まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
20 / 40

20.姫君からの誘い

しおりを挟む
「ふははっ!」
「あ、あの……」
「ふふっ……」

 大笑いしているウルティナ姫に、私は恐る恐る話しかけていた。
 一体彼女は、どうしてしまったのだろうか。それがまったくわからない。

 もしかしてウルティナ姫は、変な人なのだろうか。イルガン殿下のこともあって、私の頭にはそんな考えが過っていた。

「ああ、すまないな……別に貴様におかしな点がある訳ではない」
「え、えっと……」
「しかしなんとも、私からすれば都合が良いというだけだ。奴はなんとも、藪蛇をつついたものだ。だがまあ、貴様にとっては災難だったな」
「あ、その……はい」

 ウルティナ姫は、私の肩を叩いてきた。
 そこで私は気付く。彼女の視線が、セディルス様の方に向いているということを。

 先程の笑みは、彼の存在に気付いたからということなのだろうか。彼女はバルキス様の方に集中していたし、その可能性はある。
 ただセディルス様に関して、笑う要素などあるものだろうか。彼はただの騎士見習いであるはずなのだが。

「さて、貴様とは話がしたいと思っていた。丁度いい機会ではあるな」
「話、ですか?」
「ああ」

 そこでウルティナ姫は、表情を少し険しくした。
 それは真剣な話をするということなのだろう。私は少し身構える。イルガン殿下の時のように、疎まれている可能性があるからだ。

「私と組め」
「え?」
「貴様は私の派閥にいる方が良い。少なくともアゼルト兄上の派閥はやめておけ」

 ウルティナ姫の言葉に、私は固まっていた。予想外の言葉が、彼女の口から出てきたからだ。
 派閥というのはつまり、王位争奪に関する派閥ということだろうか。彼女は私を引き入れたいということらしい。
 しかしまず、私がアゼルトお兄様の派閥に所属しているみたいな前提はなんなのだろうか。そんな事実はないのだが。

「あの、私は派閥なんて……」
「アゼルト兄上の世話係を担当していると聞いている。王家の兄妹の中で、貴様が一番親しくしているのはアゼルト兄上だろう?」
「それは……そうですね」
「それを私に変えろと、言っているんだ。私につく方が、貴様にとっても良いはずだ。アゼルト兄上の傍になどいない方がいい」

 ウルティナ姫は、私のことを疎んでいる訳ではないのだろう。彼女の口振りからは、それが伺える。
 ただなんというか、その言葉の節々にある棘が気になった。彼女は先程から、アゼルトお兄様に対してやけに辛辣だ。

 私はアゼルトお兄様のことは、信頼できる人だと思っている。だから彼女の言い分には、納得することができなかった。故に組めと言われても、受け入れられる訳もない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

【完結】初夜寸前で「君を愛するつもりはない」と言われました。つもりってなんですか?

迦陵 れん
恋愛
侯爵家跡取りのクロディーヌと、公爵家三男のアストルは政略結婚といえども、幸せな結婚をした。 婚約者時代から日々お互いを想い合い、記念日にはプレゼントを交換し合って──。 なのに、記念すべき結婚初夜で、晴れて夫となったアストルが口にしたのは「君を愛するつもりはない」という言葉。 何故? どうして? クロディーヌは混乱に陥るも、アストルの真意は掴めない。 一方で、巷の恋愛小説ばりの言葉を放ったアストルも、悶々とした気持ちを抱えていて──。 政略で結ばれた婚約でありながら奇跡的に両想いとなった二人が、幸せの絶頂である筈の結婚を機に仲違い。 周囲に翻弄されつつ、徐々に信頼を取り戻していくお話です。 元鞘が嫌いな方はごめんなさい。いろんなパターンで思い付くままに書いてます。 楽しんでもらえたら嬉しいです。    

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

処理中です...