈夫だとは思います。ですが、本当に良いのですか?」
「婚約に関して、私は一度振り回されていますから。今度はわがままを通してみせます。クレイド様なら、私を幸せにしてくれるでしょうから」
「それはもちろんです」
クレイド様は、とても力強く頷いていた。
彼はレヴァール殿下とは違う。私を思い、必ず幸せにしてくれる人だ。私は強くそう思った。
それなら彼との婚約を、目指すべきだろう。それはきっと、オービス侯爵家の利益にも繋がっていくだろうから。
◇◇◇
私とクレイド様の婚約は、思っていたよりも簡単に認められた。色々とあったからなのか、私の幸せを一番に考えてくれたらしい。
私を襲ったメルファナ嬢は捕まって、レヴァール殿下も今は遠い地で王家の監視下で暮らしている。私にとっては、全てが丸く収まった形だ。
「……こうして改めて顔を合わせるのは、少し恥ずかしいですね」
「そうですか?」
「ええ、最近クレイド様と会う時は、この私ではありませんでしたから……」
「僕にとっては、こちらのイルセア嬢の方が馴染み深いくらいなのですが……」
婚約が決まってから、私はいつも通りの自分でクレイド様と顔を合わせることになった。
最近はフェセネア様におめかししてもらって会ってばかりなので、少し照れてしまう。ただ彼の方は、特に気にした様子もない。
「しかしどちらのイルセア嬢も素敵だと思います」
「そう言っていただけると嬉しいです」
クレイド様は、本当に私を見てくれているのだろう。それがわかって、ほっとした。
彼となら必ず幸せになれる。私はそれを確信しながら、微笑むのだった。
END
「驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」
「い、いえ、謝っていただくようなことではありませんが……」
思考が段々と追いついて、私はクレイド様になんとか言葉を返した。
クレイド様からの婚約の申し出、それは私の聞き間違いや勘違いの類ではなかったようだ。
「烏滸がましいお願いであるということも、わかっています。あなたは侯爵家――伯爵令息である僕よりも高位の貴族の令嬢ですから。だけど僕は、あなたを愛しています。以前の舞踏会よりも前から、ずっとそうでした」
「そ、そうだったのですか?」
「気付いていらっしゃらなかったのですね……まあ、それも仕方ないことです。僕達にそこまでの関わりはありませんでしたから」
私の驚きに、クレイド様は苦笑いを浮かべていた。
その表情を見ていると、少し申し訳なくなってくる。私は自分の鈍感さを少し呪った。
しかし以前の舞踏会よりも前となると、それは私が派手になる前のことだ。彼はその前の私に、心惹かれていたということだろうか。
それは意外なものである。ただ今思い返してみれば、わからない訳でもない。前回の舞踏会で、彼は私を熱心に探していた。それはつまり、そういうことだったのだろう。
「……その、クレイド様、婚約とは家同士で決めるものなので、すぐに明確に答えられるものではありません。ですが、今の私の気持ちをお答えします」
「お願いします」
「私としては、クレイド様と婚約したいと思っています。あなたのことが、私も好きです。前回の舞踏会の時から、そう思っていました」
「それは……」
私の答えに、クレイド様は目を見開いていた。
しかし彼は、すぐに笑顔を浮かべる。それはなんとも、嬉しそうな笑みだった。
「ありがとうございます……」
「……お父様に、相談してみようと思います。クレイド様の方も、特に問題はありませんよね?」
「……まだ僕の婚約の話などは、特に出ていませんから。オービス侯爵家が問題ないなら、こちらは大丈夫だとは思います。ですが、本当に良いのですか?」
「婚約に関して、私は一度振り回されていますから。今度はわがままを通してみせます。クレイド様なら、私を幸せにしてくれるでしょうから」
「それはもちろんです」
クレイド様は、とても力強く頷いていた。
彼はレヴァール殿下とは違う。私を思い、必ず幸せにしてくれる人だ。私は強くそう思った。
それなら彼との婚約を、目指すべきだろう。それはきっと、オービス侯爵家の利益にも繋がっていくだろうから。
◇◇◇
私とクレイド様の婚約は、思っていたよりも簡単に認められた。色々とあったからなのか、私の幸せを一番に考えてくれたらしい。
私を襲ったメルファナ嬢は捕まって、レヴァール殿下も今は遠い地で王家の監視下で暮らしている。私にとっては、全てが丸く収まった形だ。
「……こうして改めて顔を合わせるのは、少し恥ずかしいですね」
「そうですか?」
「ええ、最近クレイド様と会う時は、この私ではありませんでしたから……」
「僕にとっては、こちらのイルセア嬢の方が馴染み深いくらいなのですが……」
婚約が決まってから、私はいつも通りの自分でクレイド様と顔を合わせることになった。
最近はフェセネア様におめかししてもらって会ってばかりなので、少し照れてしまう。ただ彼の方は、特に気にした様子もない。
「しかしどちらのイルセア嬢も素敵だと思います」
「そう言っていただけると嬉しいです」
クレイド様は、本当に私を見てくれているのだろう。それがわかって、ほっとした。
彼となら必ず幸せになれる。私はそれを確信しながら、微笑むのだった。
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