妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗

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12.一つの理想

「前々から心配していたのです。騎士志望というのも、もちろん道の一つではあります。しかしながら、私としてはどこかに婿入りしてもらった方が良いと思っているのです」

 庭から客室に招かれた私は、ノルード様とともに並んでサルマンデ侯爵夫人の言葉を聞いていた。
 その主張は、きっと隣の彼にとっては不本意なものであるだろう。その表情からは、それが伺える。
 ノルード様からしたら、サルマンデ侯爵夫人の主張は押し付けのように思えてしまったのだろうか。その気持ちは、わからないという訳でもない。

「母上、それはなんとも勝手な意見ではありませんか?」
「勝手?」
「私はこれでも、色々と考えて騎士を志望しているのですよ。父上にも話は通しています。だというのになんですか、急に婚約なんて。大体、ラナーシャ嬢に対しても失礼でしょう。こういったことは本人に頼まずに、家を通して行うべきことであるはずです」

 ノルード様は、母親に意見した。
 その意見は、概ね真っ当なものであるといえるかもしれない。
 サルマンデ侯爵夫人の提案には、私も驚くになった。それ程に彼女の提案は、突然のものだったのである。

「ノルード、落ち着きなさい。あなたが言っているのは、正式な婚約の提案の話でしょう?」
「……これは違うのですか?」
「ええ、まだ提案の提案の段階です」

 サルマンデ侯爵夫人は、淡々と言葉を発していた。
 そこからは、彼女の度量が読み取れる。夫人には夫人なりの考えがあって、私達に提案したということなのだろう。
 私は背筋を伸ばすことになっていた。友人の家である訳だが、油断してはいけない。場合によっては、これはリヴァーテ伯爵家の未来を左右するものになるのだから。

「そうですね。一つの理想……とでも言うべきでしょうか? 私が構想している案を伝えたい、と私は思っているのです」
「構想している案ですか……それは一体なんなのですか?」

 私と同じようにサルマンデ侯爵夫人の雰囲気を読み取ったのか、ノルード様も先程までと比べると落ち着いていた。
 そう考えると、私達は未熟ということなのかもしれない。いかなる時にも、動揺しないというのが大切なことなのだろう。

「ノルード、あなたは騎士になることを望んでいることはよくわかっています。しかしながら、それはやめておいた方が良いでしょう……いえ、言い方を変えるべきですね。あなたには婿入りの方が向いています」
「……なんですって?」

 サルマンデ侯爵夫人の言葉に、ノルード様は眉をひそめていた。
 それについては、私にはよくわからないことである。ノルード様はそんなに、婿入りの方が向いている人なのだろうか。
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