不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗

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78.突然襲われて

「一応、ムドラスから話は聞いています。といっても、私が聞いた訳ではなく、使用人さん達を通じて聞かせてもらったということですが……」

 ミレリア嬢は、忌々しそうにしていた。
 長年苦しめられてきた弟に対して、やはりまだまだ嫌悪感があるのだろう。それがその表情からよく伝わってきた。
 しかしそれでも、彼女は使用人達から話を聞いてくれていた。それは恐らく、私達のためだろう。彼女はこちらの状況はわからなかっただろうし、少しでも情報を集めようとしてくれていたのかもしれない。

「ロダルト子爵令息は、突然ムドラスの前に現れたそうです。彼は、ムドラスのことを罵倒しながら痛めつけました。油断していたこともあって、ムドラスは成す術もなかったようです。不意打ちに対応できる程に、ムドラスは格闘技に精通している訳ではないですからね」
「それでも、ムドラス伯爵令息は喧嘩慣れしているはずですから、驚きですね。ロダルト様に武術の心得があるなんて、聞いたことはないのですが……」
「まあ、躊躇いがなかったということですかね? 彼はもう後先を考えていなかったとか……」
「それはあり得そうですね……」

 ミレリア嬢の説明に、私はゆっくりと頷いた。
 ロダルト様は、恐らく私を刺した後のことなど考えていなかっただろう。考えていたら、あのようなことはできない。衆人環視で、私を刺すことになる訳だし。

「まあ、ムドラスはそもそもそんなに強いという訳でも、ないと思うんですよね。あれも躊躇いがないのが恐ろしいだけで……ほら、ブライト殿下に簡単に取り押さえられたとも言いますし」
「そういえば……」

 私は、学校の裏庭での出来事を思い出していた。
 あの時のムドラス伯爵令息は、いとも容易くブライト殿下に取り押さえられた。今思い出しても、みっともないくらいに弱かったのである。

「ムドラスからしてみれば、ロダルト子爵令息が誰かわからず、混乱していたということもあるでしょう。まあ、何にしても情けない弟です。普段はあれだけ息巻いているのに、いざとなったらこうなのですから」
「ミレリア嬢……」
「すみません。日頃からあれには色々と迷惑をかけられているので、つい……」
「いえ、構いませんよ。それに関しては、仕方ないことですから」

 ミレリア嬢は、とても饒舌になっていた。
 鬱憤が溜まっていた彼女にとって、ムドラス伯爵令息が襲われたということは、むしろ嬉しいことであるのだろう。
 その笑顔を見ながら、私は苦笑いを浮かべるしかないのだった。
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