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109.冷めた熱
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「実の所、私はもうバルクド様に思いを抱いていないのよ」
「え? そうなの?」
「ええ、もうその思いは、綺麗さっぱりなくなったわ」
アルフィアは晴れやかな顔で、そんなことを言ってきた。
前提として、彼女はバルクド様に熱烈な思いを抱いていた。ゲームをやっていて、私が怖いと思うくらいには、熱狂的な愛を彼に向けていたのである。
それがなくなったというのは、驚くべきことだ。一体、どういうことなのだろう。彼女の心情に、何か変化があったのだろうか。
「確かに、私は彼のことを愛していたわ。でも、それが本当の愛だったのかどうか、今となってはわからないのよね……」
「わからない?」
「なんていうのかしら……私は、彼のことを見ているようで見ていなかったというか、彼個人に対して目を向けていなかったというか……」
アルフィアがバルクド様に抱いていた思いは、思っていたよりも複雑なものであるようだ。少なくとも、彼女自身でも言葉にできないくらいには。
だが、わからない訳ではない。要するに、アルフィアは恋に恋していたというような状態だったのではないだろうか。
「だから、メルティナが彼と愛し合ったとしても、別に問題はないと思っていたわ。正直、私は公爵家のことなんてどうでもいいし、彼に婚約破棄を言い渡したの」
「え?」
続くアルフィアの言葉に、私は思わず素っ頓狂な声をあげていた。
しかし、これは仕方のないことである。なぜなら、彼女はそれ程とんでもないことを言っているからだ。
「婚約破棄? 本当にそんなことをしたの?」
「ええ、まあ、一応彼にはそう伝えておいたわ」
「大丈夫なの?」
「さあ、でも、私の家での扱いは知っているでしょう? 仮に大丈夫ではなかったとしても、知ったことではないわ」
「それは……そうだけど」
アルフィアの気持ちは、よくわかる。正直な話、セントルグ公爵家にいい思い出はないため、家が困ってもどうとも思わない。
「まあ、それに彼にはそれを受け入れてもらえなかったし……」
「バルクド様が、断ったの?」
「ええ、まだ早まることはないと言われたわ。少なくとも、在学中は家にお世話になるのだから、関係が悪くなるようなことはやめておいた方がいいと言われたの」
「まあ、確かにそうかもね……」
バルクド様は、とても堅実なことをアルフィアに言ったようだ。
彼の論には、納得しかない。確かに、今後のことを考えるとまだしばらく彼との婚約は継続するべきだろう。
流石はバルクド様だ。やはり、彼は素晴らしい人である。
「え? そうなの?」
「ええ、もうその思いは、綺麗さっぱりなくなったわ」
アルフィアは晴れやかな顔で、そんなことを言ってきた。
前提として、彼女はバルクド様に熱烈な思いを抱いていた。ゲームをやっていて、私が怖いと思うくらいには、熱狂的な愛を彼に向けていたのである。
それがなくなったというのは、驚くべきことだ。一体、どういうことなのだろう。彼女の心情に、何か変化があったのだろうか。
「確かに、私は彼のことを愛していたわ。でも、それが本当の愛だったのかどうか、今となってはわからないのよね……」
「わからない?」
「なんていうのかしら……私は、彼のことを見ているようで見ていなかったというか、彼個人に対して目を向けていなかったというか……」
アルフィアがバルクド様に抱いていた思いは、思っていたよりも複雑なものであるようだ。少なくとも、彼女自身でも言葉にできないくらいには。
だが、わからない訳ではない。要するに、アルフィアは恋に恋していたというような状態だったのではないだろうか。
「だから、メルティナが彼と愛し合ったとしても、別に問題はないと思っていたわ。正直、私は公爵家のことなんてどうでもいいし、彼に婚約破棄を言い渡したの」
「え?」
続くアルフィアの言葉に、私は思わず素っ頓狂な声をあげていた。
しかし、これは仕方のないことである。なぜなら、彼女はそれ程とんでもないことを言っているからだ。
「婚約破棄? 本当にそんなことをしたの?」
「ええ、まあ、一応彼にはそう伝えておいたわ」
「大丈夫なの?」
「さあ、でも、私の家での扱いは知っているでしょう? 仮に大丈夫ではなかったとしても、知ったことではないわ」
「それは……そうだけど」
アルフィアの気持ちは、よくわかる。正直な話、セントルグ公爵家にいい思い出はないため、家が困ってもどうとも思わない。
「まあ、それに彼にはそれを受け入れてもらえなかったし……」
「バルクド様が、断ったの?」
「ええ、まだ早まることはないと言われたわ。少なくとも、在学中は家にお世話になるのだから、関係が悪くなるようなことはやめておいた方がいいと言われたの」
「まあ、確かにそうかもね……」
バルクド様は、とても堅実なことをアルフィアに言ったようだ。
彼の論には、納得しかない。確かに、今後のことを考えるとまだしばらく彼との婚約は継続するべきだろう。
流石はバルクド様だ。やはり、彼は素晴らしい人である。
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