偽りの聖女だと糾弾されて国外追放されましたが、実は本物の聖女だったので戻って来て欲しいと言われました。今更戻ると思っているんですか?

木山楽斗

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「ふう、無事にあなたを見つけられて本当によかった……」

 私は、クルストさんと向かい合って馬車に乗っていた。
 無事に合流することができ、バルメルト王国に向かうことになったのである。
 通信した時からなんとなくわかっていたことだが、クルストさんは若い男性だった。年齢的には、それ程私と変わらないかもしれない。
 ただ、彼が部隊を率いているように見えたため、それなりの立場にあるのだろう。きっと優秀な人なのだ。

「とはいえ、油断はできませんね。この辺りには、魔物も多いですから」
「……ええ、そうですね」
「さてと、色々と知りたいことがありますよね?」
「はい、それはもちろんあります。未だに状況が飲み込めていませんから」
「そうですよね……」

 私の言葉に、クルストさんは苦笑いを浮かべていた。彼も理解しているのだろう。私がほとんど説明されずにここにいるということを。
 それなら、事情を説明してもらいたい。それが素直な気持ちである。

「しかし、申し訳ありません。今回の件の事情は、僕から話す訳にはいかないのです」
「話す訳にはいかない……」
「僕は一介の騎士に過ぎません。そんな僕の立場上、今回の件に関する事情を話すのは正直難しいのです」
「ああ……」

 クルストさんの説明は、非常に納得できるものだった。
 今回の件には、バルメルト王国の第三王子であるセルクス様が関係しているという。王族が関わっている件を騎士が無闇に話すと問題になるかもしれない。
 ということは、彼から何かを聞き出すのはやめておいた方がいいだろう。それで彼が罰せられたりしたら、こちらとしても申し訳ない。

「えっと……それなら、これからの予定を聞かせていただけますか? これから私はどこに行って、どうなるのか。それくらいは話せるのではないでしょうか?」
「ええ、それはもちろんです」

 私の言葉に、クルストさんはゆっくりと頷いてくれた。
 当然のことかもしれないが、そこまで伏せる必要があるという訳ではないようだ。
 正直、私がこれからどこに行くのかはずっと気になっていた。ある程度予想はしているが、それが確定するのとしないのでは心の持ちようが違う。

「僕の任務は、あなたをバルメルト王国のセルクス殿下の元にお届けすることです。ですから、あなたはこれからバルメルト王国の王都に行くことになります」
「セルクス殿下……」

 私は、改めてセルクス殿下のことを考えてみる。隣国の王子であるので、その名前は耳にしたことがあるが、一体どのような人物なのだろうか。
 その人物がどうして私を助けてくれるのか、それもわからない。ポールス先生が何か関係しているのだとは思うが、二人の関係性も謎である。

「まあ、とりあえず王都に着くまでこの旅は続くということですか?」
「ええ、そうなりますね。それなりに長い旅になりますが、どうかご了承ください」
「いえ、問題ありません。私は、助けてもらっている身ですからね」

 当然のことながら、彼らの提案を拒否しようとは思っていない。助けられている身であるというのに、それを拒否するなんて失礼過ぎる。
 とりあえず、どこに行くがわかって覚悟はできた。これから何が起こるかはわからないが、心構えができるだけでもいくらか安心できる。
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