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61.消えない可能性
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「それなら、僕とメルティナさんは別行動だね……アルフィアさんには、魂の関係上、シャザームの研究室に来てもらった方がいいだろう」
「あの……キャロムさん」
「申し訳ないけれど、情けないことに僕は二つある魂の内一つを正確に引き抜ける自信がない。リオーブさんのお姉さんの方に、メルティナさんは行ってもらえるかな?」
「それは……」
キャロムの言葉に、メルティナは表情を歪めた。それが、何を表しているのか、私にはわからない。どうして、彼女はそんな顔をするのだろうか。
「……アルフィアさんの魂を調べるのは、多分簡単なことではない。専門の機関に預けるべきだろう。だから、そっちのことは考えなくていい」
「……わかりました」
メルティナもキャロムも、なんだか不安そうな顔をしている。その表情を見ていると、こっちまで不安になってきた。
二人とも、秀でた知識を持つ人であるため、何か悪いことでも起きるのではないかと心配になってくるのだ。
「一つ確認させてもらうが……お前の記憶は、完全ではないのだな?」
「え? あ、はい……そうですね、完全ではありません」
「そうか……ふん、それは厄介なことだな」
そこで、今まで黙っていたディゾール様がファルーシャに話しかけた。
その返答に、彼は何かを考えるような表情になる。こちらも、なんだか不安になってくる表情だ。
「ディゾール様、どうかされたのですか?」
「お前達は、暗黒の魔女が完全に滅びたと思っているのか?」
「え?」
「考えてみればわかることだ。奴は、己の魂を分割することができる。その上限は、どれ程のものだ? 一体、いくつの魂まで分解できる? 俺達はそれを知らない。それが、何を意味する?」
「まさか……」
ディゾール様の言葉に、私は気づいた。恐らく、他の皆も気づいただろう。
ファルーシャの記憶が完全ではない。ということは、シャザームが魂を何度分割したのかが、定かではないのだ。
あの事件の時だけという確証がない以上、彼女がまだ生きている可能性は否定できない。その可能性が、生まれてしまうのだ。
「生徒会長、あなたの言っていることはわかる……でも、仮に暗黒の魔女がこの学園にまだ残っているなら、それは僕やメルティナさんがわかる。魂の数を僕達は把握することができるからね」
「無論、学園に残っているなら、そうだろう。だが、もし仮に学園に戻っていないとしたらどうだ?」
「それは……」
暗黒の魔女が、滅びていないかもしれない。その可能性を、私達は考慮しなければならないようだ。
もちろん、それは杞憂かもしれない。だが、もしまだシャザームがいたら、何か事件を起こす可能性がある。その時のことを、考えておく必要はあるだろう。
「兄上、よくわからないが、そういうのはもう俺達の領分ではないんじゃないのか? 証拠となる映像も記録したのだし、後は大人達にでも任せればいいじゃないか」
「暗黒の魔女の力は、お前も見ていたはずだ。あれを止められる者は、この国でもそういない」
「な、なんてことだ、つまり、メルティナさんの力が絶対に必要だと、兄上は言いたいのか……」
暗黒の魔女シャザームの力は強大である。メルティナが本体を止めるのに精一杯で、分割された魂でさえキャロム以上の力。それは、並外れた魔力を持っているという証明だ。
そんな人物に対応するためには、メルティナの力が必要になる。千年に一人の天才以外に、あの天才に対抗できる者はいないのだ。
「覚悟はしています……もし、あのシャザームが、再び私の前に姿を現したというなら、その時はまた彼女を排除するだけです」
私達の視線を一斉に浴びたメルティナは、力強くそう言ってきた。
流石は、彼女だ。とても重大な事実であるのに、それをしっかりと受け止めている。
だが、その反応に私は少し戸惑っていた。そんな彼女が、とても動揺すること、それは一体なんなのだろうかと。
「あの……キャロムさん」
「申し訳ないけれど、情けないことに僕は二つある魂の内一つを正確に引き抜ける自信がない。リオーブさんのお姉さんの方に、メルティナさんは行ってもらえるかな?」
「それは……」
キャロムの言葉に、メルティナは表情を歪めた。それが、何を表しているのか、私にはわからない。どうして、彼女はそんな顔をするのだろうか。
「……アルフィアさんの魂を調べるのは、多分簡単なことではない。専門の機関に預けるべきだろう。だから、そっちのことは考えなくていい」
「……わかりました」
メルティナもキャロムも、なんだか不安そうな顔をしている。その表情を見ていると、こっちまで不安になってきた。
二人とも、秀でた知識を持つ人であるため、何か悪いことでも起きるのではないかと心配になってくるのだ。
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そこで、今まで黙っていたディゾール様がファルーシャに話しかけた。
その返答に、彼は何かを考えるような表情になる。こちらも、なんだか不安になってくる表情だ。
「ディゾール様、どうかされたのですか?」
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「え?」
「考えてみればわかることだ。奴は、己の魂を分割することができる。その上限は、どれ程のものだ? 一体、いくつの魂まで分解できる? 俺達はそれを知らない。それが、何を意味する?」
「まさか……」
ディゾール様の言葉に、私は気づいた。恐らく、他の皆も気づいただろう。
ファルーシャの記憶が完全ではない。ということは、シャザームが魂を何度分割したのかが、定かではないのだ。
あの事件の時だけという確証がない以上、彼女がまだ生きている可能性は否定できない。その可能性が、生まれてしまうのだ。
「生徒会長、あなたの言っていることはわかる……でも、仮に暗黒の魔女がこの学園にまだ残っているなら、それは僕やメルティナさんがわかる。魂の数を僕達は把握することができるからね」
「無論、学園に残っているなら、そうだろう。だが、もし仮に学園に戻っていないとしたらどうだ?」
「それは……」
暗黒の魔女が、滅びていないかもしれない。その可能性を、私達は考慮しなければならないようだ。
もちろん、それは杞憂かもしれない。だが、もしまだシャザームがいたら、何か事件を起こす可能性がある。その時のことを、考えておく必要はあるだろう。
「兄上、よくわからないが、そういうのはもう俺達の領分ではないんじゃないのか? 証拠となる映像も記録したのだし、後は大人達にでも任せればいいじゃないか」
「暗黒の魔女の力は、お前も見ていたはずだ。あれを止められる者は、この国でもそういない」
「な、なんてことだ、つまり、メルティナさんの力が絶対に必要だと、兄上は言いたいのか……」
暗黒の魔女シャザームの力は強大である。メルティナが本体を止めるのに精一杯で、分割された魂でさえキャロム以上の力。それは、並外れた魔力を持っているという証明だ。
そんな人物に対応するためには、メルティナの力が必要になる。千年に一人の天才以外に、あの天才に対抗できる者はいないのだ。
「覚悟はしています……もし、あのシャザームが、再び私の前に姿を現したというなら、その時はまた彼女を排除するだけです」
私達の視線を一斉に浴びたメルティナは、力強くそう言ってきた。
流石は、彼女だ。とても重大な事実であるのに、それをしっかりと受け止めている。
だが、その反応に私は少し戸惑っていた。そんな彼女が、とても動揺すること、それは一体なんなのだろうかと。
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