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2.動けぬ理由
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フェルディス伯爵家の屋敷から出て行った私は、当然そのままマートン子爵家の屋敷に戻ろうと思っていた。
二家の領地は隣接しているため、本来であればすぐに帰宅することはできる。ただ今回に関しては、そうならなかった。
「一体どういうことか、説明していただけますか?」
「申し訳ありません、マルティア様。しかしお通しする訳にはいかないのです。現在、街道には多くの魔物が発生しています。安全のために、完全に通行止めという措置を取っているのです」
街道において、事故や事件が発生するというのはそれ程珍しいことではない。だが全面通行止めになるのは稀なことだ。
魔物の大量発生、それが丁度今日辺りから起こり始めていたらしい。恐らく、フェルディス伯爵家には私と入れ違いで連絡がされているだろう。私はそれを知らずに、のこのことやって来てしまった訳だ。
「謝っていただく必要はありません。ただ状況が知りたかっただけですから。よくわかりました。貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます」
「いえ……」
衛兵から話を聞いた私は、これからどうするべきかを思案することになった。
二家の領地を繋ぐ街道が使えるようになるのは、しばらく先のことだろう。最低でも一週間くらいと、考えるべきだ。
となると、迂回してマートン子爵家に帰るべきだろうか。それは不可能という訳ではない。
「マルティア様、迂回して進まれますか?」
「……いえ、それはやめておきましょう」
衛兵の説明を受けて、私について来てくれていた使用人の一人が声を出した。
私はその提案を否定する。今私が動くことは、得策ではないからだ。
「例え逆方向に向かうにしても、今の状況では護衛が必要になるわよね?」
「もちろんです。確実に危険がありますから」
「今この町で護衛を雇うことは、今まさに危機に晒されている町を危機に晒す愚行だわ。貴族の端くれとして、そのようなことはしたくないもの。私も含めて町ごと守ってもらいましょう」
「賢明な判断だと思います」
バルクルとの一件からはやる気持ちを、私は抑えつける。
今はとにかく、貴族としてとるべき判断をするべき時だ。非常時に混乱の原因になるのは避けたい所である。大人しくしていることにしよう。
「……失礼ながら、少し良いだろうか?」
「え?」
そこで私は、誰かに声をかけられた。
その声には、聞き覚えがないような気がする。少なくとも知っている声ではない。親しい者が声をかけてきた訳ではなさそうだ。
「あなたは……」
「……お久し振りと、一応言っておきましょうか、マルティア嬢。以前お会いしたことがありますよね?」
「お、お久し振りです……ラウエル様に覚えていただけていて光栄です」
声が聞こえてきた方向を振り返って、私は驚くことになった。
そこにいるのは、ラスタール公爵家の令息ラウエル様である。彼がこんな所にいると思っていなかった私は、思わず面食らってしまう。
「こちらこそ、覚えていただけいたなら嬉しく思います」
「それはもちろんです。ラスタール公爵家の嫡子であるラウエル様のことを、覚えていない貴族なんていませんよ。しかし、どうしてこちらに?」
「少々、用事がありましてね。ですが、それはどうやら果たせそうにはありません。ここから先にはいけない訳ですからね」
私の言葉に応えながら、ラウエル様は通行止めになっている町の入り口の方を見つめていた。
どうやら彼は、移動中に足止めを食らうことになってしまったようだ。ここからマートン子爵家の領地に入って、そのままどこかに移動しようとしていたのだろう。
「迂回することも考えましたが、それはやめておきます。マルティア嬢が述べていた通り、この町の方々に迷惑をかけることになりそうですからね」
「あ、いえ、それは……」
「僕はマルティア嬢の考えを素晴らしいものだと思っています。貴族たる者、何を優先するべきか、それを学ばせていただきました」
「ラ、ラウエル様なら、わかっていたのではありませんか?」
ラウエル様は、私に対して笑顔を見せてきた。
彼ならばきっと、私が言ったようなことは最初からわかっていたはずである。普通の貴族なら、移動するなんて判断はまずしないはずだ。
「しかしマルティア嬢、僕達はここから動かないにしても、物資の運搬などは必ず行われるものです。それは必要なことですからね」
「物資の運搬、ですか? それは確かにそうですね……」
「何か外部に連絡したいことがあるならば、そこを頼るべきでしょう。確実という訳ではありませんが、届けてもらえる可能性はあります」
「なるほど……それは確かにそうですね」
ラウエル様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
確かに物資の運搬に合わせて手紙を出すというのは、良いかもしれない。それはきちんと、覚えておくことにしよう。
「さて、僕達は宿を取らなければなりませんね。どうせ行き先は同じでしょうから、これからは行動をともにしませんか? 警護の観で考えると、貴族の僕達はまとまっている方が都合も良いでしょう。個人的に話し相手も欲しい所ですしね」
「私で良ければ、ご一緒させていただきます」
「そうですか。それでは行きましょう」
ラウエル様の提案に、私は乗ることにした。断る理由がなかったからだ。
とにかく今は、大人しくしていることにしよう。魔物が無事に討伐されるまで、少しの間辛抱だ。
二家の領地は隣接しているため、本来であればすぐに帰宅することはできる。ただ今回に関しては、そうならなかった。
「一体どういうことか、説明していただけますか?」
「申し訳ありません、マルティア様。しかしお通しする訳にはいかないのです。現在、街道には多くの魔物が発生しています。安全のために、完全に通行止めという措置を取っているのです」
街道において、事故や事件が発生するというのはそれ程珍しいことではない。だが全面通行止めになるのは稀なことだ。
魔物の大量発生、それが丁度今日辺りから起こり始めていたらしい。恐らく、フェルディス伯爵家には私と入れ違いで連絡がされているだろう。私はそれを知らずに、のこのことやって来てしまった訳だ。
「謝っていただく必要はありません。ただ状況が知りたかっただけですから。よくわかりました。貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます」
「いえ……」
衛兵から話を聞いた私は、これからどうするべきかを思案することになった。
二家の領地を繋ぐ街道が使えるようになるのは、しばらく先のことだろう。最低でも一週間くらいと、考えるべきだ。
となると、迂回してマートン子爵家に帰るべきだろうか。それは不可能という訳ではない。
「マルティア様、迂回して進まれますか?」
「……いえ、それはやめておきましょう」
衛兵の説明を受けて、私について来てくれていた使用人の一人が声を出した。
私はその提案を否定する。今私が動くことは、得策ではないからだ。
「例え逆方向に向かうにしても、今の状況では護衛が必要になるわよね?」
「もちろんです。確実に危険がありますから」
「今この町で護衛を雇うことは、今まさに危機に晒されている町を危機に晒す愚行だわ。貴族の端くれとして、そのようなことはしたくないもの。私も含めて町ごと守ってもらいましょう」
「賢明な判断だと思います」
バルクルとの一件からはやる気持ちを、私は抑えつける。
今はとにかく、貴族としてとるべき判断をするべき時だ。非常時に混乱の原因になるのは避けたい所である。大人しくしていることにしよう。
「……失礼ながら、少し良いだろうか?」
「え?」
そこで私は、誰かに声をかけられた。
その声には、聞き覚えがないような気がする。少なくとも知っている声ではない。親しい者が声をかけてきた訳ではなさそうだ。
「あなたは……」
「……お久し振りと、一応言っておきましょうか、マルティア嬢。以前お会いしたことがありますよね?」
「お、お久し振りです……ラウエル様に覚えていただけていて光栄です」
声が聞こえてきた方向を振り返って、私は驚くことになった。
そこにいるのは、ラスタール公爵家の令息ラウエル様である。彼がこんな所にいると思っていなかった私は、思わず面食らってしまう。
「こちらこそ、覚えていただけいたなら嬉しく思います」
「それはもちろんです。ラスタール公爵家の嫡子であるラウエル様のことを、覚えていない貴族なんていませんよ。しかし、どうしてこちらに?」
「少々、用事がありましてね。ですが、それはどうやら果たせそうにはありません。ここから先にはいけない訳ですからね」
私の言葉に応えながら、ラウエル様は通行止めになっている町の入り口の方を見つめていた。
どうやら彼は、移動中に足止めを食らうことになってしまったようだ。ここからマートン子爵家の領地に入って、そのままどこかに移動しようとしていたのだろう。
「迂回することも考えましたが、それはやめておきます。マルティア嬢が述べていた通り、この町の方々に迷惑をかけることになりそうですからね」
「あ、いえ、それは……」
「僕はマルティア嬢の考えを素晴らしいものだと思っています。貴族たる者、何を優先するべきか、それを学ばせていただきました」
「ラ、ラウエル様なら、わかっていたのではありませんか?」
ラウエル様は、私に対して笑顔を見せてきた。
彼ならばきっと、私が言ったようなことは最初からわかっていたはずである。普通の貴族なら、移動するなんて判断はまずしないはずだ。
「しかしマルティア嬢、僕達はここから動かないにしても、物資の運搬などは必ず行われるものです。それは必要なことですからね」
「物資の運搬、ですか? それは確かにそうですね……」
「何か外部に連絡したいことがあるならば、そこを頼るべきでしょう。確実という訳ではありませんが、届けてもらえる可能性はあります」
「なるほど……それは確かにそうですね」
ラウエル様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
確かに物資の運搬に合わせて手紙を出すというのは、良いかもしれない。それはきちんと、覚えておくことにしよう。
「さて、僕達は宿を取らなければなりませんね。どうせ行き先は同じでしょうから、これからは行動をともにしませんか? 警護の観で考えると、貴族の僕達はまとまっている方が都合も良いでしょう。個人的に話し相手も欲しい所ですしね」
「私で良ければ、ご一緒させていただきます」
「そうですか。それでは行きましょう」
ラウエル様の提案に、私は乗ることにした。断る理由がなかったからだ。
とにかく今は、大人しくしていることにしよう。魔物が無事に討伐されるまで、少しの間辛抱だ。
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