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24.虚しき勝利

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「まずは、小手調べと行こうか……僕のこの魔弾を食らうがいい!」

 キャロムは、光の球体をメルティナに向けて撃った。それに対して、メルティナは動かない。どうやら、彼女はキャロムの魔弾を受け止めるつもりらしい。

「なっ……! 躱さないなんて……!」

 そんなメルティナの様子に、キャロムの方が驚いていた。彼にとって、その高い魔力を込めた魔弾に対して何もしないというのは、少し恐ろしいことなのだろう。
 だが、メルティナは微動だにしない。そのまま、彼女に魔弾が着弾する。

「……」
「ば、馬鹿な……」

 メルティナは、魔弾を受けても一切動かなかった。まるで何事もなかったかのように、その場に佇んでいるのだ。
 私や他の生徒達がキャロムの魔弾を受ければ、試合は終わっていただろう。だが、メルティナにとっては、それは躱す必要すらないものだったようだ。

「挑発しているのか? それなら、これでどうだ!」

 キャロムは、自らの周りに魔弾を何個も作り出した。手数で攻めるつもりなのだろう。
 彼は、それらを一気にメルティナに向けて撃ち出す。だが、それでも彼女は動かない。キャロムの攻撃を受けきるつもりのようだ。

「まだまだ!」

 キャロムは、どんどんと魔弾を作り出した。そして、それをメルティナに向けて撃っていく。
 だが、それでもメルティナは動かない。それを見て、私はあることを理解した。
 恐らく、彼女はこの試合で攻撃しないつもりだ。キャロムの魔力が切れるのを待つつもりなのだ。
 それは、ゲーム、いや彼女にとっては過去のことが関係しているのだろう。彼女は、ゲームでは反撃をした。その結果、あることが起こってしまったのだ。

「まだ動かないのか!」

 魔力の障壁があっても試合では怪我をすることはある。障壁を破って、そのまま魔法が当たることがあるのだ。
 前にキャロムと試合した際、メルティナの魔法は彼の障壁を打ち破り、そのままその体に当たってしまった。それで、キャロムは怪我を負ったのだ。
 それは、軽度の怪我だった。掠り傷と言える程のものだった。だが、それでも、メルティナにとっては避けたいことなのだろう。

「はあ、はあ……」
「……」
「そ、そんな……」

 いくつもの魔弾を放った後、キャロムは息を切らしていた。それに対して、メルティナはまったく平静を保っている。
 そこには、歴然の差があった。この時点で、試合は決しているといえるだろう。

「な、なんで……」
「……」

 二人は、天才と称される者達である。しかし、そんな天才の中でも、二人には差があったのだ。
 キャロムは、百年に一度の天才だった。彼に秀でた才能があることは間違いない。
 だが、メルティナは千年に一度の天才だったのである。彼が劣っている訳ではなく、彼女が凄すぎるのだ。

「くそう!」

 キャロムは、メルティナの前から逃げ出した。いや、より正確にいえば、この場から逃げ出したのだろう。
 彼にとって、この敗北は屈辱的だった。だから、この場にいたくなくなったのだろう。
 試合の最中逃げ出した場合、その人物は敗北する。よって、この試合はメルティナの勝ちだ。
 しかし、彼女はまったく喜んでいない。それは、当然だろう。彼女にとって、この勝利はまったく意味がないものなのだから。

「……虚しい勝利でした」
「そうよね……」

 こちらに帰ってきたメルティナは、少し悲しそうにそう呟いた。やはり、彼女は私が思っていた通りの感想しか抱いていないようである。

「彼を追いかけるべきなのでしょうか?」
「それは……難しい質問ね」
「そうですよね……」

 メルティナは、キャロムをこのまま放っておいていいのかについて、悩んでいた。これも、ゲームと同じだ。
 『Magical stories』のゲーム中、初めて選択肢が出るのがこの場面である。キャロムを追いかけるかどうか、それがその内容だ。
 私は、彼を追いかけないことを選んだ。この状況で追いかけても、キャロムを追い詰めるだけのような気がしたからだ。
 ただ、恐らく、彼のルートに入るためには、ここで追いかけなければならなかったのだろう。そのキャラに直接かかわる選択肢なのだから、それは間違いない。

「あなたは、どうしたいと思っているの?」
「……正直言って、彼になんと声をかけていいのかわかりません。私が行っても、追い打ちになるだけのような……そんな気がするんです」
「そうね……確かに、そうなってしまうかもしれないわ」

 メルティナは、私と概ね同じ感想を抱いていた。彼女にとっても、今のキャロムに声をかけることは、とても難しいことであるようだ。
 そこで、私はとあることを思った。もしかしたら、時が巻き戻る前、彼女は私がゲームでした選択と同じような行動をしてきたのではないかと。
 彼女がバルクド様と結ばれたというなら、彼とのエンディングを迎えた私と同じ選択をしていたとしてもおかしくはないはずだ。もしそうなら、私達が知っている情報は、割と似通っているのかもしれない。

「中々、難しいものね……」
「ええ、そうですね……」

 結局、私達はキャロムを追いかけることはできなかった。例え二回目でも、私達は彼にかける言葉を見つけるものはできなかったのだ。
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