娘を悪役令嬢にしないためには溺愛するしかありません。

木山楽斗

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16.正しいと思う道

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「……お言葉ですが、このままでは良くないかもしれません」
「……何?」

 少し悩んだ末に、私はオルドア様にあることを伝えることにした。
 アトラという少女の今後は、彼やウォルマー侯爵家にとって、とても重要である。多少強引な手段ではあるが、私は未来の軌道修正をしたい。

「アトラは、真面目で優しい子だと思います。話していて、私はそう思いました」
「ああ、それは間違いない」
「しかしどこか、飢えているようにも感じます。それは恐らく、私……ペトラという冷たい母親の影響でしょう」
「む……」

 アトラに悲惨な末路を迎えて欲しくないという気持ちは、話したことでより大きくなっていた。
 さらに私は、オルドア様に対しても同じことを思い始めている。この親子の未来は、できれば明るくあって欲しい。

「その中であなたまで厳しい態度を取っていると、アトラは潰れてしまうかもしれません」
「……そう、なのだろうか?」

 オルドア様は、私に対して少しぎこちなく質問を返してきた。
 なんというか、彼は自信なさげだ。少なからず、今の自分の方針に対して疑問を持っているということだろうか。
 申し訳ない気持ちはあるが、それは私にとって隙である。突かせてもらうとしよう。

「ええ、そうですとも。飴と鞭ではありませんが、やはりその辺りのバランスは注意しておくべきかと思います」
「今の俺は、鞭の方が大きいということか?」
「いえ、オルドア様のバランスは悪くないでしょう。問題だったのは、私です。飴を与えるはずのペトラまで鞭を与えていたから、いけないのです」

 私は、別に子育てというものに詳しい訳ではない。教育者でもないし、子供がいた訳でもない。
 ただこのままではアトラは闇に堕ちてしまう。それを止めるためには、今のウォルマー侯爵家の在り方を変えなければならない。
 故に私は、自分が正しいと思う道を進むことにする。

「オルドア様は、今まで通りお過ごしください。あなたが厳しくした分、私はアトラを甘やかします。ですから、私が厳しくした分、あなたはアトラのことを甘やかしてあげてください」
「それは……」
「記憶をなくした私が、あの子の母親になれるのかはわかりません。ですが、記憶がいつ戻るかわからない以上、前に進むしかないと思うのです」
「……そうか」

 私の言葉に、オルドア様はゆっくりと頷いてくれた。
 実際の所、私に何が起こっているのはまださっぱりわからない。それを理解するには、かなり時間がかかりそうだ。
 そのため、私はアトラの道を正すことに注力することを決めた。それがきっと、今の私にできることだと思うのだ。
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