継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

７．大切だからこそ

『……あいつのことを、少しは理解してくれたか？』
「うん。なんとなく、わかったよ」
『そうか、それなら良かった。あいつは、結構勘違いされるタイプだからな』

　私の言葉に、ラフードは安心したようである。
　その様子を見て、私は少し笑ってしまう。なんというか、友達を思う彼のその姿が、微笑ましかったからだ。

「ラフードは……本当に、フレイグ様のことを大切に思っているんだね？」
『まあ、友達だからな……』
「友達だからといって、そんなに心配するものなのかな？」
『そうだな……まあ、俺とあいつは色々と複雑な関係でもあるから、それが関係しているのかもしれないな』

　そこで、ラフードは少し遠くを見つめていた。
　恐らく、それは過去を振り返っているのだろう。だが、それは今までと少し違う気がする。
　彼は、今まで過去のことを語る際には楽しそうにしていた。だが、今はそうではないのだ。真剣な顔をしていて、少し辛そうである。
　何か事情はあるのだろう。しかし、それをわざわざ聞こうとは思わない。そんなことを聞ける程、私の神経は図太くないのである。

「私は、友達がいないから、二人みたいな関係は羨ましいな」
『……おいおい、お嬢ちゃん、友達がいないなんてことはないだろう？』
「え？　でも、本当に……」
『まあ、さっきまではいなかったのかもしれないが、今はもうここにいるだろう？』
「ラフード……」

　話を変えようとした私に、ラフードは嬉しいことを言ってくれた。
　友達というものが、どのようにしてできるのか私は知らない。でも、彼が私を友達だと思ってくれているなら、それでいいのだろう。

「……そういえば、フレイグ様はラフードのことが見えていないんだよね？」
『うん？　ああ、そういうことになるな』
「もしよかったら……私が、あなたのことを話そうか？」
『おっと……』

　そこで、私はそんなことを思いついていた。
　ラフードは、私の言葉に驚いて目を丸くしている。どうやら、彼はその手段について、まったく考えていなかったようだ。
　そんなラフードは、ゆっくりと目を瞑った。私からフレイグ様に自分のことを伝えるかどうかを、じっくりと考えているのだろう。

『いや、俺のことは話さないでくれ』
「……いいの？」
『ああ、さっきは幽霊じゃないと言ったが、今の俺はほとんどの人に認識されない。お嬢ちゃんみたいに、一種の霊感のようなものを持っていないと俺のことはわからないはずなんだ』
「霊感……そうなんだ」
『……要するに、俺はもうこっちの世界にそこまで関われる訳じゃないってことだ。そんな俺が、あいつの前にもう一度現れることが正しいことかどうかは、微妙な所だ。あいつが俺を認識しているとか、そういうことなら話は別だが、お嬢ちゃんを通してやり取りをするというのは、どうにも気に入らない』

　ラフードは、私の提案を否定した。それは、彼のこだわりとでもいうべきことなのだろう。
　それは、なんとなく理解できる。彼は今、肉体を失っている状態だ。そこに至るまでには、色々と事情があったのだろう。
　その事情が、彼にフレイグ様に伝えることを躊躇わせているのかもしれない。例えそうでなかったとしても、彼がそう決めたのなら、私から口出しするべきではないだろう。

『それに、あいつもそろそろ前に進まないといけないだろう。そこに俺が関わるべきじゃない。関わったら、意味がないんだ』

　そう言って、ラフードは話を締めくくった。
　二人の間に、何があったのかわからない。だが、なんとなく重要なことがあったのだということを私は理解するのだった。