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9.母親のような人

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 私はクラウス様とともに生まれ育った孤児院に戻って来ていた。
 ここに来るのも久し振りである。忙しくてかなり帰って来ていなかったのである。

「おっと、マルセリアさんがいるな……」
「あっ……」

 馬車の来訪がわかったからか、玄関からはマルセリアさんが出て来ていた。
 エリプス伯爵家からの訪問は定期的にあるものだ。マルセリアさんとしても、そちらの心構えはできているだろう。
 ただ彼女は、私の帰還に関してはまったく知らない。きっと、かなり驚くだろう。

「アメリア、緊張しているのか?」
「あ、はい。少しだけ……」
「前にも言ったが、マルセリアさんは温かく受け入れてくれるさ」
「わかっているつもりなんですけれどね……」

 いつもなら、ここに帰って来る時には気が抜けている。生まれ育った家に帰ってくるということは、楽しいことしかないからだ。
 しかし今回は、少し緊張してしまっている。聖女をクビになった私に、マルセリアさんはどういう反応をするのだろうか。
 ただ、いつまでも出て行かない訳にもいかない。故に私は、意を決して馬車から出て行く。

「……おやまあ」

 私が出て来ると、マルセリアさんは目を丸くして驚いていた。
 だがマルセリアさんは、すぐに笑顔を見せてくれる。その瞬間、私は自分が抱いていた不安が杞憂であることを悟った。

「マルセリアさん、その……ただいま、帰りました」
「おかえり、アメリア。驚いたよ。急に帰ってくるんだもの」
「すみません。色々とあって……」
「そう……大変だったみたいだね」

 特に事情を説明していないのに、マルセリアさんは私に何があったのかを大方察してくれていた。私の顔を見れば、わかるということだろうか。
 孤児院で育った者達にとって、マルセリアさんは母親のような存在である。そんな彼女は、私達のことをとてもよく理解してくれているのだ。

「マルセリアさん、お久し振りです」
「クラウス様、お久し振りです。お越しいただき、ありがとうございます。しかし、どうしてアメリアが一緒に?」
「ああ、途中で偶然再会したのです。それで目的地が同じだったので、一緒に」
「そうでしたか。すみませんね、家のアメリアが……」
「いえ、俺が勝手に拾っただけですから」

 マルセリアさんは、クラウス様とそのように挨拶を交わしていた。
 それを聞きながら、私はとても安心していた。なんというか、生まれ育った実家に戻ってきたと実感することができたのだ。
 これから色々と大変ではあるが、なんとかなる気がする。私はそんな風に、決意を新たにするのだった。
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