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46.この依頼は

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「ディルギンさん、私達の事情はそんな所です。それで、あなたはそれを聞いてどのような判断をするのですか?」
「あなた方は、真実を話してくれました。私としては、それで満足です」
「……この屋敷の事情を外部に漏らすつもりはないということですか?」
「ええ、そういうことです」

 ステイリオ夫人の言葉に、ディルギン氏はゆっくりと頷いた。
 彼は、この屋敷で起こった犯罪を見逃すつもりのようだ。それは、ステイリオ男爵が罪深い人物だったからということなのだろう。
 だからといって、殺人を見逃していいのか。私にもソルーガにも、そのような気持ちがある。
 しかし、私達は傍観者でしかない。ディルギン氏がそう判断したのなら、それに対して文句を言う権利は、私達にはないだろう。

「パリドット氏に伝えた通り、男爵は借金で首が回らなくなった結果失踪したということでいいでしょう。あなたの旅行中に、家を捨てて逃げた。その流れは、そこまでおかしいものではないでしょう」
「……ええ、それはそうですね」

 ディルギン氏の言う流れは、とても自然なものだった。
 彼は実際に借金を作っており、浮気もしていたため、夫人を見捨てて逃げるというのに違和感はない。

「とはいえ、警察も捜査はするでしょう。この屋敷を入念に探索するかもしれない」
「その点については問題ありません。この屋敷には、証拠は残っていません」
「誰かが外部に漏らすという可能性は、ありませんか?」
「ないと断言できます。我々使用人の意思は一つでした」

 パリドットさんは、ディルギン氏の疑問にすらすらと答えた。
 この屋敷の使用人達には、かなりの結束力があるようだ。
 それはもしかしたら、夫人の人柄によってできたものなのかもしれない。
 屋敷の使用人達が、一人の女性のために一致団結する。それを実現するには、使用人達の夫人に対する敬意や感謝の念がなければならないはずだ。

「……さて、それでは私達がこれ以上この屋敷に留まっている意味もありませんね」

 数秒沈黙した後、ディルギン氏はそう言って立ち上がった。
 確かに、私達がこの屋敷に留まる意味はもうない。速やかに帰宅するべきなのだろう。

「ディルギン氏、今回の依頼料に関してですが……」
「それは必要がないものですね。パリドットさん」
「……何故です?」
「私は、奥様を探す依頼など受けてはいません。彼女は、旅行中だった。そうでしょう?」
「それは……」

 ディルギン氏は、依頼料に対してまったく興味がなさそうだった。
 本当に、彼は事件の真実が知りたかっただけのようだ。今回の場合は、その事情も関係しているのかもしれないが、困惑するパリドットさんを特に気にもしない。

「セリネア嬢、ソルーガ、それでは行くとしよう」
「……ああ」
「……はい」

 私とソルーガは、ディルギン氏の言葉にゆっくりと頷いた。
 こうして、私達はステイリオ男爵家の屋敷を後にするのだった。
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