熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗

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 ゼラーム様と別れようとした私とウルグスの前に、イルーアが現れた。
 よくわからないが、イルーアは泣いている。何かあったようだ。その事情は、聞かなければならないだろう。

「イルーア? 何があったの?」
「ううっ……ああっ」

 涙で崩れた彼女の顔は、大変なことになっていた。
 どうやら、とても悲しいことがあったようだ。
 なんとなく、誰が彼女をこんな風にしたかは理解できている。今の彼女の状況から考えると、あの男が関わっているように思えるのだ。

「もしかして、ブレギム様?」
「うう、ああ……」

 泣いている妹は、身振り手振りで私の言葉に同意してくれた。
 やはり、ブレギム様だったようである。あのどうしようもない男は、私の妹を泣かせたらしい。

「何があったの?」
「おお、ああっ」
「はあ、なるほど……」

 私の質問に、イルーアは答えてくれた。
 だが、流石に身振り手振りだけでは限界がある。正直、何を言っているかほとんどわからない。
 とりあえず、イルーアには一度落ち着いてもらう必要があるようだ。

「イルーア、とりあえず落ち着きなさい」
「ううっ……」
「ほら、涙を拭って……」
「あうっ……」

 私は、ハンカチを使ってイルーアの涙を拭いてあげる。
 何故、私がこんなことをしているのだろうか。色々と迷惑をかけられたのだから、本来ならこんな風に事情を聞く必要はない。
 だが、なんだか放っておけないのだ。長年過ごしていた妹のことのことを完全に嫌いなれる程、私は冷たくなれなかったようである。

「さて、落ち着いたかしら?」
「はい……」

 私の言葉に、イルーアはゆっくりと頷いた。
 まともに喋れるようになっているということは、落ち着いたということだろう。
 これで、やっと事情が聞ける。一体、ブレギム様は何をしたというのだろうか。

「それで、何があったの?」
「実は、ブレギム様が他の貴族の女性と抱き合っている所を目撃したのです……」
「ええ……」

 妹の言葉に、私は呆れ果てていた。
 まさか、ブレギム様がそこまで酷い人間だったとは思っていなかった。彼は、妹と関係を持ちながら、他の女性とも関係を持っていたのだ。
 だが、考えてみれば、彼は私がいながら浮気していてなんとも思わないよう人間である。そのような人間が、同じようなことをすることはそこまでおかしいことではない。

「まったく、どうして、そんな男に惚れたのよ?」
「だって、そんなことをするなんて、思っていなくて……」
「馬鹿ね、私がいてあなたと付き合っていた時点で、もう浮気なのよ? 同じことをされると思わなかったの?」
「……ごめんなさい」

 妹は、私に対して謝罪してきた。
 どうやら、自分がどれだけ愚かなことをしたのか自覚したようである。
 これで、この妹はブレギム様から離れてくれるだろう。そうなるのは、このラルファン家にとってとてもいいことだ。あの男と完全に手が切れそうなので、とりあえず一安心である。
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