10 / 40
10.唯一の存在
しおりを挟む
『娘が生まれて、アフェリアはヴェルークとともにささやかながらも幸せな生活を送っていました。しかしそれは長くは続かなかった。アンデルト伯爵による介入があったのです』
ブレットンさんの手紙の文字は、かなり歪んでいた。
ただでさえ殴り書きのようなものだったのが、そこからさらに文字が崩れていた。
それはきっと、震えていたからなのだろう。この手紙をしたためることに関しても、きっと勇気がいることだったのだ。
『アンデルト伯爵は、三人が暮らす家を訪れ、娘を強引に奪い去りました。彼としては、伯爵家の血を引く者を放っておけないという主張だったようですが、本当の理由はそうではありません。あの方はそのような殊勝な方ではない。自分が支配していたアフェリアが逃げ出したことに対して、報復がしたかったということでしょう』
ブレットンさんの見解については、私も同意することができた。
歪んでいるお父様は、きっとお母様に対する執着で私を手元に置いていたのだ。アンデルト伯爵夫人がどれだけ反対しても私を妾の子としなかったのは、お母様に対する当てつけに他ならない。
『娘を失ったアフェリアは途方に暮れていました。そんな彼女のことを不憫に思って、ヴェルークはアンデルト伯爵家に抗議に行きました。しかしそれは、アンデルト伯爵の逆鱗に触れる行為だったのです。彼は帰って来ませんでした。アンデルト伯爵が、秘密裏に手にかけたのです』
「なっ……!」
『娘を失い、好意を抱いていた男性を失い、アフェリアは絶望していました。しかしそれでも、彼女は懸命に生きようとしていた。ですが、それも叶わなかった。精神が弱くなっていた所に、逸り病が重なって、結果としてアフェリアも眠りについたのです』
手紙の内容に、私は震えることになった。
お父様の行いが、あまりにも残酷なものだったからだ。
元々ひどい人だとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった。最低なんて言葉でも言い表せない程の悪人だと、私は認識を改める。
『それを見届けた後、私はアンデルト伯爵に対する復讐を決めました。アンデルト伯爵家に仕えて、ずっと隙を伺っていた。息子と、その嫁の仇を取ることが私の生きがいでした』
「……え?」
『そもそもの原因は、私にあるともいえます。アフェリアがアンデルト伯爵の元を離れられなかったのは、当時の私が病に倒れていたからです。心優しき彼女は、私のためにお金を稼いでくれていた。あの時私が潔く死んでいれば良かったのだと、今は思っております』
「そんな、それじゃあ……」
手紙を読みながら、私はブレットンさんの顔を思い出していた。
彼は一体、どんな思いでアンデルト伯爵家に仕えていたのだろうか。それを考えると、胸が苦しくなっていた。
そして、どうして彼の言葉に自分が従わなければならないと思ったのかも、理解することができた。ブレットンさんは、この世にたった一人だけ残った私にとって、家族といえる人だったのだ。
ブレットンさんの手紙の文字は、かなり歪んでいた。
ただでさえ殴り書きのようなものだったのが、そこからさらに文字が崩れていた。
それはきっと、震えていたからなのだろう。この手紙をしたためることに関しても、きっと勇気がいることだったのだ。
『アンデルト伯爵は、三人が暮らす家を訪れ、娘を強引に奪い去りました。彼としては、伯爵家の血を引く者を放っておけないという主張だったようですが、本当の理由はそうではありません。あの方はそのような殊勝な方ではない。自分が支配していたアフェリアが逃げ出したことに対して、報復がしたかったということでしょう』
ブレットンさんの見解については、私も同意することができた。
歪んでいるお父様は、きっとお母様に対する執着で私を手元に置いていたのだ。アンデルト伯爵夫人がどれだけ反対しても私を妾の子としなかったのは、お母様に対する当てつけに他ならない。
『娘を失ったアフェリアは途方に暮れていました。そんな彼女のことを不憫に思って、ヴェルークはアンデルト伯爵家に抗議に行きました。しかしそれは、アンデルト伯爵の逆鱗に触れる行為だったのです。彼は帰って来ませんでした。アンデルト伯爵が、秘密裏に手にかけたのです』
「なっ……!」
『娘を失い、好意を抱いていた男性を失い、アフェリアは絶望していました。しかしそれでも、彼女は懸命に生きようとしていた。ですが、それも叶わなかった。精神が弱くなっていた所に、逸り病が重なって、結果としてアフェリアも眠りについたのです』
手紙の内容に、私は震えることになった。
お父様の行いが、あまりにも残酷なものだったからだ。
元々ひどい人だとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった。最低なんて言葉でも言い表せない程の悪人だと、私は認識を改める。
『それを見届けた後、私はアンデルト伯爵に対する復讐を決めました。アンデルト伯爵家に仕えて、ずっと隙を伺っていた。息子と、その嫁の仇を取ることが私の生きがいでした』
「……え?」
『そもそもの原因は、私にあるともいえます。アフェリアがアンデルト伯爵の元を離れられなかったのは、当時の私が病に倒れていたからです。心優しき彼女は、私のためにお金を稼いでくれていた。あの時私が潔く死んでいれば良かったのだと、今は思っております』
「そんな、それじゃあ……」
手紙を読みながら、私はブレットンさんの顔を思い出していた。
彼は一体、どんな思いでアンデルト伯爵家に仕えていたのだろうか。それを考えると、胸が苦しくなっていた。
そして、どうして彼の言葉に自分が従わなければならないと思ったのかも、理解することができた。ブレットンさんは、この世にたった一人だけ残った私にとって、家族といえる人だったのだ。
640
あなたにおすすめの小説
癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
癒しの聖女は身を削り激痛に耐え、若さを犠牲にしてまで五年間も王太子を治療した。十七歳なのに、歯も全て抜け落ちた老婆の姿にまでなって、王太子を治療した。だがその代償の与えられたのは、王侯貴族達の嘲笑と婚約破棄、そして実質は追放と死刑に繋がる領地と地位だった。この行いに、守護神は深く静かに激怒した。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
辺境伯令嬢ファウスティナと豪商の公爵
桜井正宗
恋愛
辺境伯令嬢であり、聖女でもあるファウスティナは家族と婚約の問題に直面していた。
父も母もファウスティナの黄金を求めた。妹さえも。
父・ギャレットは半ば強制的に伯爵・エルズワースと婚約させる。しかし、ファウスティナはそれを拒絶。
婚約破棄を言い渡し、屋敷を飛び出して帝国の街中へ消えた。アテもなく彷徨っていると、あるお店の前で躓く。
そのお店の名は『エル・ドラード』だった。
お店の中から青年が現れ、ファウスティナを助けた。これが運命的な出逢いとなり、一緒にお店を経営していくことになるのだが――。
理不尽な婚約破棄をされた私を助けてくれた兄様は、隣国の王太子でした
柚木ゆず
恋愛
王太子が婚約破棄をしたいがために、無実の罪をきせられた伯爵令嬢のリーズ。牢屋でひとり泣いていた彼女はやがて兄のユーズに助け出され、兄と自分に隠された真実を知る事になるのでした。
※6月5日、本編が完結いたしました。明日より、少しだけ番外編を投稿させていただきます。
『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』
ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、
偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢
シャウ・エッセン。
「君はもう必要ない」
そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。
――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。
王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。
だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。
奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、
一人に負担を押し付けない仕組みへ――
それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。
元婚約者はようやく理解し、
偽ヒロインは役割を降り、
世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。
復讐も断罪もない。
あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。
これは、
選ばれなかった令嬢が、
誰の期待にも縛られず、
名もなき日々を生きることを選ぶ物語。
《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる