婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

木山楽斗

文字の大きさ
3 / 34

3.それぞれの相手

しおりを挟む
「……アノテラ嬢、あなたも災難でしたね」
「……ええ、ラルード様こそ」

 客室から出た私は、ラルード様とそのような会話を交わした。
 奇妙な感覚である。彼とは今日初めて出会ったばかりなのに、既に分かり合えているような気がしてしまう。

「しかし事前にある程度ことが予想できた僕と違って、あなたは予想外の方向から婚約破棄を食らった訳でしょう?」
「ラルード様は、やはり何が起こるか予想できていたのですね? まあ、婚約者から別の家に呼ばれたらそうなりますか?」
「ええ、それもロナメア嬢は僕にわざわざガラルト様のザルパード子爵家と言ってきましたからね……」
「ええ……」

 ロナメア嬢の言動に、私は驚いてしまった。
 そんな言い方をすれば、他に男がいると言っているようなものだ。
 しかしそれはなんというか、非常に納得できるものだった。先程までの彼女を考えると、そんなことも言い出しそうなのである。

「しかしながら、相手にも婚約者がいるとは思っていませんでした」
「ああ、そうだったんですか」
「前々から、彼女が怪しいとは思っていたんですけれどね……アノテラ嬢はどうでしたか?」
「え? えっと……いいえ、特に怪しいとは思いませんでした」

 ラルード様の口振り的に、あの二人は結構前から関係を持っていたようだ。
 しかし、私はまったく気付いていなかった。というか、ガラルト様と何を話したか、正直あまり覚えていない。

「正直な所、ガラルト様は中々に難儀な人でして……その、話がすごく長いんです」
「話が長い?」
「だから、一々会話を覚えていないというか……聞き流さないとやってられなかったんです」

 ガラルト様は、非常にプライドが高い人で、いつも自慢話をしていた。
 そんな彼との会話は、基本的にいつも聞き流していた。精神衛生上、その方が良かったのだ。
 故に、私はガラルト様の変化などは知らない。いや、もしかしたら彼が隠すのが上手いだけだったのかもしれないが。

「そうですか。それは少し不思議ですね」
「不思議? 何がですか?」
「いえ、ここだけの話、ロナメア嬢も中々にこだわりが強い方なのです。そんな彼女が、彼と上手くやっているのが少し不思議で……」
「そうなんですか……まあ、人と人との相性なんてわかりませんからね」
「……確かにそうですね」

 ガラルト様とロナメア嬢は、とても親しそうにしていた。きっと、二人にしかわからない何かがあるのだろう。恋愛とはそういうものである気もするし、私達があれこれ予想しても無駄なような気がする。
 というか、二人のことなんて考えている場合ではないだろう。私もラルード様も、自分達のことを考えなければならないのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

天才魔導士様はまだ恋を知らない~私を恋の実験台にしないで下さい!

志熊みゅう
恋愛
「短期・特定任務 助手募集 ※女性限定」  ある日新聞で見つけたその魔塔研究員の求人広告が、田舎で親に言われるがまま生きてきた子爵令嬢セレナの人生を変える。  由緒正しい魔導士一族イグナシオ家に生まれながら、「女は魔法を学ぶ必要はない」と魔力を封じられてきたセレナ。両親は良家への縁談を勝手に進めていた。  家出同然で応募した魔塔の面接で出会ったのは、天才にして世間知らずな一級魔導士ラウル・アレハンドロ。彼の“特殊任務”とは、王家から依頼された『魅了魔法』を完成させること。魔法はイメージの世界。恋を理解するために、助手であるセレナと疑似恋愛デートを重ねるが……。  魔法バカで恋を知らない天才魔導士 × 魔法を学びたい令嬢  実験から始まるふたりの関係は、いつしか『任務』を越えて本物の恋になる!?じわじわ甘くてちょっとズレた恋愛ファンタジー。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾
恋愛
### 内容紹介 **タイトル**: 「婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む」 **ジャンル**: 異世界ファンタジー恋愛 / 婚約破棄ザマア / シンデレラストーリー / 溺愛甘々 **あらすじ(ネタバレなし)** 公爵令嬢ヴィオレッタは、幼馴染の王太子アルディオンに長年婚約を誓われていた。美しい容姿と優しい性格で宮廷でも愛されていたが、ある舞踏会の夜、アルディオンは突然平民出身の偽聖女セリナに心変わりし、ヴィオレッタを公衆の面前で婚約破棄する。「君はただの飾り物だ」との屈辱的な言葉とともに、家族からも見放され、追放の危機に陥る。 絶望の底で、ヴィオレッタの中に眠っていた古代の「影の魔法」が覚醒。影を操り、幻影を生み、予知する強大な力だ。一人旅立った彼女は、冒険者として生きながら、復讐の炎を胸に秘める。 そんなヴィオレッタの前に現れたのは、銀髪銀瞳の謎の美男子セイル。彼は隣国アストリアの「漆黒の王太子」で、政争から身を隠していた。最初はヴィオレッタの影の力を利用しようとするが、彼女の強さと純粋さに惹かれ、互いに心を開いていく。 二人は共闘し、アルディオンとセリナの陰謀を暴き、王国を救う。ヴィオレッタは屈辱を乗り越え、セイルに溺愛されながら、王妃として輝く未来を掴む。影と光が調和する、真実の愛と逆転の物語。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~

ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。 しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。 周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。 だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。 実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。 追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。 作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。 そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。 「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に! 一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。 エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。 公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀…… さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ! **婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛** 胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...