不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗

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19.撤回のお願い

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「ロダルト子爵令息、先程の言葉を撤回していただけませんか?」
「……何?」

 ロダルト様に対して、マグナード様はゆっくりと口を開いた。
 この段階においても、彼はまだ穏やかだ。彼はまだ冷静であるということだろう。

「何を言っている?」

 一方で、ロダルト様の方は冷静ではなかった。
 私に受け入れられなかったことや、浮気していると思い込んでいることによって、興奮しているということだろう。

「先程の言葉を撤回していただきたいと言っているのです。今すぐに撤回していただけるのなら、なかったことにできますから」
「なんだと?」

 マグナード様は、とても慈悲深い人だ。今の言葉で、私はそれを悟った。
 彼はロダルト様に、チャンスを与えているのだ。彼の先程の言葉は、ビルドリム公爵家にも喧嘩を売ることになる。それがどういうことか、マグナード様は考えさせているのだ。
 しかしそんな彼の気遣いをロダルト様はまったく理解していない。激昂しているためか、状況をまったく理解していないらしい。

「……わかりました。それでは」
「うん?」

 そこでマグナード様の目つきが、とても鋭くなった。
 その変化に、ロダルト様が少し怯んでいる。マグナード様の迫力に、圧倒されたということだろう。

「それではこちらにも考えがあります」
「なっ……あ、え? いや、それは……」

 怯んだことで少し冷静になったのか、ロダルト様の表情が変わっていった。
 彼は青ざめている。この段階まできてやっと、ビルドリム公爵家と敵対しているという事実に気付いたのだろう。

「ま、待ってくれ。いや、待っていただきたい。先程の言葉は撤回する」
「ロダルト子爵令息、もう遅いのです。僕は警告しました。それをあなたは聞かなかった」
「言葉の綾というものです。私はあくまで、そちらにいるイルリア嬢のことを非難したかっただけで、あなたを敵に回そうとしている訳ではない」
「イルリア嬢への非難は、全て僕への非難と同等のものであると判断します。彼女と僕の立場は同じですからね」

 マグナード様は、淡々と事実を口にしていた。
 それに対して、ロダルト様の表情はどんどんと歪んでいく。

「わ、わかりました。こちらはもう何もするつもりはありません」
「そういう問題でもありません。あなたは先程、ビルドリム公爵家を敵にしたのです。今事実としてあるのは、それだけのことです。あなたが牙を向けてくる危険がある以上、こちらも容赦する訳にはいきません」

 一瞬悲しそうな顔をしながらも、マグナード様はそう言い切った。
 それは彼の覚悟の表れであるような気もする。優しい公爵令息は、牙を向けてきたどうしょうもない子爵令息を、とことん追い詰めるつもりなのだ。
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