私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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38.乾いた笑い

「あれがミルガス侯爵令息なのですか? どうして彼がここに……」
「それはわかりません。ただ、目的は恐らく私でしょう。オルファン侯爵家のことで、何か交渉しに来たのかも……」
「なるほど……アルティア嬢、あなたは裏口から戻ってください。僕が話をつけてきます」

 私の言葉に、フレイル様はその目を細めていた。
 ミルガス様のことを、かなり警戒しているようだ。そんな彼と私を、できれば対面させたくないということだろう。
 その心遣いは、とてもありがたい。しかし、私としてもミルガス様がここに来た理由というのは、気になる所だ。オルファン侯爵家の一人として、話は聞いておきたい。

「フレイル様、彼がここに来たということは、オルファン侯爵家も王家の動きを察知したということかもしれません。それらのことを確かめるためにも、私が彼から話を聞きます」
「それは僕一人でも聞けることだと思いますが……」
「初対面のフレイル様よりも、私の方が彼も話しやすいはずです。というかフレイル様には、何も話してくれないかもしれません」
「あっ、アルティア嬢……」

 私は、フレイル様に意図を説明した後進み始めた。すると彼は、慌てた様子でついて来る。
 多少強引になってしまったが、今は仕方ない。ミルガス様から情報を引き出すためにも、私は彼に近づいていく。

「……お久し振りですね、ミルガス様」
「……アルティア嬢?」

 私が声をかけると、ミルガス様は目を見開いて驚いていた。
 彼としては、どうやって私に会うかは課題だったことだろう。屋敷の門の前でじっと立っていたことから、そう考えられる。その問題がいきなり解決して、驚いているのだろう。
 しかしミルガス様からは、なんというか余裕が感じられない。彼はもっと、尊大な人だと記憶しているのだが。

「ははっ」
「……うん?」
「幸運だな。まさか、ここを訪ねてすぐに君に会えるなんて。ふふっ、運は僕に向いているといえる……」

 そこでミルガス様は、笑い始めた。
 ただそれは、乾いた笑いだ。あまり感情が感じられないその笑みに、私は眉根を寄せる。
 なんだかよくわからないが、彼はまともな精神状態ではないようだ。私がオルファン侯爵家から逃げてから、何かあったのだろうか。

「会えて嬉しいよ、アルティア嬢。やはり僕の運命の相手とは、君だったんだ」
「え?」

 ミルガス様は、突如として動き始めた。
 彼は私との距離を詰めてきたのである。その両手を広げながら。
 あまりに唐突なことだったので、私は動くことができなかった。しかしミルガス様の体が、私に届くことはなかった。フレイル様が、割って入ってくれたのだ。
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