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3.婚約破棄の噂
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フェルディス伯爵家の領地でしばらくの間過ごした私は、無事にマートン子爵家の屋敷に戻って来られた。
滞在している間は、ラウエル様と交流させてもらった。彼は極めて紳士的な人であり、好感がもてる人物だったといえる。事前にバルクルと話していたからか、猶更そう思ってしまった。
ともあれ家に戻れた私は、早速お父様と話をすることになった。
私の手紙は届いていたらしいので、バルクルとの婚約に関して話があるということだろう。自身の執務室にて表情を強張らせるお父様と対峙するのは、気が重かった。
「お父様、話とは一体なんでしょうか?」
「……正直な所、今私は色々と混乱している。まず確認したいのだが、お前から届いた手紙に書いてある内容は間違いないのか?」
「ええ、間違いありません」
お父様からの質問に、私はゆっくりと頷いた。
親友の息子であるバルクルが、私を侮辱したという事実は、お父様にとって受け入れられるものではないのだろう。
ただそれは、紛れもない事実である。私はとりあえず、それをお父様に受け入れてもらわなければならなかった。
「お父様はバルクルのことを評価しているようですが、彼は立派な人間であるとは言えません。偉大なるフェルディス伯爵の高貴な心を受け継いでおらず、実に高慢です。彼は私を侮辱しました。それはきっと、これからも続いていくでしょう。バルクルは何れ必ず大きな失敗を犯します。今がマートン子爵家にとって、引き際ではないでしょうか?」
「うむ……」
私の言葉に対して、お父様は唸った。
その唸りからは、思案が読み取れる。迷っているのだろう。どうするべきかを。
お父様は、私のことを信じてくれるとは思っている。ただそれでも、フェルディス伯爵との関係が頭に過っているのだろう。
「お父様とフェルディス伯爵との関係は、私もよく知っています。しかし今は……」
「いやマルティア、違うのだ。急いで移動してきたお前は知らないかもしれないが、実は今問題が起こっているのだ」
「問題……?」
どうやらお父様は、私が思っていたのとは別のことで悩んでいるらしい。
確かに私はとにかく急いで帰って来たので、現在あまり情報などは仕入れられていない。町に留まっていた時も、魔物の問題によって孤立していたため、あまり社交界に関することは知らないのだ。
「お父様、それは一体どういうことですか?」
「婚約破棄だ」
「婚約破棄?」
「社交界において、お前は婚約破棄したということになっている」
「……なんですって?」
お父様の言葉に、私は思わず目を見開いていた。
私が婚約破棄した、そのような事実はない。バルクルに啖呵を切ったが、あれはあくまで婚約を破談とするようにお父様に進言すると言っただけだ。
それが何故、婚約破棄したということになっているのだろうか。その意味が、私にはまったく持ってわからなかった。
「お父様、私は婚約破棄なんて……」
「ああ、当然お前がそのようなことはしていないと私は思っている。しかし何者かが、そういった噂を吹聴していることは間違いない。それができる人物は……」
「……」
私の中には、二人の人物の顔が浮かんできた。
一人はバルクル、もう一人はラウエル様だ。私が直近で関わったのは、この二人である。
ただラウエル様には、婚約関連のことは特に伝えていない。彼の性格から考えても噂とは思えないし、となるとバルクルが噂を流したということになるだろうか。
「バルクルが、噂を流したということでしょうか?」
「お前の彼に対する評価から、その可能性は高いかもしれないな……フェルディル伯爵という可能性もある。婚約の破談などに備えて、先んじて仕掛けてきたという可能性はある」
「フェルディル伯爵は、そのようなことはしないと思います」
「どちらにしても、まずい状況だ。この噂は、我々にとって大きな隙となる」
お父様は、ゆっくりと首を横に振った。
婚約破棄した令嬢として私の名が社交界に知れ渡る。それはなんとも、良くない状況だ。
その悪評を、なんとか覆さなければならない。それはマートン子爵家のこれからのためにも、必要なことである。
滞在している間は、ラウエル様と交流させてもらった。彼は極めて紳士的な人であり、好感がもてる人物だったといえる。事前にバルクルと話していたからか、猶更そう思ってしまった。
ともあれ家に戻れた私は、早速お父様と話をすることになった。
私の手紙は届いていたらしいので、バルクルとの婚約に関して話があるということだろう。自身の執務室にて表情を強張らせるお父様と対峙するのは、気が重かった。
「お父様、話とは一体なんでしょうか?」
「……正直な所、今私は色々と混乱している。まず確認したいのだが、お前から届いた手紙に書いてある内容は間違いないのか?」
「ええ、間違いありません」
お父様からの質問に、私はゆっくりと頷いた。
親友の息子であるバルクルが、私を侮辱したという事実は、お父様にとって受け入れられるものではないのだろう。
ただそれは、紛れもない事実である。私はとりあえず、それをお父様に受け入れてもらわなければならなかった。
「お父様はバルクルのことを評価しているようですが、彼は立派な人間であるとは言えません。偉大なるフェルディス伯爵の高貴な心を受け継いでおらず、実に高慢です。彼は私を侮辱しました。それはきっと、これからも続いていくでしょう。バルクルは何れ必ず大きな失敗を犯します。今がマートン子爵家にとって、引き際ではないでしょうか?」
「うむ……」
私の言葉に対して、お父様は唸った。
その唸りからは、思案が読み取れる。迷っているのだろう。どうするべきかを。
お父様は、私のことを信じてくれるとは思っている。ただそれでも、フェルディス伯爵との関係が頭に過っているのだろう。
「お父様とフェルディス伯爵との関係は、私もよく知っています。しかし今は……」
「いやマルティア、違うのだ。急いで移動してきたお前は知らないかもしれないが、実は今問題が起こっているのだ」
「問題……?」
どうやらお父様は、私が思っていたのとは別のことで悩んでいるらしい。
確かに私はとにかく急いで帰って来たので、現在あまり情報などは仕入れられていない。町に留まっていた時も、魔物の問題によって孤立していたため、あまり社交界に関することは知らないのだ。
「お父様、それは一体どういうことですか?」
「婚約破棄だ」
「婚約破棄?」
「社交界において、お前は婚約破棄したということになっている」
「……なんですって?」
お父様の言葉に、私は思わず目を見開いていた。
私が婚約破棄した、そのような事実はない。バルクルに啖呵を切ったが、あれはあくまで婚約を破談とするようにお父様に進言すると言っただけだ。
それが何故、婚約破棄したということになっているのだろうか。その意味が、私にはまったく持ってわからなかった。
「お父様、私は婚約破棄なんて……」
「ああ、当然お前がそのようなことはしていないと私は思っている。しかし何者かが、そういった噂を吹聴していることは間違いない。それができる人物は……」
「……」
私の中には、二人の人物の顔が浮かんできた。
一人はバルクル、もう一人はラウエル様だ。私が直近で関わったのは、この二人である。
ただラウエル様には、婚約関連のことは特に伝えていない。彼の性格から考えても噂とは思えないし、となるとバルクルが噂を流したということになるだろうか。
「バルクルが、噂を流したということでしょうか?」
「お前の彼に対する評価から、その可能性は高いかもしれないな……フェルディル伯爵という可能性もある。婚約の破談などに備えて、先んじて仕掛けてきたという可能性はある」
「フェルディル伯爵は、そのようなことはしないと思います」
「どちらにしても、まずい状況だ。この噂は、我々にとって大きな隙となる」
お父様は、ゆっくりと首を横に振った。
婚約破棄した令嬢として私の名が社交界に知れ渡る。それはなんとも、良くない状況だ。
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