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7.安心して
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「ラウエル様は、バルクルのことを理解していたのですか?」
「理解……そうですね。そうなのかもしれません」
フェルディス伯爵家との一件が一段落してから、マートン子爵家の屋敷にラウエル様が訪ねてきた。
そんな彼に私は、気になっていることを聞いてみる。それはバルクルのことだ。ラウエル様は彼に対して言葉をかけて、その牙を抜いていた。あれは一体、どういうことだったのだろうか。
「彼は少し幼稚な人間でしたから」
「幼稚な人間? なるほど、言われてみれば……」
「いいえ、これはマルティア嬢にはわからないことだと思います」
私の言葉に、ラウエル様は首を横に振った。
彼とバルクルは似ても似つかないと思うのだが、案外そうでもないのだろうか。ラウエル様の口振りからは、なんとなくそんな気がした。
「バルクル伯爵令息は良くないことをしましたが、僕はこれ以上彼を辱めようとは思いません。ですから、そのことについて聞くのはどうか勘弁していただけませんか?」
「……そうですね。私としても、もうバルクルに対して激しい怒りは覚えていません。あの涙を見てしまったら、感情的にはもういいと思ってしまいます。もちろん、貴族としてフェルディス伯爵家には対価を払ってもらう必要があると考えていますが」
バルクルに対する怒りは、もうそれ程残っていない。彼はあれからすっかり意気消沈しているようだし、少なくとも感情の面で責める気持ちはなかった。
私がバルクルの内面を理解することが、彼のさらなる屈辱に繋がるなら、追及するのはやめておくことにしよう。それが私のせめてもの情けというものだ。
「マルティア嬢、あなたはやはりお優しい人ですね」
「優しいなんて、そんな……」
「そんなあなたに、一つお願いがあります。僕と婚約していただけませんか?」
「……え?」
ラウエル様がいつも通りの笑顔で発した言葉に、私は固まることになった。
彼は今確かに、婚約と言った。私と彼が婚約する。それはすぐに噛み砕けることではなかった。
「ラウエル様、一体何を……」
「言った通りです。僕はあなたを妻に迎えたいと思っています。あなたは貴族としての自覚をしっかりと持ったお優しい方です。そんなあなたが僕の妻になってくれたら、とてもありがたい」
「……そ、そんなに私のことを評価していただけているなんて思っていませんでした」
ラウエル様の真っ直ぐな目に、彼が嘘偽りを述べている訳ではないとわかった。
自分がそこまでの高評価に値する人間であるかは、よくわからない。ただそれでも今は、自身の素直な気持ちを伝えるべきだろう。彼もそれなりの勇気を持って言葉を発したはずだ。私にはそれに応える義務がある。
「しかし優しいというなら、ラウエル様の方です。今回の件において、あなたはすっかり助けていただきました。あなたは紳士的で素晴らしい方です。そんなあなたの妻になれるのなら、私は嬉しく思います。自分に、次期公爵夫人が務めるのかはわかりませんが……」
「大丈夫ですよ、マルティア嬢なら。そこに関しては、僕を信じてください」
「わかりました。もちろん、これからお互いの家で話し合う必要はありますが……今はその手を取らせてください」
「ありがとうございます……」
私の返答に、ラウエル様は笑顔を浮かべてくれた。
その笑顔は、先程までと比べると少し柔らかい。やはり彼も、緊張していたようだ。その笑顔からは、それが読み取れる。
ラウエル様となら、良き夫婦となれるだろう。バルクルの時と違って、私はそのように安心することができていた。
色々とあったが、彼と巡り会えたのは本当に幸運なことだったといえる。私は改めてそう思うのだった。
END
「理解……そうですね。そうなのかもしれません」
フェルディス伯爵家との一件が一段落してから、マートン子爵家の屋敷にラウエル様が訪ねてきた。
そんな彼に私は、気になっていることを聞いてみる。それはバルクルのことだ。ラウエル様は彼に対して言葉をかけて、その牙を抜いていた。あれは一体、どういうことだったのだろうか。
「彼は少し幼稚な人間でしたから」
「幼稚な人間? なるほど、言われてみれば……」
「いいえ、これはマルティア嬢にはわからないことだと思います」
私の言葉に、ラウエル様は首を横に振った。
彼とバルクルは似ても似つかないと思うのだが、案外そうでもないのだろうか。ラウエル様の口振りからは、なんとなくそんな気がした。
「バルクル伯爵令息は良くないことをしましたが、僕はこれ以上彼を辱めようとは思いません。ですから、そのことについて聞くのはどうか勘弁していただけませんか?」
「……そうですね。私としても、もうバルクルに対して激しい怒りは覚えていません。あの涙を見てしまったら、感情的にはもういいと思ってしまいます。もちろん、貴族としてフェルディス伯爵家には対価を払ってもらう必要があると考えていますが」
バルクルに対する怒りは、もうそれ程残っていない。彼はあれからすっかり意気消沈しているようだし、少なくとも感情の面で責める気持ちはなかった。
私がバルクルの内面を理解することが、彼のさらなる屈辱に繋がるなら、追及するのはやめておくことにしよう。それが私のせめてもの情けというものだ。
「マルティア嬢、あなたはやはりお優しい人ですね」
「優しいなんて、そんな……」
「そんなあなたに、一つお願いがあります。僕と婚約していただけませんか?」
「……え?」
ラウエル様がいつも通りの笑顔で発した言葉に、私は固まることになった。
彼は今確かに、婚約と言った。私と彼が婚約する。それはすぐに噛み砕けることではなかった。
「ラウエル様、一体何を……」
「言った通りです。僕はあなたを妻に迎えたいと思っています。あなたは貴族としての自覚をしっかりと持ったお優しい方です。そんなあなたが僕の妻になってくれたら、とてもありがたい」
「……そ、そんなに私のことを評価していただけているなんて思っていませんでした」
ラウエル様の真っ直ぐな目に、彼が嘘偽りを述べている訳ではないとわかった。
自分がそこまでの高評価に値する人間であるかは、よくわからない。ただそれでも今は、自身の素直な気持ちを伝えるべきだろう。彼もそれなりの勇気を持って言葉を発したはずだ。私にはそれに応える義務がある。
「しかし優しいというなら、ラウエル様の方です。今回の件において、あなたはすっかり助けていただきました。あなたは紳士的で素晴らしい方です。そんなあなたの妻になれるのなら、私は嬉しく思います。自分に、次期公爵夫人が務めるのかはわかりませんが……」
「大丈夫ですよ、マルティア嬢なら。そこに関しては、僕を信じてください」
「わかりました。もちろん、これからお互いの家で話し合う必要はありますが……今はその手を取らせてください」
「ありがとうございます……」
私の返答に、ラウエル様は笑顔を浮かべてくれた。
その笑顔は、先程までと比べると少し柔らかい。やはり彼も、緊張していたようだ。その笑顔からは、それが読み取れる。
ラウエル様となら、良き夫婦となれるだろう。バルクルの時と違って、私はそのように安心することができていた。
色々とあったが、彼と巡り会えたのは本当に幸運なことだったといえる。私は改めてそう思うのだった。
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沢山の作品にお邪魔しています。
1部の《父の長姉》《伯爵の長兄》が気になって……本人達のおば、おじになってしまうので
ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。