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1.高慢な婚約者
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私の父マートン子爵は、フェルディス伯爵と懇意にしている。
二人は幼少期に出会い、それからずっと友人関係にあるそうだ。それは二人が結婚して、爵位を継いでも変わらなかった。貴族としての地位こそ違えど、対等な友人であるとお互いに認識しているらしい。
そんな父の長女として私が、フェルディス伯爵の長男としてバルクルがそれぞれ生を受けた。
当然のことながら、私達も幼少期の頃から交流があり、男女ということもあって自然と婚約の話が出てきた。
しかし私個人として、その婚約を快く思っているかというと、そうではない。
なぜならバルクルという伯爵令息は、少なくとも私にとって良い婚約者ではなかったからだ。
「数多いる貴族の令嬢の中で、まさか君と婚約するなんて思っていなかった。父上達は勝手なものだ。己の友情を子供に押し付けようとするなんて」
「……それについては、私も概ね同じ気持ちではあります」
「ほう? まあ、そうか。だが君にとっては悪い話ではないだろう。何せ伯爵令息との婚約だからな。以前よりも贅沢な暮らしができるぞ?」
バルクルは私に対して、嫌味な笑みを向けてきた。
彼の私に対する態度は、いつもそのような感じだ。それは凡そ、心地良いものではない。
「贅沢な暮らしがしたいと思ってはいません」
「強がるなよ。人は誰だって、そう思っているものさ。君だって伯爵家で暮らせば、わかるだろう。子爵家とは何もかも違うということが」
「爵位が上とはいえ、そこまで変わるとは思いません。そもそも私達が考えるべきは、贅沢に暮らすことではないでしょう。次期伯爵夫妻として、立派に務めることを考えるべきです」
「別にその点において、君には期待なんてしていないさ。僕がいれば問題はない」
バルクルはなんとも、自信過剰であった。
彼はいつからか、高慢な人間になった。他者を見下す彼の言動には、辟易としてしまう。これで本人は一介の紳士と思い込んでいるのが、なんとも質が悪い。
「まあ色々と思う所はあるが、仕方ないから君で妥協するとしよう」
「……はい?」
「僕に相応しい相手とは言い難いが、及第点くらいはあげても構わない。光栄に思うのだな」
バルクルの言葉に、私は固まっていた。
彼が上から目線なのはいつものことではあるが、今の言葉はいつにも増して不愉快なものであった。こちらを心底馬鹿にした侮辱の言葉、それを受けて黙っていられる程、私は大人ではない。
「……別に妥協なんて、する必要はありませんよ」
「……何?」
「仕方ないから君で妥協するなんて言う婚約者は、こちらの方から願い下げということです。今回の婚約は考え直すように、私はお父様に進言致します」
「な、なんだと?」
バルクルとの結婚は、マートン子爵家の利益にならない。私はそのように判断した。
彼はその高慢さによって、いつか必ず失敗する。それを支えるのが私の役目なのかもしれないが、それでも無理だと思ってしまう。
「マルティア、君は自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「……意外ですね、バルクル様なら勝手にしろなどというものだと思っていましたが」
「そ、それは……」
バルクルの反応は、私にとって予想外のものだった。
彼が私の言葉に動揺するなんて、思ってもいなかった。ただだからといって、彼との婚約を許容するつもりはない。バルクルには問題があるというのが、私の変わらぬ結論だ。
「申し訳ありませんが、私はこれで失礼させてもらいます」
「ま、待て……!」
私は立ち上がり、客室から出て行く。バルクルから引き止めるような言葉が発せられたが、それは聞かないことにする。
彼の言葉は、聞くに値しないものだ。先程の侮辱によって、私はそう思ってしまっている。
故に私は、先のことを考えることにする。バルクルとの婚約を破談にするためには何が必要か、それは明白だ。お父様を説得しなければならない。
それは恐らく、骨が折れることだろう。親友の息子ということもあって、お父様は彼を買っているから。私はそれをなんとか、覆さなければならない。
バルクルが私を侮辱したというのは紛れもない事実ではあるが、お父様はそれをどれ程くみ取ってくれるだろうか。正直な所、不安である。
二人は幼少期に出会い、それからずっと友人関係にあるそうだ。それは二人が結婚して、爵位を継いでも変わらなかった。貴族としての地位こそ違えど、対等な友人であるとお互いに認識しているらしい。
そんな父の長女として私が、フェルディス伯爵の長男としてバルクルがそれぞれ生を受けた。
当然のことながら、私達も幼少期の頃から交流があり、男女ということもあって自然と婚約の話が出てきた。
しかし私個人として、その婚約を快く思っているかというと、そうではない。
なぜならバルクルという伯爵令息は、少なくとも私にとって良い婚約者ではなかったからだ。
「数多いる貴族の令嬢の中で、まさか君と婚約するなんて思っていなかった。父上達は勝手なものだ。己の友情を子供に押し付けようとするなんて」
「……それについては、私も概ね同じ気持ちではあります」
「ほう? まあ、そうか。だが君にとっては悪い話ではないだろう。何せ伯爵令息との婚約だからな。以前よりも贅沢な暮らしができるぞ?」
バルクルは私に対して、嫌味な笑みを向けてきた。
彼の私に対する態度は、いつもそのような感じだ。それは凡そ、心地良いものではない。
「贅沢な暮らしがしたいと思ってはいません」
「強がるなよ。人は誰だって、そう思っているものさ。君だって伯爵家で暮らせば、わかるだろう。子爵家とは何もかも違うということが」
「爵位が上とはいえ、そこまで変わるとは思いません。そもそも私達が考えるべきは、贅沢に暮らすことではないでしょう。次期伯爵夫妻として、立派に務めることを考えるべきです」
「別にその点において、君には期待なんてしていないさ。僕がいれば問題はない」
バルクルはなんとも、自信過剰であった。
彼はいつからか、高慢な人間になった。他者を見下す彼の言動には、辟易としてしまう。これで本人は一介の紳士と思い込んでいるのが、なんとも質が悪い。
「まあ色々と思う所はあるが、仕方ないから君で妥協するとしよう」
「……はい?」
「僕に相応しい相手とは言い難いが、及第点くらいはあげても構わない。光栄に思うのだな」
バルクルの言葉に、私は固まっていた。
彼が上から目線なのはいつものことではあるが、今の言葉はいつにも増して不愉快なものであった。こちらを心底馬鹿にした侮辱の言葉、それを受けて黙っていられる程、私は大人ではない。
「……別に妥協なんて、する必要はありませんよ」
「……何?」
「仕方ないから君で妥協するなんて言う婚約者は、こちらの方から願い下げということです。今回の婚約は考え直すように、私はお父様に進言致します」
「な、なんだと?」
バルクルとの結婚は、マートン子爵家の利益にならない。私はそのように判断した。
彼はその高慢さによって、いつか必ず失敗する。それを支えるのが私の役目なのかもしれないが、それでも無理だと思ってしまう。
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「……意外ですね、バルクル様なら勝手にしろなどというものだと思っていましたが」
「そ、それは……」
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「申し訳ありませんが、私はこれで失礼させてもらいます」
「ま、待て……!」
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故に私は、先のことを考えることにする。バルクルとの婚約を破談にするためには何が必要か、それは明白だ。お父様を説得しなければならない。
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