継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗

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57.現れた狂気

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「ラフードめ、余計なことを……」

 逃げる私の耳に聞こえてきたのは、ラムフェグの声だった。
 その声を気にすることなく、私は走り続ける。幸いにも、彼の執務室はすぐそこだ。既に、目に入る場所まで来ている。

「……フレイグ様! 助けてください!」

 そこで私は、そのように叫んだ。とにかく、彼に助けを求めるべきだと思ったのだ。
 恐らく、この距離なら聞こえるはずである。

「アーティア!」

 その声が聞こえたのか、フレイグ様はすぐに執務室から飛び出してきた。
 直後に、彼は目を丸めている。迫りくるラムフェグに気づいたのだろう。
 彼は何も言わずに剣を抜いた。いつか見たその漆黒の剣を携え、彼は私の横を通り過ぎていく。

「はあっ!」
「ぬぐっ!」

 フレイグ様の剣が、ラムフェグに振るわれる。その攻撃により、彼は後退していく。 ただ、その見た目通り体は固いらしく、特に切り裂かれた様子はない。

「ラムフェグ……どうして、お前がここに?」
「ふふ、流石の貴様もこの私が、ここに来るということは予測できていなかったようだな……」

 フレイグ様は、私を庇うように立ちながら、ラムフェグに問いかけた。
 それに対して、鎧騎士は笑う。その笑い声は、とても楽しそうだ。
 改めて見てみると、ラムフェグには表情がある。全身が鎧で、顔も兜なのだが、そこに光り輝くように目があるのだ。

「シャルドさんやエリーナさんはをどうした?」
「ああ、あの二人か……邪魔だったから、排除させてもらった」
「……何?」
『お嬢ちゃん、二人は無事だ! 俺とクーリアが助けた!』
「フレイグ様、二人は無事です!」

 フレイグ様の質問に対して、ラムフェグは堂々と嘘をついた。
 それは恐らく、フレイグ様を動揺させるための手なのだろう。
 だが、それはラフードのおかげで失敗に終わった。どうやら、彼は色々と事情を知っているようだ。

「相変わらずのようだな……ラムフェグ」
「……厄介な女だな? まさか、ラフードとクーリアの姿が見えているとは……」

 ラムフェグは、私に忌々しそうに視線を向けてきた。
 彼にとって、二人の姿が認識できる私の存在は誤算だったようである。本来ならば、それでそれなりにフレイグ様の動揺を誘えたはずだっただろう。

『まあ、フレイグはわかっていると思うが、あいつは謀略に満ちた奴だ。言うことをいちいち信用していたら、きりがない』
「フレイグ様、彼の言うことは信じない方がいいとラフードが……」
「ああ、わかっている。あいつとも、それなりに長い付き合いだからな……」

 フレイグ様は、ゆっくりとそう呟いた。
 それはつまり、彼と何度も争ってきたということなのだろう。
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