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1.大きな犬
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「ルナテシア、こちらがお前の婚約者――ウェルド君だ」
「……はい?」
お父様に連れて来られた部屋には、女性と大きな犬がいる。
今日は婚約者との対面と聞いていたのだが、これはおかしな話だ。私の相手が、どこにも見当たらない。
「お父様、ウェルド様という方はどちらにいらっしゃるのですか?」
「お前の目の前にいる」
「目の前……」
私の対面には、大きな犬がいる。その犬は恐らく、女性の飼い犬だろう。
銀色の毛に包まれた大型犬は、かっこいい見た目をしている。狼に近い、私も個人的には好みの犬種だ。
しかしこのような場に、犬を連れて来るというのは奇妙な話である。今は大人しく椅子に乗っかっているし、私もお父様もそれ程気にしていないが、場合によっては無礼ではなかろうか。
「ラムシェルド公爵、ルナテシア嬢にはまだ何も伝えていらっしゃらないのですか?」
「……ええ、実はそうなのです。正直な所、実際に会ってもらわなければ、説明しても受け入れてもらえないと思いまして」
「まあ、そうでしょうね。そういうことなら、私からお話しましょう」
私が犬の方を見ていると、その隣の女性が口を開いた。
その女性は、こちらに視線を向けてくる。見た目は若いが、なんというか大人びた女性だ。その佇まいからは、なんだか威厳が読み取れる。
「ルナテシア嬢、お初にお目にかかります。私はウォルガル公爵夫人のエルファナと申します」
「ウォルガル公爵家の方でしたか……」
女性の自己紹介に、私は少し驚くことになった。
ウォルガル公爵家というと、この国ゼフェルス王国においては特別と言われている公爵家だ。
かつては現在領地としている地域を収めていた一族であり、確か今から三十年程前に王国の一員となった。古い歴史を持つ一族であるらしく、社交界でもその名は有名だ。
ただ独自の歴史や文化を持つ故か、内々で完結している部分も多いと聞く。私もこれまで交流は持っていなかった。
「初めまして、私はルナテシアと申します……」
「ご丁寧にどうも……さてルナテシア嬢、あなたは誰が自分の婚約者であるか、まだわかっていないようですね? その婚約者とは、私の息子です」
「息子……?」
エルファナ様の言葉に、私は首を傾げることになった。
彼女の息子となると、どう考えても年齢は私よりも一回り以上下のはずだ。結構な年齢差の婚約であるが、本当に大丈夫なのだろうか。
いや、あのウォルガル公爵家が重い腰を上げて婚約に臨むのだ。多少の年齢差は問題ではないのかもしれない。
婚約者として私が選ばれたのは、王家の血筋の中ではそれでも一番近い年の女子だからだ。血筋の近さなども考慮すると、私が適切といえるだろう。
「えっと、ご子息は今どちらに……?」
「私の隣にいます」
「隣……」
「ええ、ウェルドです」
エルファナ様の言葉に、私は彼女の隣にいる犬を見た。
その犬はこちらに鋭利な視線を向けてきている。どうやら彼が、私の婚約者であるウェルド様であるらしい。
「……はい?」
お父様に連れて来られた部屋には、女性と大きな犬がいる。
今日は婚約者との対面と聞いていたのだが、これはおかしな話だ。私の相手が、どこにも見当たらない。
「お父様、ウェルド様という方はどちらにいらっしゃるのですか?」
「お前の目の前にいる」
「目の前……」
私の対面には、大きな犬がいる。その犬は恐らく、女性の飼い犬だろう。
銀色の毛に包まれた大型犬は、かっこいい見た目をしている。狼に近い、私も個人的には好みの犬種だ。
しかしこのような場に、犬を連れて来るというのは奇妙な話である。今は大人しく椅子に乗っかっているし、私もお父様もそれ程気にしていないが、場合によっては無礼ではなかろうか。
「ラムシェルド公爵、ルナテシア嬢にはまだ何も伝えていらっしゃらないのですか?」
「……ええ、実はそうなのです。正直な所、実際に会ってもらわなければ、説明しても受け入れてもらえないと思いまして」
「まあ、そうでしょうね。そういうことなら、私からお話しましょう」
私が犬の方を見ていると、その隣の女性が口を開いた。
その女性は、こちらに視線を向けてくる。見た目は若いが、なんというか大人びた女性だ。その佇まいからは、なんだか威厳が読み取れる。
「ルナテシア嬢、お初にお目にかかります。私はウォルガル公爵夫人のエルファナと申します」
「ウォルガル公爵家の方でしたか……」
女性の自己紹介に、私は少し驚くことになった。
ウォルガル公爵家というと、この国ゼフェルス王国においては特別と言われている公爵家だ。
かつては現在領地としている地域を収めていた一族であり、確か今から三十年程前に王国の一員となった。古い歴史を持つ一族であるらしく、社交界でもその名は有名だ。
ただ独自の歴史や文化を持つ故か、内々で完結している部分も多いと聞く。私もこれまで交流は持っていなかった。
「初めまして、私はルナテシアと申します……」
「ご丁寧にどうも……さてルナテシア嬢、あなたは誰が自分の婚約者であるか、まだわかっていないようですね? その婚約者とは、私の息子です」
「息子……?」
エルファナ様の言葉に、私は首を傾げることになった。
彼女の息子となると、どう考えても年齢は私よりも一回り以上下のはずだ。結構な年齢差の婚約であるが、本当に大丈夫なのだろうか。
いや、あのウォルガル公爵家が重い腰を上げて婚約に臨むのだ。多少の年齢差は問題ではないのかもしれない。
婚約者として私が選ばれたのは、王家の血筋の中ではそれでも一番近い年の女子だからだ。血筋の近さなども考慮すると、私が適切といえるだろう。
「えっと、ご子息は今どちらに……?」
「私の隣にいます」
「隣……」
「ええ、ウェルドです」
エルファナ様の言葉に、私は彼女の隣にいる犬を見た。
その犬はこちらに鋭利な視線を向けてきている。どうやら彼が、私の婚約者であるウェルド様であるらしい。
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